:: 透明な君に恋をした | ナノ



メーデー。誰か助けてください。目の前にいるあの人の視界に私が映らないようにしてください。

と言っても、私の横には何か喋ったら墓穴を掘りそうなマリモ頭しかいない。…逃げよう!いや、逃げたらますます怪しまれる。落ち着いて考えよう。相手はあの不知火先輩だよ。周りの生徒たちからは尊敬されているんだろうけど、私はバ会長だとしか思っていない。上手くごまかせば、私は助かるかもしれない。今だに口をアホみたいに半開きしている不知火先輩に微笑みかけて言った。


「人違いですよ?」

「人違い…?」

「私は名前なんて名前じゃありません」

「ぶふっ」


隆文マジ黙ってくれないか。さっきから笑いを堪えていた隆文がついに吹き出した。不知火先輩に見られないように、思いっきり隆文の背中をつねってやった。「痛ぇ!」って叫んで涙目で睨んできたけど、私が睨み返したら黙った。さて、目の前の敵をどうしよう。


「いーや、お前は名前だ」

「は?」

「俺の勘がそう言っている」


本日二回目のメーデー。誰かこのバ会長の頭をどうにかしてくれませんか?もう隣にいる隆文なんか「不知火会長すげー」って言ってるからね?何なのこいつ。私の一年間の努力を無駄にする気か。さっきから、不知火先輩の視線が痛い。もうダメだ。きっとバレてしまった。よりにもよってあの不知火先輩に。さようなら、今日までの平穏な学園生活。こんにちは、明日からの面倒な学園生活。あ、ちょっと待った。不知火先輩だって鬼ではないはず。彼だってれっきとした人間だ。口止めしておけば誰にも言わないはず。


「…不知火先輩、」

「やっぱり名前か!」

「私、平穏な学園生活を送りたいんです。このことは黙っていてもらえますか?」

「ん?ああ、分かった」


不知火先輩って意外と物分かりがいいのかもしれない。ホッと安堵したのもつかの間、不知火先輩が爆弾発言を落としてきた。


「名前と犬飼が付き合っていることだろ?つーか、何で学校と見た目が違うんだ?」


…は?そういえば、不知火先輩って私が何度も生徒会に入るのを断っても勧誘してきた人だった。そう、不知火先輩とはまともな会話が出来ないんだった。というか、何でそうなるんですか…!私と隆文は付き合ってないことくらい、普段の学園での私を追いかけ回している不知火先輩なら分かるでしょ!そっちじゃないっつーの!学園での私と街での私とでは明らかな違いがあるじゃん!そっちを黙っていてほしいの!この際、隆文とは付き合っていることになっていてもいーわ。だけど、この格好のことだけは誰にも言わないで下さい。お願いします。


「いや、それは俺が嫌だ」

「人の思考を勝手に読まないでくれる?隆文。それから不知火先輩、学園と今との格好が全然違うことを誰にも言わないで下さいって言っているんです」

「じゃあ、犬飼と名前が付き合ってて…学園じゃ言えない格好で………意味が分からん」

「じゃあ、じゃねーよ。お前が今見たことを誰にも言わなかったらいいんだよ」

「あ、キレた」


そりゃあもうブッツンときたわ。意味が分からんって、え?もう本当にこの人はアホの子なのかもしれない。不知火先輩に「言いふらしたら先輩を軽蔑します」と一言残して、その場から離れた。
なんだろう、不知火先輩を見ているとすごく残念な気持ちになる。あの人、黙っていればかっこいい分類に入るのに口を開いたらもうアホの子なんだもん。隣にいる隆文はさっきからずっと笑っている。というか、あんたも一緒になって人違いだって言ってくれたら誤魔化せたんじゃないの?しかもいつまで笑っているわけ?いろいろとムカつきが溜まって、それを晴らすために隆文の肩を思いっきりグーで殴った。



xox



「名前!」

「げ、」


おはようございます、不知火先輩。の変わりに口から出た言葉に慌てて口を手で塞ぐ。不知火先輩…昨日言ったこと、本当に分かっているのかな?今日も私はいつもと同じ格好で学園にいるわけでして。不知火先輩に会ってしまって不機嫌オーラ全開の私とは正反対に、不知火先輩はニコニコニコニコ頬筋が弛みきってしまったのではないのかっていうくらいニコニコしている。朝から元気だなこの人。それに、不知火先輩が朝から声をかけてくるなんて珍しい。いつも生徒会の勧誘に捕まるのは放課後だったし…何か別の用事なのかな?


「気が変わった」

「…はぁ」

「お前が返事をするまで待とうと思っていたんだが、どうしても生徒会に入るのが嫌なら入らなくていい」

「え、いいんですか?」

「ああ。その代わり、お前は今日から雑用だ!」

「…は?雑用?」


そうビシッと決めて不知火先輩は先に学校に行ってしてしまった。…雑用?生徒会の、雑用?それって簡単に言えば、生徒会のお手伝いってことだよね…?というか、生徒会に半分入っているってことじゃん。正式な役員じゃなくても、お手伝いということは生徒会室には行かなくちゃいけないということで…。……うん、聞かなかったことにしよう。それが良い、そうしよう。


「おはようございます、名前さん」

「颯斗!」

「? どうかしましたか?」

「それが、昨日…」


通学路の途中で颯斗に会って、そのまま一緒に登校する。そこで昨日あったことを全部話した。あの場に颯斗がいればなんとかなったかもしれないのに…と愚痴を零すと、颯斗はとても申しわけなさそうな顔をして「すみません」と言った。でも、私は知っている。颯斗はちっとも謝罪の気持ちを込めていない。少しはこもっているのかもしれないけど、絶対に面白がっている。その証拠に「明日からは普通の格好で来ればいいじゃないですか」とか言い出した。私の平穏な学園生活をぶち壊すつもりか。
そんな感じで教室に着く。教室に入るときに「おはよー」と言って入れば、みんな「おはよう」と返してくれる。周りの人からモブ子とかって言われているけど、クラスのみんなは違う。そりゃあ、最初は影でいろいろ言う人もいたんだろうけど、今となってはみんな慣れてしまったのか、普通に接してくれる。おかげで、少し本性が出てしまいそうになる。とりあえず、言葉使いだけには気をつけようと努力している。


「はよー。お、青空!昨日すっげーおもしろかったんだぜ!お前も一緒に来ればよかったのによー」

「ふふっ、そのようですね」

「二人とも、表出な」


うん。口が悪くならないように、これでも努力している方なんです。






--------------------------------

12/11/02


prev / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -