:: 透明な君に恋をした | ナノ



今日は暑い。いつの間にか満開の桜並木は青々と青葉で茂っていた。どおりで暑いはず。他のみんなが徐々に夏服に変わっていく中、私だけはいまだに冬服でいた。…去年に引き続き、今年もこれからの季節を生き抜いていけるか心配になってきた……。中学生のころにやんちゃをしていた私にはたくさんのっていうわけでもないけど秘密がある。一つは喧嘩が強いこと。もう一つは耳にあるピアス穴。実はもう一つあるんです。これが夏服が着れない最大の理由となっている。…暑い。なんだかイライラしてきた。アイス食べたいな…。


「またお前は今年も冬服か?」

「…出た、不知火先輩」

「父ちゃんはお前の夏服が見たいんだ」

「そんな真剣な顔で言われてもお断りします」


フラフラと廊下を歩き回っていた私のバカ!おかげで不知火先輩に見つかったじゃないか!というか、先輩はいつから私の父親になったんだ。気持ち悪い。私の父は不知火先輩よりももっと落ち着いてて物静かな人だ。翔とは正反対の。
不知火先輩に見つかってしまっては仕方がない。逆にこれを利用しようと考えてしまうのが私の悪い癖でありまして。ええ、奢ってもらいましたとも。購買でアイスを。「お父さん、アイス食べたい」と言ったら不知火先輩はアイスを買ってくれた。…半分冗談だったんだけれど。まぁ、奢っていただいて悪い気はしないわけで。少し不知火先輩に付き合うことにした。


「で、いつになったらその眼鏡を取るんだ?」

「不知火先輩がハゲたら」

「残念だったな!俺の家系はハゲん!」

「残念ですね、先輩の頭が」

「どうしてお前はそう俺に冷たいんだ?父ちゃん寂しいぞー」

「地球最後の日になったら、アイス奢ってあげますよ」

「本当かっ!?」


あ、この人本当に残念な人だ。というか、不知火先輩。はっきり言うとあれです、こういうのなんて言うんだっけ…えっと…あ、ウザい、だ。そう不知火先輩に言うと、ショックを受けたのかしゃがみ込んで地面にのの字を書き始めた。なんて分かりやすい落ち込み方なんだろう…。だけど、今の私には不知火先輩をかまってあげるほどの優しさが足りないんです。アイスを食べ終わってしまったからには、もう私にはイライラしか残っていない。あー…こんなときに、誰かを殴りたくなってしまうのはいけないって思う。だけど、今までこれでストレスを発散してきた。目の前には、普段から近づきたくないと思っている不知火先輩。…よっし。
あ、でも、この人は仮にも生徒会長。生徒会長を殴ったと周りにバレたら、ますます目立ってしまう。…こうしよう。屋上で声をかけてきた上級生を殴る。キタコレ。これなら正当防衛の言い訳が出来る。


「先輩、アイスごちそうさま」

「おう!」

「少し用があるので、先輩は校内巡回でもしていて下さい。なんて言ったって、みんなから頼られる生徒会長ですからね」

「…名前!ようし、父ちゃん頑張ってくるぞー!」


…そう言って肩を回しながら会長はどこかに行った。単純というか、扱いやすいというか…おかげで私は自由に動ける。とりあえず、殴られてくれそうな上級生を探して屋上庭園に向かった。


「…誰もいないじゃん」


屋上庭園に来てみたものの、誰もいない。ただでさえイライラしているのに、外に出たことで余計に暑くなったことと、屋上庭園に誰もいないことで、イライラが増す。チッと舌打ちを鳴らしてみても虚しく響くだけ。隆文がいたら殴れるのに…。颯斗…あ、颯斗探してピアノ弾いてもらおうかな。颯斗はまだまだだって言うけど、颯斗のピアノはピアノをまったく触ったことがない私でも分かるくらい綺麗な音色を奏でている。よっし、颯斗探そう。そう思って、屋上庭園を出ようとしたら誰かが来た。


「…げ」

「…あ、」


えっと、誰だっけ?夜久さんの幼なじみの一人で喧嘩が強いっていう…あ、七海哉太だ。ん?喧嘩が強い…。喧嘩が強いっていうことは、殴ってもいいってことだよね?そうだよね、颯斗。うん、脳内の颯斗が笑顔で「そうですよ」って言ってくれた気がしたから、そうなんだ。よっし、七海と喧嘩をして日頃不知火先輩から受けているストレスを発散しよう。ついでに夜久さんにあまり近づかないでもらえるように言ってもらおう。まさしくこれが一石二鳥というものなんだね。


「…七海」

「あ?なんだよ」

「喧嘩しよう」

「…はぁ?」


分かるよ、分かるよ七海。七海がはぁ?って言いたくなる気持ちが。いきなりあたしみたいな女子生徒に喧嘩しようって喧嘩を売られても、こいつ頭おかしいんじゃないのか?って思うよね。だけど私の頭はもう十分おかしい。日頃お前が夜久さんを野放しにしているせいだ。そうだね、そうだよね。まぁ、とにかく誰でもいいから誰か私のストレスを発散してくれませんか?ということで、運悪く相手が七海になってしまっただけなんだよ。ごめんね。


「お前何言ってー…って、うおっ!?」

「チッ」

「いきなり蹴り出してくんなよな!っいよっと!」

「大人しく蹴られてよ」

「はいはい大人しく蹴られますよーなんて言う奴がいるかっつーの!」


ひょいひょい私の蹴りを交わしていく七海。七海が喧嘩強いっていう噂は本当なのかも。…というか……楽しい!あーやっぱり私にはこれだよね。平和な学園生活よりも、サバイバルな日常の方がしっくりくるのかもしれない。あいつに誘われてなかったら今ごろ星月学園に入ってなかったのに!あいつが私を騙してホイホイ試験を受けさせたのが悪い。なんて昔のことを思い出しながらも、七海に蹴りを出すのは止めない。一度あたった蹴りの重さで、七海は私が喧嘩慣れしていることが分かったのか、避けるだけじゃなくって腕を使って防御する。…なかなかやるじゃん。


「七海くん、見ぃつけた」

「あれ?もしかしてモブ子もいるの?」

「うわー。七海は幼なじみだけじゃ物足りねーのか」

「だからってモブ子って…ぶふっ」

「モブ子ちゃーん、ごめんね?俺ら、七海に用があるんだ」


七海に蹴りを入れるのに夢中で、屋上庭園に近づいていた気配に気づかなかった。それは七海も同じみたいで、いつの間にか私たちは囲まれていた。相手は7、8人。って、七海一人だったらこいつら卑怯じゃん。自然と背中合わせになる七海と私。さて、これからどうする?






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12/11/05


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