:: 透明な君に恋をした | ナノ



「…桜士郎」

「んー?」

「俺は今までお前のことを変態だと言い続けてきたよな」

「どうしたんだよ、急に」

「…はぁ」


桜士郎は自他共に認める変態だ。だけど俺は気づいてしまった。もしかしたら、俺は桜士郎以上に変態なのかもしれない。…あの文化祭の日、名前と一緒に歩いたスターロードで名前にキスをしそうになった…。繋いだ手を俺の方に引き寄せて、名前を抱きしめそうになった。俺はあいつの父ちゃんなのに…ダメだ、俺は変態なんだ。つーか、あいつが可愛いのがそもそもの原因だ。寒さで冷え切った俺の手を、温めようと包んでくれたあいつの手の温もりを思い出す。あいつ、喧嘩ばっかしていたくせに綺麗な手だったな…。って、そうじゃないだろ!!やっぱり俺は変態なのか!?


「一樹、まだあの状態なの?」

「まぁね」

「はぁ。名字さんたちが修学旅行に行っていてくれて良かったよ。今の一樹を見たら、気持ち悪がるだろうし」

「誉ちゃんって時々サラッとひどいこと言っちゃうよね」

「そう?」


今日から名前や颯斗や月子は修学旅行でしばらくいない。…はぁ、あいつは修学旅行先でちゃんとやっていけているのか?体調を崩したりしていないだろうか?変な野郎に絡まれて…って、その変な野郎の分類に俺も入ってしまったんだ…。もうだめだ。名前に合わせる顔がない。


「くしゅっ」

「風邪ですか?」

「うーん…違うと思う」

「こいつが風邪なんてひくわけないだろ?バカだから」

「隆文うるさい」


今日から三泊四日の修学旅行。隆文と颯斗とはよく街に遊びに行ったりするけれど、泊まりがけで出かけたことはなかったから、実はこの修学旅行を楽しみにしていた。といっても、泊まる部屋は月子と一緒だけれどね。…今ごろ、生徒会はちゃんと機能しているのかな?私と颯斗と月子が修学旅行に行っていることで、学園に残った生徒会役員は一樹会長と翼だけ。もう少しでハロウィンパーティーがあるから、それに向けての準備をしなくちゃいけないんだけれど…大丈夫かな?それに、一樹会長は風邪ひいてないかな?ああ、でもあの人バカだからなぁ…。


「そういや、名字に聞いたんだけどなんかすっげー綺麗なコスモス畑があるらしいぞ」

「コスモス畑?」

「気になりますね…。名字先生も修学旅行に引率していることですし、あとで行き方を聞いてみましょう」

「え、翔来てんの?」


今回引率の先生のリストに翔の名前は載っていなかったはず…。颯斗が聞いた噂によれば、翔は最近理事長になったばかりの琥太郎先生に修学旅行に行きたいとわがままを言ったらしい。翔って琥太郎先生とは同い年じゃなかったけ?そしてその翔のわがままを聞いた琥太郎先生はどうなっているんだ。何が悲しくて兄同伴の修学旅行に行かなくちゃいけないのよ。これじゃあ、夜中に颯斗と隆文の部屋に忍び込もうと思っていたのに、無理になったじゃん。なぜか、翔には私の行動パターンが分かるらしく、夜中に寮を抜け出そうとしたときはいつも捕まった。


「なんだ、俺の話か?」

「まさかの同じバスときた」


前の席からひょっこりと顔を出した人物は翔だった。どうして気づかなかったんだろう…?修学旅行だからって浮かれていたせいなのかもしれない。もうやだ。帰りたい。なんて考えていたら、翔の隣から顔を覗かせた人と目が合った。…?初めて見る顔。薄い金髪のギザギザの前髪から覗く赤い瞳。なんかよく分からないけど、不思議な人。颯斗はその人と知り合いだったらしく、仲良さげに喋っていた。隆文に誰か聞いてみても知らなかったらしく、きょとんとしていた。


「紹介しますね。こちらは星詠み科の神楽坂四季くんです。神楽坂くん、こちらは僕と同じクラスの名字名前さんと犬飼隆文くんです」

「…よろしく」

「おう、よろしくな」

「よ、よろしく」


「ちなみに名前は俺の妹だ!」って、周りに人がいることを気にせずにバカでかい声で言った翔の頭を思いっきりグーで殴っておいた。神楽坂、か。しかも星詠み科っていうことは、一樹会長と同じ学科で翔の教え子ってことだよね。…やっぱり、どこか不思議な人。そんなこんなで神楽坂や翔と話していたら、バスはあっという間に今日泊まるはずのホテルに着いた。バスから降りようとしたとき、フラッと身体がふらつく。


「おっと、大丈夫かよ」

「…うん。昨日月子の部屋で徹夜で修学旅行の話をしてただけ」

「昨日は早く寝るようにってあれだけ言ったのに、結局徹夜したんですか?」

「うぅ…」


そう、実は今日は体調が少しだけ悪い。バスの中はなんとかテンションで乗り切れたけど、バスから降りた瞬間ドッと疲れが押し寄せた。というか、若干気持ち悪い…酔った。バスを降りてから点呼を取っている間、ずっと隆文にもたれていたからいくらかマシになったけれど、寝不足なのは変わらない。というか、なんか寒気がしてきた。やばい、さっきのくしゃみはもしかしたら一樹会長あたりに噂されているのかなとか思っていたけど、どうやら本格的に風邪をひいてしまったらしい。このままだと間違いなく颯斗からのお説教をくらってしまう。それは嫌だ。仕方なく、部屋に行くまではなんとかテンションを保って、月子にはちょっと頭が痛いから琥太郎先生のところに行ってくると言っておいた。


「琥太郎先生…」

「やっぱり来たか」

「え、なんで、翔がいるの?」


琥太郎先生の部屋に来たはずなのに、中にいたのは翔だった。どうやら、琥太郎先生と翔は同じ部屋だったらしい。琥太郎先生はホテルの人と話をしているらしく、私は翔から渡された体温計を脇に挟んで部屋にあったソファに座り込んだ。ひんやりと冷たい翔の手のひらが私のおでこに触れる。冷たくて気持ちいい。そのまま翔は、明らかに翔の旅行カバンじゃないカバンをガサゴソと探り始めた。え、それ絶対琥太郎先生のだよね。


「おら、これ飲んでここで寝ろ」

「うー…」

「やっぱり熱あんじゃん。来てみて正解だったわ」

「へ?」

「ほら、水。早く飲め。んで、温かくして寝ろ。兄ちゃんが傍にいてやるから」

「うーん…」


翔に言われるがままに薬を飲んでベッドに入る。ベッドに入った瞬間、ホッとして気が抜けた。翔が来てみて正解だったって言ったのは、どういう意味だったんだろう?ダメだ。頭がちゃんと働かない。押し寄せる睡魔の波に、私はそのまま、身をゆだねた。


「翔の言った通りになったな」

「琥太郎…悪かったな。無理言って修学旅行に引率させてもらって」

「…シスターコンプレックスって言葉、知ってるか?」

「うるせー」






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12/12/04


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