:: 透明な君に恋をした | ナノ



…どうしてこうなったんだ。今俺は名前の部屋にいる。ちなみにあいつはシャワーを浴びている。落ち着け、俺。こんなことなら、月子に代わってもらうべきか…?いや、名前は俺を頼ったんだ。今さらそれを投げ出すわけにはいかない。…しょうがないだろ。あんな顔されて引き止められたら、断れるもんも断れなくなる。今にも泣きそうな顔で俺の袖を握った名前。よく考えれば、当たり前のことだ。目の前で自分の兄が死にかけたんだ。昨日は病院に泊まったからよかったのかもしれないが、こうして一人になったらいろいろ思い出してしまうんだろうな。

改めて、俺は名前の部屋を見渡す。俺の部屋よりか少し広い部屋には、必要最低限の家具しか置かれていなかった。まぁ、あいつらしいと言えばあいつらしいが…。問題は、どうやって寝るかだ。当たり前だが、この部屋にベッドは一つしかない。テーブルを片付ければ、床で寝れないこともないが…。そもそも寝るという選択肢が間違っているのかもしれない…。今日は徹夜覚悟だな。


「会長、シャワー浴びます?」

「ああ、って…おま!?」

「は?」

「髪はちゃんと乾かせ!ほら、タオルはどこだ?ドライヤーはどこにしまってある!?」

「あっちです…」


名前が指差した方向から、タオルを持ってきて名前にかぶせる。そのままガシガシと頭を拭いてやれば、名前は声を出して笑った。…なにがそんなにおかしいんだ。こっちはいっぱいいっぱいだというのに。そのままドライヤーをコンセントにさして電源を入れる。…なんか、本当に娘を持つ父親みたいな気分になってきた。スルッと手に取った髪はすぐに指の間から零れていってなかなか上手く乾かせない。それでもなんとか乾かして、ドライヤーの電源を切る。


「…はぁ」

「ありがとうございます」

「ったく、そんなんだと風邪引くぞ」

「はぁい。あ、会長はシャワーどうします?」

「…今日はいい」

「そうですか?」


…どうしてお前はそんなにも普通でいられるんだ!?もしかして、俺は男だと思われてないんじゃないか?そうか、俺は父ちゃんだもんな。って、そうじゃない。ドライヤーをしまって戻ってきた名前は、俺の隣に腰をおろした。…近いだろ、これ。あいつが動くたびに、髪が揺れてシャンプーの香りがする。本当、心臓に悪い。思わずその髪に触れたくなる。…やっぱり俺は変態なんだ。父ちゃん失格だ。もう名字に合わせる顔もない。…はぁ。


「会長、」

「ん?」

「どっちにします?」


そう言って、とびっきり可愛い笑顔で俺に質問をした可愛い娘は、とびっきりグロテスクなDVDのパッケージを待っていた。…女子高生の部屋にそんなものがあるなんて誰も思わないだろ…。どうやら、今夜は俺が予想していたものとはだいぶ違った夜になりそうだ。無事朝を迎えられるようにと、俺は天に祈った。






「一樹会長、大丈夫ですか?」

「あ、ああ…」


はっきり言って大丈夫じゃない。結局二本とも見た。もうしばらくは肉料理が食えないな…。気づけば、名前の部屋の時計の短い針は数字の4を指していた。この時間帯になれば、さすがに誰でも眠くなる。隣に座っている名前もさっきから首をカックンと動かしていて少しおもしろい。昨日からいろいろ気を張っていたんだろうな…。今日は寝かせてやった方がいいのかもしれない。そう思って、名前にベッドにいくことを勧めたが、断られた。


「…寝るのが、怖いんです」

「怖い?」


俺から言わしてもらえば、さっきのホラー映画に勝る怖いものはないと思うが。名前の話によれば、寝たら名字が木の下で下敷きになっている夢を見るから嫌だと言った。…昨日も、その夢を見たらしい。あの事故は、名前にかなりの精神的なダメージを与えたんだな。だが、そんなことを言っていたらいつまでたってもこいつは眠れない。…仕方ない。今日だけは誰も見ていない。…こんな俺を、許せよ。


「…これならどうだ?」

「わっ」


名前をベッドまで連れて、そのまま抱きしめて倒れ込む。あれ?こいつ、こんなに小さかったか?なんて思いながら、名前を抱きしめる力を強める。最初は戸惑っていた名前だったが、すぐに慣れたのか、俺にすり寄ってきた。バーカ。慣れるのが早すぎる。そんなに無防備だと、困るだろ?だが、俺は名前が嫌がることは絶対にしない。そんなことをしたら、名前を守ってくれって言った名字に殴られるに違いない。

それに、俺はこいつに嫌われたくない。誰かに嫌われるのは怖いが、ここまで怖いと思ったのは初めてだ。本当、今日の俺はおかしいのかもしれない。月明かりだけが部屋を照らす夜。物音一つしない部屋に、俺と名前の息づかいだけがかすかに聞こえる。


「まだ、怖いか?」

「…少し」

「大丈夫だ。俺が傍にいる。だから、安心してもう寝ろ。な?」

「…ん……」


だから、そんな無防備に安心しきった顔で寝るなよ。そんな顔を見たら、俺は気づいてはいけないあの感情に気づいてしまいそうになる。…なぁ、俺は自分のことがよく分からないんだ。お前のことは娘のように可愛いと思う。だが、そうじゃない別の気持ちもある。その気持ちに気づくのが…俺は怖い。きっと、この気持ちに気づいたら今みたいな関係でいられなくなる。俺はもう、何も失いたくない。生徒会の奴らも、もちろんお前も。俺は一人になるのが怖いんだ。

だから、俺はもう一度自分の気持ちに蓋をする。もう二度と開かないように。なぁ、目が覚めたら、今日のことはなかったことにしないか?きっと、今日は俺もお前もおかしかったんだ。いろいろなことがあって、一気に寂しさを思い出したんだ。ただ、人肌が恋しかっただけなんだよ。明日からはまた、お前は俺の可愛い娘でいてくれ。俺も、お前のことは娘として見守るから。

だから、今夜だけはこうしてお前の温もりを感じていてもいいよな?今夜だけ、お前は俺のものだ。…それから、俺が今からすることも許してくれるよな?俺の腕の中で眠る名前のおでこに、俺はキスをした。…今夜だけは俺だけに無防備なお前を見せてくれ。






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12/12/24


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