:: 透明な君に恋をした | ナノ



文化祭や修学旅行。慌ただしい行事が終わってやっと落ち着きを取り戻した星月学園。ようやく生徒会の仕事から解放されたと思った私は、今日の放課後は屋上庭園で昼寝をすると決めていた。だって、もうすぐ冬だというのに今日は春のように暖かい。小春日和って言うんだと思う。こんなに暖かい日はそのまま寮に帰るよりも、こうして有意義に過ごすのが正解だよね。
…そう過ごすはずだったのに。なぜか私は生徒会室のラボにいます。そして私の目の前では、さっきから天羽がなにやら機械をいじっている。屋上庭園に向かう途中、どこからか飛んできたくまのぬいぐるみが、突然私の目の前で落ちた。どうやらそれは、翼のお気に入りの発明品だったらしく、なぜか私はその修理に付き合わされた。


「ぬ・ぬ・ぬ〜♪」

「…天羽、発明品はまだ直らないの?私は今日の放課後どうしてもはずせない大事な用があるんだけど」

「もうすぐなのだ」


このやりとりはこれでもう何回目なんだろう。仕方なく、私はラボの一番日当たりがいいところに座った。あ、ここもなかなか良いかも…。今度からサボるときはここにしよう。ここなら、ラボのテーブルとかが死角になって、一樹会長には見つからないだろうし。ん…暖かい。しばらくそこに座っているうちに、どうやら私は眠ってしまったらしい。だけど、天羽の「ぬわわわー!」という叫び声で私は目を覚ました。目の前には、煙を出す機械。慌てる天羽。…これって、あれだよね?いつもの、爆発五秒前っていうやつですか?天羽の発明品の爆発には慣れていたつもりだったけど、いざこの距離となると…やばいかもしれない。天羽の手を思いっきりこっちの方に引き寄せる。ダメだ、間に合わない。

ドカーンという爆発音と同時にギュッと目を閉じた。そのとき、私と天羽は誰かにすごい力で引っ張られた。恐る恐る目を開けると、私と天羽はラボの外にいてラボからは真っ黒な煙が出ていた。


「まーたお前か、天羽」

「翔!」「名字!」


私たちを助けてくれたのは、息を切らした翔だった。翔の話によれば、偶然生徒会室の扉を開けたら中から焦げ臭い匂いがして、慌ててラボに入ってきたらしい。そしてそこにいた私たちを助けてぎりぎりセーフとなった。爆発音を聞きつけたのか、バタバタと廊下から誰かが走ってくる音が聞こえる。足音の主は、一樹会長と颯斗だった。天羽は急いで私の背中に隠れる。


「つーばーさー!」

「ぬいぬいがお怒りなのだー!」

「翼くん、実験をするのはかまいませんが、名前さんを爆発に巻き込むのはやめてもらえませんか?」

「そ、そらそらまで…!」


痛い、痛い、痛い!天羽、怖がるのは分かるけれど、私の肩を握るのはやめてくれませんか?ゆ、指が食い込んでる。ゴンッという音が天羽の頭から聞こえた。一樹会長のげんこつ…受けたことはないけど、絶対にあれは痛い。そして私はあれを避けきれる自信がない。一樹会長にげんこつをされたことで半泣きになる天羽を宥める。天羽が本当に泣き出したら後々面倒なことになるし…。翔も「誰も怪我しなかったんだから」と、一樹会長と颯斗を宥める。


「そういえば、名字先生。今は職員会議の最中だったのでは?」

「ん?あー…まぁ、うん、あれだ、ほら、サボりだ」

「仕事しろ」


どうやら、うちのバ翔は会議をサボって生徒会室に遊びに来ていたらしい。バタバタと、今度は別の足音が聞こえて来る。多分、この走るのが面倒くさそうな足音は…やっぱり、琥太郎先生だった。琥太郎先生は生徒会室にいる翔を見るなり、はぁっとため息をついた。琥太郎先生、うちのバ翔が本当にすみません。琥太郎先生は翔の頭を思いっきり叩くと、翔を引きずって生徒会室から出て行った。…琥太郎先生のあれもそれなりに痛そうだったけど、翔は大丈夫かな?


「…ったく、本当に怪我はないのか?」

「翔が助けてくれたから…」

「翼君、しばらくラボの使用と発明は禁止します」

「ぬぬ!何でだ〜?」

「名前さんと名字先生を危ない目にあわせた罰です。反省して下さい」

「ぬー…ごめんちゃい」


まぁ、寝ちゃっていた私も悪かったし、今回は許してあげるとしよう。というわけで、天羽がラボの片付けをするのを私たちも手伝う。…さっきから、一樹会長が何か考え事をしているみたいだけど…どうしたんだろう?一樹会長に聞いてみても、何でもないと言うだけだった。…私が気にすることじゃないってことなのかな?






「いたたたたた」

「じっとしてろ」


職員会議の途中、いきなり翔が立ち上がったかと思うと、会議室から出て行った。動揺する教職員もいたが、だいたいの教職員は翔が何かを視たということだけは分かった。俺は引き続き会議を続けるように言い、翔を追いかけた。多分、あいつのあの慌てようからして名前に何か起こるんだろう。あいつと長年一緒にいるせいで、そういうことが分かるようになってしまったのはどうかと思う。

案の定、翔が向かった生徒会室からは爆発音がした。また天羽が爆発させたのか…。生徒会室に入れば、天羽を怒る不知火と青空、名前の後ろに隠れている天羽、それを見て笑っている翔。…あいつらにはバレていないようだったが、俺はあいつが怪我をしているとすぐに分かった。仕方なく、あいつを生徒会室から連れ出して保健室に向かう。


「不知火には説教をするくせに、説教をした本人がこれだとな」

「俺はいいんだよ」

「あのなぁ、いつも言っているが、お前は普通の人間なんだ。これ以上こんなことを続けていたら、後戻り出来なくなる」

「…それでも、俺は……」

「はぁ」


翔の秘密を知っているのは、多分、この学園で俺と神楽坂ぐらいだ。こいつは、いつになったら自分を大切にするということを覚えるのだろうか。高校生のころからずっとこのやりとりは続いている。名前がこの学園に入学してきてからはもっとだ。妹が大切なのは分かるが、自分が怪我をすれば妹が悲しむことくらい分かるだろう?だけどこいつは、いつしか自分が視えた未来のをほとんど変えるようになっていた。


「…しばらくは控えろ」

「でも、俺がやらないと不知火がやる。俺はあいつも守りたいんだよ」

「不知火を、か?」

「あいつは名前を幸せにしてくれる奴だ。分かるんだよ、俺には」


そう言って、眩しそうに保健室から見える夕陽を見つめる翔は、今にもどこかに消えてしまいそうで、俺は怖くなった。






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12/12/13




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