Starry☆Sky | ナノ
空がどんより曇っていて、今にも雨が振り出しそうな昼下がり。久しぶりに生徒会の集まりはなく、どうせなら名前と生徒会室でいちゃいちゃするか!と、思っていたんだが…。さっきからどこを探しても名前は見つからない。ったく、こんなに寒い日は廊下をうろちょろせずに生徒会室のストーブの前で名前と暖まりたい。身を切るような寒さの廊下を、俺はスボンのポケットに手を入れながら歩く。
そういえば、最近あいつにかまってやれる時間がなかったよな…。名前はすぐ俺に遠慮する。聞き分けのいい彼女でいたいつもりなんだろうけど、俺からしたら、もっとわがままになってもらいたい。寂しいなら、寂しいって言えばいいし、逢いたいなら、逢いたいと言ってもらいたい。

ふらふらと廊下を歩いていると、どこからか焦げ臭い匂いがした。…?食堂からか?だが、食堂から焦げ臭い匂いがするなんて、通常ありえないことだ。恐る恐る食堂の扉を開ける。中からは、ソプラノ声の鼻歌と、あの廊下まで漂っていた焦げ臭い匂いがした。


「…名前?」
「〜♪」


何かを作るのに夢中になっているのか、名前は俺が来たことに気がつかない。鍋の中で混ぜているのは…チョコレートだった。甘いチョコレートの匂いはなく、焦げ臭い匂いに混ざって、苦いチョコレートの匂いがした。…あいつ、あんなに真剣になに作ってんだ?つーか、オーブンを見ろ!!この焦げ臭い匂いに気づかないのかよ!!


「よっし、上手くできた」
「(いやいや、オーブンを見ろって)」
「こっちはどうかな〜?」
「(おお!気づいたのか!?)」
「…あれ?こんなに黒くなるんだっけ?」
「(焦げてんのに気づけよ!)」
「ま、いっか」


またさっきから歌っていた鼻歌を再開し、名前はオーブンに入れてあった真っ黒な物体を取り出そうとした。…つーかあいつ、素手で取ろうとしてねーか?鍋つかみとかはどうしたんだよ!?すでに限界だった俺は、思わず隠れていたことも忘れて叫んだ。


「触るな!」
「うぇっ!?え?一樹?」
「素手で触ったら火傷するだろうが!」
「あ、あの、これは…」
「ほら、俺が取り出すから、お前は見てろ」


台の上に放置されていた鍋つかみを手につけ、俺はオーブンから真っ黒な物体を取り出す。焼けすぎてなんかプスプス言ってるぞ…。いまだに正体が分からない物体を台に置き、名前にどういうことか説明してもらおうと振り返ったら、瞳に涙をためた名前がいた。


「どこか火傷したのか!?」


俺が聞いても、勢いよく首を横に振るだけで、なにも答えない。ったく、どうしたんだよ…。とりあえず、今にも泣き出しそうな名前の頭を撫でる。ゆっくりと、いつもみたいに豪快にじゃなく、名前の髪を上から下へ流すように撫でる。しばらくそうしていたら、落ち着いたのか、名前はぽつり、ぽつりと今までの経緯を話し始めた。


「あの、ね…最近、一樹が生徒会で忙しそうだったから、何か差し入れを作ろうって思ったの」
「…俺に?」
「うん。一樹は甘いものが苦手だから、東月くんや宮地くんに甘くないケーキの作り方教えてもらって…」


ああ、これはケーキだったんだな。甘い匂いがしないチョコレートは、きっとビターチョコなんだろう。なんつーか…目の前にいる名前が愛おしくて仕方がない。俺にこうして健気に尽くしてくれる名前を、愛おしく思わないわけがない。俺のために、か…。


「ありがとな…」
「でも、失敗しちゃった」
「バーカ。失敗なんかしてねーよ。お前が俺のために作ってくれたのに、失敗とか言うなよな」
「でも、」
「でもじゃない。これは俺が貰う。そうだな、今度は二人で一緒に作るか」
「え?いいの?」
「ああ」


俺が頷くと、名前は「嬉しい」と言って笑った。本当、可愛い奴。…俺のために作ってくれたのは嬉しいが、一つだけ気に入らないことがある。東月や宮地に聞いたって…俺がいない間に、いつの間にかあいつらとそんなに仲良くなったのかよ。名前の世界が広がるのは嬉しいが、あまり男友達が増えるのはいただけない。つーか、俺がそろそろ限界だ。一体、何日間逢えてなかったって言うんだよ。


「なぁ、」
「?」
「俺に逢いたかったか?」


逢いたかった、寂しかった、そんな言葉が欲しかった。俺がいない時間を、寂しい、と感じながら過ごしてほしかった。俺はもちろん、逢いたかったったし、寂しかった。一人で残された生徒会室から見上げた星空は、やっぱり名前と一緒に見上げた星空ほど綺麗だとは感じなかった。


「…本当は、すっごく逢いたかった。だけど、一樹は忙しいし…わがままばっかり、言ってちゃダメだって思って…一樹の負担になりたくなかったの」
「本当にバカだな」
「なっ!?」
「俺にはわがまま言っていいんだよ。つーか、もっと甘えてくれ。俺はそれが嬉しいんだからさ」
「…ほんと?」
「ああ。お前からのわがままだったら、父ちゃん、いつでも大歓迎だ!」


ぶっちゃけると、名前にわがままを言ってほしいっていう俺のわがままなんだけどな。だが、こいつは俺に甘えることを知らない。俺はいつも名前に甘えてばかりだ。忙しさを逢えない理由にして、長い間名前のことをほったらかしにしていた。今度は、お前が俺に甘える番だろ?

俺は、名前の前髪を払って、おでこにキスをした。久しぶりに照れた顔の名前を見れて、満足したのは言うまでもない。







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12/12/26
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