:: 透明な君に恋をした | ナノ



もう、うんざりです。こうなったら仕方がない。保健室に行こう。


「というわけで、来ました」

「…はぁ」

「本当にごめんなさい」


いや、ね?毎日、毎日噂について教室まで聞きに来る人が多くてね?もう答えるのも面倒になったから、そうだ!保健室に隠れていれば安心だって、ことになって保健室に来てみたけど、琥太郎先生がいなかったからラッキーって思ってベッドにダイブしたわけ。そしたらね、そしたらよ?何かを潰しちゃった感触と、「うぐっ」っていう苦しそうな声が聞こえたの。だから、ほら、わざとじゃないんですよ?琥太郎先生の身体が薄いから、ベッドの中には誰もいないなって思って。つまり、あれですよ、あれ。琥太郎先生はもっと肉を食べた方がいいですよ。うん。


「琥太郎先生…!見捨てないで!」

「………。」


琥太郎先生がいるとは知らずにベッドにダイブしてしまったことはもう土下座して謝りますよ。だから、私のことを無視してまたベッドに潜るのはやめてください。本気で辛いです。もう頼れるのは琥太郎先生しかいないんです!隆文と颯斗はこれを機にモブ子から卒業しろって言うし、哉太はサボり魔だから相談しようと思ってもなかなか見つけられないし、不知火先輩と夜久さんからのストーカー行為は激しくなるし…!何にも良いことがないんですよ!今年のおみくじは大吉だったのに!だから琥太郎先生、助けてください。


「…俺にどうしろって言うんだ」

「さり気なく名字はどうしようもないモブ子だって噂流してくれませんかね?」

「却下。俺が流していい噂じゃない」


そう言って頭まで毛布を被ってしまった琥太郎先生。チッ、この教師…役に立たない。…なーんてことは心の隅に置いといて、本当にどうしたらいいんだろう。へなへな力なくとベッドの横の床に座り込む。平和そのものだった私の学園生活は、だんだん壊れていく。おかげで私の一年間の努力はもう少しでおじゃんになってしまうところだ。これが良いことなのか、悪いことなのかと言えば、間違いなく悪いこと。

だって、私がS4の一人だってことが学園の人以外にバレたらどうなるか想像出来る?S4を敵対視するグループは多い。そのグループが学園を襲うようなことがあれば…隆文と颯斗を巻き込んでしまう。二人だけは絶対に巻き込みたくない。それに、あいつにも迷惑をかけることになる。あいつはもう、昔のあいつじゃない。私のせいで、昔のあいつに戻ってしまうのは絶対に嫌だ。そんなことを考えてたら、だんだん目頭が熱くなった。ズズッと鼻をすする。


「…大丈夫だ」

「…琥太郎先生」


いつの間にか毛布から顔を出していた琥太郎先生。先生は私の頭を優しく撫でてくれた。なんか、いつもは私に冷たいくせにこういうときだけ優しくされると、どう反応していいのか分からない。だけど、琥太郎先生に大丈夫だって言われると、本当に大丈夫だと思えてくるから不思議。大丈夫だよね、私が思っているようなことは起きないよね。…もし起きたとしても、私の大切な人を傷つけるのは絶対に許さないから。


「名前!」

「不知火、先輩?」


不知火先輩の声が聞こえて、慌ててベッドのカーテンから顔を出す。焦った顔の不知火先輩は、そのまま私の手を引いてカーテンから引っ張り出し、私を抱きしめた。…抱きしめた?あの、これって、どういう状況ですか?私を抱きしめる不知火先輩の肩は激しく動いていて、口からは息が細かく切れる音が聞こえてくる。


「お前が泣いているのが視えたから…」

「不知火先輩…」


…そっか。そういえば、不知火先輩は星詠み科だった。私が泣いている未来が視えて、走ってここまで来てくれたんだ。こんなに息まで切らして…。なんだか、今日の不知火先輩はいつもの不知火先輩と違うから調子が狂います。なんてことを言ったら「バーカ。たまには父ちゃんに甘えろよ」って言ってくれた。今までは、どうして颯斗が不知火先輩を尊敬しているのか分からなかったけど、やっとその意味が分かった気がする。不知火先輩は温かい人。温もりを教えてくれる優しい人。そんな不知火先輩だから、学園のみんなも不知火先輩について行くんだね。…ちょっとだけ、不知火先輩のことを見直した。


「はいはい、保健室でイチャつかなーい」

「翔!」「名字!」

「二人とも、名字先生だろ」

「なんだ、翔も来てたのか」

「まぁな」


ベッドからようやく抜け出してきた琥太郎先生に、翔は返事をする。…そういえば、翔も私が泣いているといつも傍に来てくれた。星詠みの力は弱いのに、私のことは何でも分かるんだって言っていた翔。随分昔のことなのに、ついこの間のことのように思える。翔はいつも泣いている私のところまで走ってきてくれたよね。そんな翔は兄としては私の自慢の兄だった。


「で、お前ら授業は?」

「「「あ」」」

「不知火と名字はともかく…翔、お前もか」

「先生だってサボりたいときがあるんだよ」

「アホか」


というわけで、翔は不知火先輩と授業に戻って私も強制的に保健室から追い出された。やっぱり琥太郎先生は私に冷たい。だけど、なんだかスッキリした気分。さっきまでモヤモヤしていたことが全部洗い流されたような…そんな感覚だった。これも琥太郎先生と不知火先輩と翔のおかげなのかもしれない。さてと、今から授業に戻っても途中からだから分からないし、生徒会室で時間でも潰そうかな。なーんて呑気なことを考えながら、私は生徒会室へ向かった。


「…あいつ、変わんないな」


まさか、生徒会室へ向かう私の背中を見つめていた人物がいたとは知らずに。






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12/11/08



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