:: 透明な君に恋をした | ナノ



最初に言っておきます。私は理系科目が大の苦手分野です。じゃあなんて星月学園に入学したのかって?星月学園の生徒がみんな理系というわけではないんですよ。それに私が所属している神話科は、理系というよりどちらかというと文系だ。桜士郎と金久保先輩の西洋星術科だってそうだし、一樹会長の星詠み科は理系も文系もあまり関係ない。星座科や天文科、宇宙科は理系じゃないと苦労すると思うけど…。

星のスペシャリストを育てる学園といっても、普通に英語や数学の授業がある。そして定期テストも。私は、数学というものを見るだけで吐き気がする。それでも、何回かしか赤点を取らなかったのは隆文と颯斗の1ヶ月かけてのスパルタ教育があったおかげだ。だけど、今年は文化祭のこととかで忙しかったせいで、勉強があまり出来なかった。はい、そうです。数学欠りました。


「お前、逆にこの点数が取れるって天才じゃねーのか?」

「うるさい、バ翔。なんであんたがここにいるのよ」

「お前のクラスの数学担当は俺だからだ。そして今日からお前は補習だ」


放課後。今日は生徒会がないから寮に戻ってゆっくり眠れると思っていたら、翔に捕まった。そのまま私は翔に連れられて特別指導室に来た。星月学園では、赤点を三枚取ったら補習っていう決まりがあるんだけど、私の数学の点数はあまりにもアレだったみたいで…。というわけで、今日から翔にみっちり補習してもらうことになった。だいたい、兄妹なのに翔は数学が出来て私が出来ないなんておかしい…って思ったけれど、前に父が死んだ母も数学は壊滅的だったからと、慰めてくれたのを思い出した。


「だが、今日はどうしても抜けられない会議があるんだ」

「じゃあ会議優先しなよ。私の補習なんてどうでもいいから」

「というわけで、兄ちゃんがスペシャルゲストを呼んでおいた」

「うわぁ…」


余計なお気遣いありがとうございます、お兄様。もっと別の面でいろいろ気遣ってほしかったです。翔は「スペシャルゲストが来るまで待ってろよー」と言って部屋から出て行った。…スペシャルゲストって誰だろう?やっぱり、颯斗や隆文かな?二人とも文系のくせになぜか数学が出来る。あ、もしかしたら、琥太郎先生かもしれない。琥太郎先生がいいな…あの人だったらいろいろ見逃してくれそう。あ、直獅先生でもいいかも。途中でもっと青春を過ごしたいんですって言えば、逃がしてくれそう。


「待ったか!?」

「…その考えは浮かびませんでした、一樹会長」

「? なんのことだ?」

「こっちの話です」


勢いよく教室の扉を開けたのは一樹会長だった。私のバカ。一樹会長は翔が担任をしているクラスの生徒なんだから、候補になるじゃん。どうして待っている間に逃げ出さなかったのよ。…というか、一樹会長って勉強できるんですか?ほら、あの、だって一樹会長はバ会長だから。桜士郎と金久保先輩だって、一樹会長はバカなところが良いって言ってたし。一応、一樹会長に「勉強得意なんですか?」とオブラートに包んで言ってみた。ナイス私。一樹会長は眼鏡をかけながら「毎回10位以内には入るぞ」と爽やかな笑顔で言った。ありえない。


「で、数学だったか?」

「…一樹会長」

「ん?」

「私、本当に数学が出来ないんです。一樹会長が想像している以上に。だから…」

「だから?」

「その、時間がかかるから一樹会長の帰りが遅くなってしまうかも…」


どうして私のクラスの数学担当が翔なのか本当はよく分かっている。1ヶ月前から数学のテストに備えて勉強しているのに、いつも点数は赤点ぎりぎり。悪いときは赤点。そのたびに補習をして、そのたびに私は学校に夜の十時くらいまで残らされることになる。でも、翔だから文句を言いながらも私に付き合ってくれた。私も翔だったからあまり罪悪感を感じなかったけど…今回は一樹会長が私の補習を見てくれるときた。これはもう本当に断るしかない。また別の日に翔に補習してもらえばいいんだ。


「バーカ」

「!?」

「こういうときくらい父ちゃんに甘えろっていつも言ってんだろ」

「一樹会長…」

「ほら、教科書出せ」


一樹会長にバカって言われたのはむかつくけれど、一樹会長の優しさに泣きそうになったのも事実だ。でも、一樹会長。自分が言った言葉…後悔しないで下さいね?そう思いながら、翔に解いておけと言われた問題を一樹会長に見せる。一樹会長はパパッと目を通すだけで問題を理解したらしく、さっそく私に教え始めた。一樹会長すごいわ。


「一樹会長、一樹会長。至急生徒会室まで来てください」

「ん?颯斗の声か?」


あれから一時間。問題はやっと半分のところまで解けていた。これでもまだ早い方。突然鳴り響いた校内放送は颯斗の声のもので、颯斗の声と一緒に爆発音も流れてきた。きっと天羽がまた爆発させたに違いない。一樹会長も「翼のやつ…」と言ってため息を吐いていた。「悪い、ちょっと行ってくる」と言って教室から出て行った一樹会長。一樹会長が出て行ったのを確認して、私はフゥッと息を吐く。…眼鏡の一樹会長、初めて見た。

一樹会長が言うには、眼鏡のレンズに度は少ししか入っていないらしく、会長がやる気を出したいときに眼鏡をかけるらしい。なんていうか…ちょっとだけ、かっこよくないこともない。…今日の私はおかしいのかもしれない。机に顔を伏せて、教室から窓の外を見る。いつの間にか夕陽はほとんど沈みかけていた。…なんか、久しぶりに頭を動かしたら眠くなっちゃった。そのままゆっくりと、私は目を閉じた。





「遅くなってー…ったく」


翼に説教をしていたら戻るのが遅くなった。教室に戻ってまず目に入ったのは、机に伏せて眠っている名前だった。ったく、こんなところで無防備に寝るんじゃねーよ。起きたらお説教だな。ため息をつきながら、俺は名前の向かいの席に座る。教室にかすかに響く名前の寝息。いつの間にか、俺は名前の頭を撫でていた。スルッと指の間から零れる綺麗な髪が、俺をどうしようもない思いにさせる。心臓がギュッと何かに締め付けられたみたいだ。俺は、この感覚を昔味わったことがある。

なぁ、お前は俺をどう思ってるんだ?なんて、まず自分自身が名前のことをどう思っているかも分からないのに、問いかけてみたくなる。さっきまで夕陽に染められていた教室は、いつの間にか月明かりに照らされていた。…なぁ、俺は…お前のことがー……。






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12/11/26


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