:: 透明な君に恋をした | ナノ



「会長、真面目に仕事して下さい」

「颯斗!名前が生徒会室に来たんだ!早くお茶を出せ!」

「はいはい」


この前不知火先輩に生徒会の雑用だと言われていたのをすっかり忘れていて、そのことについて聞きに来たらこの歓迎。…帰りたくなった。この前聞いた哉太からの話で、まだいろいろ整理がついていない私の脳みそに余計な情報を入れるのはやめてほしい。ただでさえ、人より記憶力が悪いのに。ちなみに、今日は夜久さんは部活があるから生徒会に来ない。その辺は、颯斗に聞いて調査済みってわけ。この場に夜久さんがいたら、私は不知火先輩と夜久さんの二人を一気に相手にしなくちゃいけなくなるから、それだけは勘弁してほしい。


「で、雑用って何なんですか?」

「まぁ、あれだ。父ちゃんのために美味いコーヒーを淹れたり、肩を揉んだりだな」

「あ、天羽久しぶり」

「ぬぬ、でか眼鏡先輩久しぶりなのだ!」

「母さん!娘が反抗期だ!」

「…母さんとは、僕のことでしょうか?」


つまり、不知火先輩の雑用ってことじゃん。それはお断りします。不知火先輩の雑用をするくらいなら、天羽の実験に付き合った方がマシ。天羽とは、颯斗を通して知り合ったんだけど、知り合ったその日から質問責め。どうしてそんなにぼさぼさヘアーなのだ?とか、どうして眼鏡のレンズがそんなにでかいのだ?とか。挙げ句の果てに、私に付いたあだ名はでか眼鏡先輩。意味が分からない。不知火先輩のことはぬいぬい、颯斗のことはそらそら。私にもそれくらいマシなあだ名を付けてくれてもいいじゃないか。なんて天羽に言っても無駄なわけで。頭を撫でてほしいという天羽の要望に仕方なく答える。


「コラッ!翼だけずるいぞ!名前、俺の頭も撫でてくれ」

「そのブーメランな前髪をへし折ってもいいのなら」

「母さーん!!!」


颯斗に泣きつく不知火先輩って本当に颯斗よりも年上なのかな?精神年齢低すぎるよ、うちの会長は。まぁ不知火先輩のことはほっとおいて、颯斗に仕事の内容を聞く。と言っても、どうやら私は正規の役員じゃないからほとんど仕事がないらしい。じゃあ、どうして生徒会雑用に任命されたんですか…。なんてことを颯斗に聞けば、颯斗はいつもの優しい笑顔で「名前さんが生徒会にいれば見張っていられるでしょう?」と、とんでもなく真っ黒な発言をした。つまり、颯斗の言ったことを簡単に訳すとその辺で喧嘩なんかしていないで、学校に来いって意味だと思う。一年一緒にいるだけで、ここまで颯斗の言葉に込められている意味を理解出来るようになってしまったのが、少しだけ辛い。


「そういえば、変な噂聞いたぞ!」

「変な噂、ですか?」

「お、なんかおもしろそうだな」


…嫌な予感がするのは私だけなのかもしれない。天羽、いい子だからお姉さんの隣に来なさい。ほら、飴玉あげるから。と飴をちらつかせてみても天羽は見向きもしない。こいつ…!そう、最近学園に回り始めた噂。きっと前みたいにすぐに収まるだろうと思っていたけど、どうやら今回はそうはいかなかったらしい。


「でか眼鏡先輩はS4っていうのに入ってたって聞いたぞ!S4ってなんだ?おもしろいことか?」


シャラープッ!天羽、それ以上喋るのはやめようか。ほら、颯斗に喧嘩したことがバレちゃうでしょ、ね?…まぁ、もう遅いですけどね。振り返らなくても後ろにいる颯斗がどす黒いオーラを出していることは分かるんです。ここに隆文がいたら火に油を注ぐことになっていたかもしれない。いや、でもね?これでも、喧嘩するのは我慢していたんだよ?颯斗が女の子らしく過ごせって言うから、一週間に一回はしていた喧嘩を、二週間に一回にしたんだよ?それに、今回は相手が多かったし、哉太も一緒にいたからね?ほら、どこも怪我してないし!だから、その真っ黒な笑顔はやめてほしいなー…なんて。あははは。


「言いましたよね?次に喧嘩をしたら、お説教だと」

「い、言ってたっけ?」

「言いましたよね?」

「うん!言った、言った!超言ってた!」


こんなに天気が良い青空でも、雷が落ちることってあるんですね。それからたーっぷりと颯斗のお説教をくらった。あのときの不知火先輩の哀れむ目を私は一生忘れない。覚えとけよ。でも、なんやかんやとお説教しても颯斗は最後に「名前さんに怪我がなくて良かったです」って言ってくれる。その一言で、やっぱり喧嘩はほどほどにしておこうって思うようになる。ほどほどにだよ、ほどほどに。やっとお説教が終わって、颯斗がいれてくれたすっかり氷が溶けてしまった水っぽいアイスティーを飲む。こんなことなら、先に飲んでおけばよかった。


「で、名前はS4の一人だったのか?」

「…昔のことです」

「S4…前にどっかで聞いたことあるんだよな……」

「噂じゃなくて、ですか?」

「あー…ダメだ。誰が言ってたか思い出せない」


…そのまま思い出さないで下さい、不知火先輩。というかむしろ今までの記憶とかもついでに思い出せなくなればいいのに。…はぁ。一年生の天羽の耳にまで入ったってことは、きっとあいつの耳にも入っているよね。もう二度と関わるな!ってあいつに言ってから、随分経つ…。
そう、実はS4の四人組のうち二人はこの星月学園にいるのです。あたしとそいつはちょーっと…いや、もう顔も見たくないほど仲が悪い。というか、喧嘩別れした。そいつの耳に私がS4だとバレた情報が入ると、そいつが「ざまぁ!」と言っている気がしてすごくむかつく。きっと生徒会長を殴って退学しても、その怒りは収まらない。どうしてこうなったんだろう…。私はただ、平和な学園生活を送りたかっただけなのに。


「アイスの差し入れだぞーって、名前もいたのか」

「名字先生、いつもありがとうございます」

「名字、俺メロンがいい」

「俺はオレンジ〜!名字、ありがとう」

「お前ら、先生付けるの忘れてるぞ!」

「翔、いちご」

「なんか翔いちごみたいな品種になってるからな!それ!」


さて、これからどうしようかな?とりあえず、あいつが何も言ってこないならしばらくは大丈夫だろうし。とりあえずは、モブ子のままでいよう。もし、噂が本当か聞かれても全否定しよう。あ、いちごおいしい。






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12/11/07




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