:: 透明な君に恋をした | ナノ



最近、心臓が潰れてしまうんじゃないかってくらい痛むときがある。それは決まってある特定の状況下でしか発生しない痛みだ。なぜか名前と桜士郎が二人で並んでいるのを見ると、心臓が痛くなる。これは何かの病気にったのかもしれない。


「…母さんや」

「…………なんですか?父さん」

「あの二人を見ていると心臓が痛くなる。これが父親の心労というものか」

「変ですね?名前さんと白銀先輩を仲直りさせたのは一樹会長ですよ?むしろあのお二人の仲が良いことは喜ぶべきことなのでは?」


颯斗が言っている言葉の意味は分かる。だけど生徒会室で桜士郎に膝枕をされて寝ている名前を見てからイライラが止まらない。起こそうと思っても、桜士郎も寝ているせいで起こすことが出来ない。こいつら、もしかして午後の授業をサボってここで寝ていたんじゃないだろうな?…確かに、二人を仲直りさせたのは俺と誉だ。二人が仲直りしてくれたのは素直に嬉しい。だが、その反面なぜか心臓が痛くなるときがある。これはー…。


「桜士郎に嫉妬しているのか?」

「やっと分かり「もしかしてこれが娘を嫁に送る父親の心境なのか?」

「…はぁ」


そうか!これがよくドラマで見かける結婚式でのあの父親の泣きたくなる心境なのか!だが、名前は桜士郎にはやらん!どうしても欲しいというなら、まずは父親である俺を倒してからにしてもらいたい。「ぶふっ」と笑い声が聞こえたかと思うと、生徒会室の入り口に誉が立っていた。そういえば、今日の放課後は誉に茶を淹れてもらうんだったな。なぜか腹を抱えて笑う誉を不審に思ったが、誉が来たとなれば、桜士郎たちを心を鬼にして起こすしかないな。


「一樹。良いこと教えてあげようか?」

「なんだ?」

「一樹はね、父親としてじゃなく、男として桜士郎に嫉妬しているんだよ」

「…は?」


起こそうと思って思いっきり引っ張った桜士郎の頬を離す。父親としてじゃなくて、男として?いや、ありえん。俺が名前に持つ感情は父親から娘に対する感情であって、そういう邪な感情じゃないんだ。俺にとって名前は娘みたいな存在で…名前は俺のことをどう思ってるんだ?ああ、よく分からない。頭が痛くなってきた。ついでに心臓も痛い。これは本格的に風邪を引いたのかもしれん。


「金久保先輩、うちの会長を混乱させないでください」

「ふふっ。ごめんね、一樹があまりにもおバカさんだったから」

「桜士郎!起きろ!お前の親友の一大事だ!それから俺の可愛い娘から離れろ!」


桜士郎のことを無理やり叩き起こす一樹。一樹はときどき行き過ぎた感情を名字さんに対して持っている。それが恋だってことは一樹と名字さん以外みんな分かっているんじゃないかな?だけど、一樹はそれを父親の感情だと言って片付けてしまう。一樹が家族に強い憧れを抱いているのは分かるけど、ちょっとやりすぎじゃないのかなっていう面もある。だけど、一樹があっさりとその気持ちが恋だと気づいてしまうのはおもしろくない。だから、ヒントはあげるけど、その気持ちは一樹自身が気づかなくちゃいけない気持ちなんだよ。その気持ちを一樹が自覚したときの一樹が反応が、今から楽しみだ。


「桜士郎、名前。いつから生徒会室にいたのか父ちゃんに正直に言え」

「………。」

「そういえば、今日は昼から名前さんを見かけませんでしたね」

「桜士郎なんて朝から教室にいなかったよ」

「「!?」」

「なるほどねぇ」


颯斗のバカ。金久保先輩のバカ。お昼をお腹いっぱい食べてちょっと眠たくなったから、昼休みが終わるまで生徒会室で寝ていようと思ったら、桜士郎がちょうど私に膝枕をしてくれるような素晴らしい体勢で寝ていたから、ちょっと太ももを拝借しただけなのに。桜士郎の太ももは固かったから、寝心地悪かったけどね!いや、無断で生徒会室を使ったことは謝ります。だけど、私も疲れていたんです。文化祭の準備で学園を走り回ったり、一樹会長と桜士郎の過去を知ってからはなかなか夜に寝付けなかったり…。そうです。どれもこれも一樹会長が原因なんです。私に睡眠時間をください。


「今後俺に無断で生徒会室を使うことを禁止する!」

「正規の役員以外はもともと禁止されているのですがー…」

「しっ。内緒にしておこう」


というわけで、起こされた私は颯斗と一緒にさっそく文化祭に向けての準備を始める。今日は校内の安全点検。チェック項目が書かれた紙とシャープペンシルを持って、颯斗と一緒に生徒会室を出る。一樹会長と桜士郎はこれから金久保先輩がたてたお茶を飲むって言っていた。いい加減仕事をして下さいと言いたかったけれど、寝ていたところを見られてしまったのだから、何も言えない。仕方なく颯斗と一緒に校内点検に出た。


「そういえば、桜士郎。一樹、すっごくおもしろかったんだよ」

「面白くないだろ!俺は真剣に悩んでいるんだ!」

「?」

「桜士郎、…俺の可愛い娘をお前の嫁にはやらん!」

「ぶっ!?………やめてよ、せっかく誉ちゃんがたててくれたお茶噴いたじゃん」


いきなり一樹が何を言い出すのかと思えば、名前を俺の嫁にしないって?どう考えたら一樹はそういう結論になるのかな〜。いや、日頃から一樹は本当にバカだとは思っていたけど、ここまでバカだとはさすがに思っていなかった。一樹が名前のことを好きなのは周りがどう見ても分かることだった。だけど、一樹はどうしてもその気持ちを認めたくないらしい。…恋に対する一樹のトラウマってやつかな?とりあえず誉ちゃん、説明求む。


「一樹はね、桜士郎の膝枕で寝る名字さんを見て嫉妬したんだ」

「なるほどね〜」

「俺の可愛い大切な娘をまだ嫁にやるわけにはいかないからな」


うん、一樹はちょっと話をややこしくするから黙ってようか。本当、一樹はいつになったら幸せになってくれるんだろうね。一樹が幸せにならないと、俺も幸せになれないよ。でも、俺と名前は一樹が思っているような関係にはならないから安心して。そりゃあ、昔はそんな関係になったこともあったけど、なんだかお互いしっくりこなくてやめた。俺たちには、友達以上恋人未満の生温い関係がちょうど良いんだ。それにー…。


「あいつ、髪の長い男がダメなんだよ。だから、俺があいつのそういう対象になることは絶対にないよ」

「…そうか」


桜士郎の言葉を聞いて安心した反面、その言葉を信じきれない俺もいる。…どうして、俺が視た未来の桜士郎は髪が短かったんだろうな?…心臓の痛みは増すばかりだ。





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12/11/23


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