Starry☆Sky | ナノ
犬飼とあたしは、俗に言う友達以上恋人未満っていう関係なのかもしれない。


「そろそろ代われよー」
「うっさい。なんでコントローラーが一個しかないのよ」
「実家に置いてきたんだよ。今度の休みには取りに行ってくる」


今日も放課後は犬飼の部屋でゲーム。あたしと犬飼は同じ神話科で、普段はあたしと犬飼と青空の三人で一緒にいる。だけど、青空は生徒会で忙しいし、犬飼は弓道の練習で忙しい。だから、あたしは放課後暇になる。でも、犬飼が部活のない日はこうしていつも犬飼の部屋でゲームをしてダラダラ過ごす。

前に「放課後がつまらない」って犬飼に話したことがあったから、犬飼はそれを気にしてくれているんだと思う。あたしも何か部活に入ろっかなーって思うけど、体力ないし人見知りだから無理。


「名字、なんか飲む?」
「ココアー」
「はいはい」


気づけば、さっきまで明るかったのに、もう夕焼け空になっている。…なんか、眠くなっちゃったな。コントローラーは放り投げ、あたしは座っていたでっかいクッションに横になった。座ってゲームをしてたら、床が冷たくて嫌って言った次の日に、犬飼が用意してくれたもの。なんていうか…犬飼は優しい。あたしに甘い。だからあたしもついつい甘えちゃうんだよ…。

あーダメだ、眠い。きっと寝たら犬飼に怒られちゃうんだろうけど…。別に犬飼だし、いっかぁ。そう思って、あたしは重たくなったまぶたを閉じた。


「……マジかよ」
「…すー…すー…」


ココアと、ついでに宮地がうまいって言って勧めてきたうまい堂のケーキを用意して戻ってきたら、名字が寝ていた。つーか、なに安心しきった顔で寝てんだよ。俺が男だってこと分かってねーだろ。名字の中じゃ、俺は男だって認識されてねーのかもな。


「起きろー」
「…ん………」


軽く肩をゆすってみても、名字は起きない。…つーか、この体制…何気に危なくねーか?夏服から伸びる綺麗な素足、暑いからといってボタンを閉じていないブラウスの胸元。…少しは警戒心持てっての。

最初に声をかけたのは、俺だった。星月学園に二人しかいない女子のうちの一人が、神話科に来たと聞いて少なからず興味を抱いた。だってよ、この男だらけの学園に入学してきたんだろ?一体どんな性格の持ち主だよ。それが俺の印象だった。夜久みたいに幼なじみがいるならまだしも、名字はこの学園に知り合いはいないみたいだった。
教師の話を聞いていたとかなんとかで、俺たちよりも遅れて教室に来た名字。そのとき、初めてちゃんと名字のことを見た気がする。俺が予想していたのとは大きく違って、男ばかりの環境に一人で不安になってびくついている女の子だった。

幸か不幸か、そいつは俺の隣の席で、反対側に座っていた奴に羨ましがられたのを覚えている。


「なぁ、名前なんて言うの?」
「…名字、名前です」
「俺は犬飼隆文。なんか困ったことがあったらいつでも言えよ?」
「!? …ありがとう」
「おう!」


それが俺と名字の初めての会話だった。それから自然と俺はこいつにかまうようになった。移動教室や、昼休みのときは必ず名字に声をかける。最初はとまどっていた名字だったけど、しばらくすれば慣れた。で、今みたいな関係になったわけだが…。


「無防備すぎんだろ」


…今だに、こいつは教室では俺と青空以外とはあまり喋ろうとしない。夜久とは楽しそうに喋っているのは見かけたことがあるけどー…こいつ、俺たち以外に友達いんのか?名字のことが心配になりつつも、俺はどこかで優越感を抱いていた。俺も男だから、こうして女子に頼られるのは嫌じゃねー。むしろ、嬉しい。

だけど、いつからか、この関係のままでいるのが嫌になった。こいつにとって、俺は友達のままなんだ。なんつーか、異性として見られてない。こうやって安心しきった顔で俺の部屋で寝ているのがいい証拠だ。


「…名字ー起きろー」
「…んー……」
「名字ー」
「………。」
「襲っちまうぞー」
「……ん…」

「…名前」


ぱちくりと名字のでっけー目が開いた。ふあ〜と大口開けてあくびをする名字に呆れながら、氷が溶けて水っぽくなったココアを差し出す。「ありがとう」と言ってそれを受け取った名字。どうやら、俺が下の名前を呼んだことはバレていないらしい。つーか、起きるタイミング良すぎんだろ。


「今、何時?」
「19時だ。夕飯食いに行くか?」
「えー犬飼が何か作ってよ」
「あのなぁ、そこは普通女子が作ってくれるもんだろ」
「ごめんね、犬飼。あたし、中学のときの家庭科の成績…オール2なんだ」
「…食堂行くか」


名字が散らかしたゲーム機を部屋の隅に寄せて、玄関に向かう。後ろから「待ってー」と、脱ぎ捨てていた靴下を慌ててはく名字。…俺がお前を置いていくわけねーだろ。なーんてことも言えるわけがなく、「早くしろよー」と言いながら靴を履く。


「待ってってば、バカ犬飼」
「バカにバカって言われたくねーよ」
「痛っ!?…でこぴんすんなー」
「うっせ」


今はまだ、この曖昧な関係のままでもいいのかもしれない。だけど、いつかこのままでいられなくなる。名字は気づかねーかもしんねーけと、俺、もうそろそろ限界だわ。つーわけで、覚悟して待ってろよ?






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いつか続きが書きたいです。

12/12/16
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