:: 透明な君に恋をした | ナノ



「というわけなんで、かくまって下さい」

「知るか。授業に出ろ」

「先生の鬼!人でなし!鬼畜!」

「不知火呼ぶぞ」

「すみません」


というわけで、今は五時間目。つまり授業中。授業中なのになぜ保健室にいるのかは察してもらいたい。中学生のころ、学校をサボってばっかりだった私のサボり癖はなかなか治らず、一日一回はこうしてサボらないと落ち着かない。琥太郎先生に診断された結果、病名はサボり中毒。ふざけてない。私はいつでも大真面目です。これでも丸一日サボらなくなっただけマシだと思ってもらいたい。なにせ、星月学園に入学してから授業をサボれば颯斗にお説教され、学校を休めば不知火先輩が寮の部屋まで来る。私の心安らかな休息はどこへ行ったのやら。

保健室にいれば不知火先輩には見つからないし、一時間だけなら颯斗にもあまり怒られない。それに五時間目が終われば、今日の授業は終わる。そのまま寮に帰ってしまえば、不知火先輩に見つかることはない。不知火先輩に秘密がバレてから、あの人は毎日のように放課後教室に来るようになった。本当に目立つからやめてほしい。クラスのみんなにまで変な目で見られるようになったら、しばらく立ち直れない。という正当な理由があって保健室に来ているのに、ここの保健医は私に冷たい。


「琥太郎先生、不知火先輩ってバカなんですか?」

「オレに言わせてもらえば、不知火よりもお前の方がバカだよ」

「ひどい、琥太郎先生…ぐすん」

「下手な泣き真似はいらない」

「チッ」


あ、舌打ちなんてしたらまた颯斗に怒られる。颯斗の怒る内容なんてもう何回も聞きすぎて覚えてしまった。まず「名前さんは女性なんですから〜」から始まる。颯斗は一体どんだけ上品な女の人に囲まれて育ってきたんだろう。まぁ、そんな風に女にピュア幻想を抱いている颯斗が嫌いではないよ。逆に隆文はもっと私を女として扱ってほしいくらいだ。あ、隆文と颯斗を足して2で割るとちょうどいいかも。なんてバカなことを考えながら、保健室の簡易キッチンでお茶を沸かす。琥太郎先生がお茶さえ出せば、サボりを見逃してくれるのはいつものこと。


「そういえば、あいつは?」

「あいつ?」

「翔のことだ。あいつもこの時間帯は授業がないから保健室に来るんだが…」

「琥太郎!ケガした!」

「噂をすれば、だな」

「チッ」


本日二回目の舌打ちは盛大に響いた。私には、兄が一人いる。それがこの名字翔。よく「しょう」って読み間違えられるたびに「しょうじゃなくて、かけるだ!」って生徒に向かって叫んでいる。…叫ぶほどのことじゃないと思うけど。私と翔が兄妹だということは、先生たちと隆文と颯斗しか知らない。ちなみに、琥太郎先生と翔は高校からの同級生。私は入学式で翔が星月学園の教師だと知った。それまで翔はアメリカに留学したままだと思っていたけど、どうやら翔は春に戻ってきて星月学園の教師になったらしい。
翔には星詠みの力があって、この学園で星詠み科の教師をしている。アメリカに留学していたのも、その力のためだった。でも本人曰く、翔の星詠み力はとても弱くてあまり未来は視えないらしい。視えるとしたら、次の日の天気くらいだって言っていた。


「名前、またサボりか?」

「翔には関係ない」

「翔じゃなくてお兄ちゃんと呼びなさい。もしくは先生!」

「は?」

「名前は恥ずかしがり屋だからな」


なんて言うか、翔は不知火先輩に似ているところがあると思う。なんていうか、その、年中頭の中は花が満開みたいな感じ。宇宙人と会話している気分になる。琥太郎先生、こんな兄と仲良くしてくれて…じゃなくて、こんな兄の面倒をみてくれてありがとうございます。ついでにいつも私の面倒もみてくれてありがとうございます。それから先生がさっきまで使っていたベッド借りますね。


「どさくさに紛れて寝るな」

「琥太郎先生のケチ」

「それにそのベッドは俺が今から使う」

「さっきまで寝てたくせに」

「何か言ったか?」

「文句しか言っていません」

「よし、翔。不知火呼んでこい」

「すみません」


保健室に来てから何回謝っているんだろう。というか、私が何か言うたびに不知火先輩を召喚しようとするのはやめてもらいたい。…いざとなったら、琥春さんを召喚すればいいのか。そんなこんなでぐだぐだしていたら、五時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。さてと、そろそろ帰ろうかな。他の生徒が来たらアレだし、不知火先輩が来たら面倒だし。あらかじめ持ってきていたカバンを取って、「失礼しましたー」と言ってドアを開く。開いた先にいた人物を見た瞬間、ドアを閉めて鍵をかけた。…この学園で二番目に関わりたくない人物がいた気がする。誰か気のせいだと言って。


「どうした?帰るんじゃなかったのか?」

「俺と一緒に帰りたいのか?」

「黙れ。いや、ちょっと廊下に」

「名前ちゃん!?名前ちゃんだよね!ちょうどよかった!一緒に帰ろう!」

「…夜久さん」

「なぁに?」


夜久さんだ。私からは極力近づかないようにしているのに、そんなこともおかまいなしに近づいてくる夜久さん。というか、ストーカーじゃないかと思う時期もあったくらい。よく分からないけど、夜久さんは私とどうしても仲良くなりたいらしい。夜久さんと仲良くなることで目立ちたくなかった私は、適当に冷たくあしらっていたんだけど…なぜか逆に夜久さんのやる気に火をつけてしまったらしい。今となっては意地でも私と仲良くしようと、私を見かけるたびに走って追いかけて来る。不知火先輩といい、夜久さんといい、この学園には変な人が多い。
というわけで、どうしても夜久さんと帰りたくない私は、ドアから出るのを諦めて窓から出ることにした。窓から抜け出そうとすれば、後ろから琥太郎先生に「危ないからやめなさい」って言われたけど、今はそれどころじゃない。夜久さんと一緒に帰るくらいなら、怪我をした方がマシ。琥太郎先生の注意を無視して、窓から抜け出す。保健室が一階で良かった…。


「フッ、ちょろいってもんよ」

「お!見つけたぞ、名前」

「し、不知火先輩…」


だからどうして、そうやって次から次へと現れるんですか?貴方たちは。






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12/11/03



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