透き通った青空に、蝉の鳴き声が響く。山の向こうでは、真っ白な入道雲がその存在を主張していた。星月学園に、夏がきた。

インターハイ出場を決めた弓道部は、夏休みに入ってから毎日夜遅くまで練習している。私は弓道部に差し入れをするために、朝から食堂で大量のおにぎりを作っていた。鮭にたらこに梅干し…あ、ツナマヨも作ろう。あと少しでお昼の時間。それまでに、この大量のおにぎりを弓道部の部室まで運ばなくちゃいけない。だけど、数がまだ全然足りない。月子ちゃん以外は、みんな食べ盛りの男の子。だから、いっぱい作らなくちゃいけないんだけど…間に合うかな?


「あと何個作ればいいんだろう…?」

「手伝いましょうか?」

「え?」


声がした方を振り向けば、エプロン姿の東月くんがいた。どうしてここに?東月くんとは、入学式以来まだあまり喋っていない。月子ちゃんと一緒にいるのをよく見かけるけど、でも、目は合わない。きっと、わざと合わないようにしているんだと思っていた。だけど、今目の前にいる東月くんは、優しい顔で笑っていた。


「いつも弓道部に差し入れを?」

「どうして分かったの?」

「見れば分かりますよ。それに、月子が今日も練習があるって言っていましたから」


そう言うと、東月くんはシンクで手を洗い、おにぎりを作り始めた。すごい…!東月くんは手際よくおにぎりを握っていく。それを見ていた私も、負けじとおにぎりを握っていく。しばらく無言でおにぎりを握っていると、東月くんが口を開いた。


「昔から、料理上手でしたよね」

「覚えていてくれたんだ」

「だって、俺は名前先輩から料理を教わりましたから」

「たいしたレシピじゃないけどね」


そう、私は東月くんに料理を教えたことがあった。不知火家で家事を担当していた私は、毎日、朝ご飯とお昼のお弁当、それに夜ご飯も作っていた。だから、昔から料理は得意分野の一つ。

月子ちゃんと東月くんと七海くんが一樹と遊んでいたときに、一樹と三人にお昼ご飯を作ってあげたときが何回かあった。そのとき、東月くんに料理を教えてほしいと言われて、三人が遊びにきたときには、一樹と月子ちゃんと七海くんだけ外で遊んで、東月くんは家で私と一緒に料理をしていた。幼なじみ二人に、美味しいって言ってもらいたいから作るんだって東月くんは言っていた。すごく…懐かしい。


「今でも料理を?」

「時々だけど、こうして弓道部のみんなに作ったり、一樹に作ったりしてるの。東月くんは?」

「毎日、二人にお弁当を作っていますよ。時々、お菓子も一緒に」

「東月くんの料理、食べてみたいな」

「今度、名前先輩にも何か作りますよ」

「本当に!?楽しみにしてる!」


なんだか、すごく不思議な気分。ずっと気まずいままだった東月くんと、こうして二人で並んで料理を作っている。昨日までの私には、想像もできなかっただろうなぁ…。なんとなく、昔に戻れたみたいで嬉しかった。だから私は「一樹のことは、まだ許せない?」と東月くんに聞いた。すると、東月くんはおにぎりを握っていた手を止めて、眉間にしわを寄せた。…まだ、一樹のことは許せないんだ…。余計なこと聞いちゃったな。


「ごめんなさい。私ー…」

「名前先輩は悪くないですよ」

「でも、」

「そうだ。また昔みたいに錫也って呼んでくれませんか?」

「え、いいの?」

「はい!」


さっきの険しい顔が嘘のように、東月くんは優しく微笑んだ。確かに、また錫也って呼べたらいいなって思っていたけど…。東月くんも私のことを下の名前で呼んでくれているから、私が呼ばないのも変だよね。私はその言葉に甘えて「錫也」と呼んだ。そしたら錫也はまた笑って「はいっ」と返事をしてくれた。周りの人からしてみれば些細なことかもしれないけど、私にとっては、とても嬉しいこと。ずっと会っていなかった幼なじみに、再会できたみたいな気持ちになる。嬉しくて潤んだ瞳から涙が零れないように、私は目をこすった。


「あ〜…腹ヘったー錫也ーまだか?」

「あ、哉太」

「なんだこの大量のおにぎり?つーか、あんた…」

「七海くん」

「それだ!それ!あんたに七海くんって呼ばれるとすっげー鳥肌が立つ!」


そう言って、七海くんは二の腕を手のひらでさすっていた。えっと、つまり、じゃあ、七海くんのことも昔みたいに哉太って呼んでいいってこと?錫也の方を見れば、優しい笑顔でコクリと首を縦に動かした。恐る恐る「哉太」と呼ぶと、哉太は「そうだよ、それそれ!」と言って笑った。ホッと安堵の息を漏らす。よかった…哉太に嫌われていなくて。


「つーか、俺が頼んどいたのは?」

「それが、食堂に来たら名前先輩が一人で大量のおにぎり握っていたから、手伝っていたんだよ。そしたら、哉太のこと忘れてた」

「んなっ!?なんだよそれー」

「よかったら、二人も弓道部のみんなと一緒に食べる?」

「いいんですか?」

「うん!」

「マジかっ!ラッキー!」


それから錫也と手分けして残りの具材を使っておにぎりを握った。握ったおにぎりを錫也と哉太が弓道部の部室まで運んでくれた。部室にいた月子ちゃんは、二人の登場にとても驚いていたみたいだったけど、私と二人が仲良くなったことを知ると、「嬉しいっ!」と言って笑った。その笑顔に私たちは救われる。月子ちゃんが笑っていてくれるから、また私たちは仲良くなれたんだよ。ありがとう、月子ちゃん。





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13/04/24

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