:: 透明な君に恋をした | ナノ



最近では校内で名前のことを聞かない日はない。まぁ、当たり前って言ったら当たり前だよな。今まで長い髪と伊達眼鏡で隠していたが、あいつは綺麗な顔をしている。モブ子と呼んでいた奴らは驚くだろうな。そのせいで颯斗とかはいろいろ苦労しているらしい。くだらない考えを持つ野郎に絡まれないか見守るだけで大変らしいな。ま、俺もあいつの父親として一緒に見守ってやるか!


「というわけなんだが、桜士郎」

「真剣な顔してどうしたの?」

「なぜか名前がモブ子じゃなくなってからモヤモヤするんだ」

「あー…」


名前が周りからモブ子と呼ばれなくなって嬉しい反面、モブ子じゃなくなったあいつをいろんな奴らに見られるのは気にくわない。…これが、娘を心配する父親の気持ちなのか!?そうか、俺はこれで一つ学んだ。娘が心配なら仕方ないだろう。そう桜士郎に同意を求めたら「一樹がそれでいいなら、いいんじゃないの?」と言われた。ああ、それでいいんだ。ん?そういえばー…。


「桜士郎って月子にはかまうのに、あいつにはかまわないよなー」


桜士郎は月子のことを学園のマドンナと名付けた第一人者だった。てっきり名前にも何か名付けるのかと思ったが、その気配はない。月子には毎日のようにインタビューに答えろだの、写真を撮らせろだの言っているくせに、あいつには言わない。というか、あいつと喋っている桜士郎を今まで見たことがない。…どういうことだ?俺が見たことがないだけで、二人は喋ったことがあるのか?


「くひひ、あの子は俺に関わってもらいたくないみたいだよ」

「? どういうことだ?」

「あの子の態度見てれば分かるよ」


ますます意味が分からん。だが、桜士郎は自分の口からその意味を言う気はないらしい。俺が知らないところで、二人に何かあったのか?…喧嘩か!喧嘩の強い桜士郎に名前が喧嘩を売らないわけがない。この前あいつが七海に喧嘩を売ったのが良い例だ。ということは、娘を心配する父親としては仲直りさせなくてはならない。そうと決まれば、さっそく名前に事情を聞きにいくとしよう。

桜士郎に名前のところに行くと告げて、生徒会室から出る。さて、俺の可愛い娘はどこにいるんだ?


「一樹って本当にバカだよなー…」

「でもそれが一樹の良いところだよね」

「あり?誉ちゃん、いたの?」

「一樹と入れ違いにね」

「ま、どうなっても知らないけど」

「ふふっ、どうなるんだろうね」






走ってます。全力疾走です。というより、逃げています。何からって?一樹会長からに決まってるでしょ!!今日も1日噂話に振り回されて、やっと授業が終わって寮に帰れるかと思ったのに、教室を出た瞬間、一樹会長に見つかった。なんだかよく分からないけど、ものすごい笑顔で走ってきたから、反射的に私は逃げ出した。あの顔をしているときの一樹会長ほど面倒くさいものはない。絶対に何かくだらないことを思いついたに違いない。

…これでも私、走るのは速い方なのに。中学生のときのやんちゃのおかげでついた体力や脚力は、一樹会長の前では何の意味も持たなかった。玄関を出たところで私は捕まってしまったからだ。というか、そろそろこの後ろから抱きしめる捕まえ方はやめてほしい。この暑苦しい夏に、これはきつい。


「…離してください、一樹会長」

「お前が逃げるのが悪い」

「…はぁ。で、何か用ですか?」

「ああ、そうだった。お前と桜士郎って何かあったのか?」


…この人はどうしてこうもストレートなんだろう。この学園で桜士郎って名前の人は白銀桜士郎しかいないじゃん。で、何で一樹会長が私と桜士郎の間に何かあったって知ってるんですか?あれか、桜士郎の口から直接聞いたのか。あの野郎。でも、桜士郎がそんな奴じゃないってことは悔しいけど分かっている。つまり、この勘だけは無駄に良い会長は、一人で感づいて勝手に他人の問題にズカズカと入り込んできたわけだ。一樹会長、迷惑って言葉知っていますか?


「別に何もありませんよ」

「いーや、ある!」

「あったとしても、一樹会長には関係ありません」

「関係大ありだ」

「は?」

「俺は桜士郎の親友であり、お前の父親だからな!」


…前にも言ったとおり、私の父親は落ち着きがあって物静かな人です。一樹会長みたいにバカでかい声で意味の分からないことを叫ぶ人じゃありません。帰宅途中の生徒たちに変な目で見られてますよ、会長。あと、一樹会長と桜士郎が親友だとは知らなかった。というか、知ってたら一樹会長とはこんな関係にならなかった。まぁ、つまりは、あれだ。私と桜士郎が仲が悪い原因は一樹会長にあるっていうわけです。


「一樹会長」

「どうした?」

「昔、私にとって一番信頼出来る仲間がいたんです。だけどある日、そいつは私の目の前からいなくなった。ずっと傍にいてくれると信じていたのにいなくなったんです」

「それって…」

「あとから聞いた話なんですけど、そいつは私よりもそいつの学校の生徒会長を選んだんです。目を覚ましてもらったとか意味の分からないことを言って、そいつはその生徒会長のところに行ってしまいました」

「………。」

「私はそいつに裏切られた。だから、もう顔も見たくないんです」


そのまま「失礼します」と言って、寮までの道を歩く。当然、一樹会長は追いかけてこない。私が言うそいつは桜士郎で、生徒会長は一樹会長のこと。桜士郎の話からは、学校の友達としか聞いてなかったから一樹会長のことだとはまったく思わなかった。

星月学園にはS4の四人のうち二人がいる。それが私と桜士郎。私と桜士郎は四人の中でもお互い一番仲が良かったし、一番信頼していた。だけど、桜士郎はいなくなった。桜士郎は星月学園に在籍していたけど、一年生のころはほとんど学校に行かずに私たちと連んでいた。だけど、桜士郎は…一樹会長に説得されて学校に行くようになった。最後に桜士郎は「名前も星月学園においで。きっと喧嘩よりももっと楽しいことがあるから」って言っていた。そのときは死んでも行かないって思っていたけど、こうして星月学園にいるっていうことは、頭のどこかで桜士郎に会いたかったのかもしれない。

だけど、星月学園に通う桜士郎が昔のあいつとあまりにも違ったから、私はもうあいつに関わらないって決めたんだ。私が隣にいたら、昔を思い出させるからー…。






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12/11/13




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