少しだけ,期待してもいいですか
あいつは俺のことが嫌い。それは当然だ。だって俺は嫌われて,憎まれて当然のことをしたんだから。
だから,期待なんてしちゃいけないんだ.
雷門イレブンは今革命の旗の下,ホーリーロード優勝のため毎日練習に明け暮れている。そんな中松風と西園がウキウキしながら俺のところにやってきた。
「携帯買ってもらったんだ!」
俺が何か言う前に二人は口を揃えてそう言った。松風は顔を輝かせながら言った。
「剣城も携帯持ってるんだろ?使い方教えてよ!」
「取説でも読んでろ」
俺はそう言ったがあまりに二人がブーブー言うので仕方なく文字の打ち方やらなんやら教えてやった。
「そうだ,アドレス教えて!」
松風は名案!とばかりに俺に言った。俺は即効で拒否したが西園の言葉に一瞬停止した。
「でも,部活の連絡網とかあるから剣城の登録しておいたほうがいいよ。こないだもキャプテンから連絡回ってきたし」
「信介の言う通りだよ,剣城!」
「・・・お前ら神童のメアド知ってんのか?」
「うん!赤外線?で送ってもらったんだ〜」
ほら!と松風は電話帳の画面を見せてきた。そこには紛れも無く俺が焦がれる人の名前があった.ご丁寧に電話番号まで登録されている.俺は松風と西園が羨ましいと思う半面少し妬ましかった。
「早いな天馬,信介,剣城」
その時,背後から聞こえた声に俺の心臓が煩く跳ねた。
「キャプテン!」
松風と西園が神童の元へ仔犬のように駆け寄り挨拶をする。神童は笑って松風に挨拶を返した。
(・・・あんな顔,俺には見せないだろうな)
俺はというと携帯をいじるふりをして横目で神童を見つめた。今神童は松風と西園に囲まれ会話を弾ませている。胸が痛い.
俺が柄にもなく悶々としていると,神童が携帯を持って俺の方に向かって来た。そしてそのまま俺の隣に腰を降ろしたではないか。
「剣城,アドレス聞いてもいいか?」
神童の言葉に俺の脳みそはショートした。
(今,何て,)
目を点にして神童を凝視すると,神童は俺から目を逸らし口早に言った。
「て,天馬と信介のアドレスがあるから剣城には聞かなくてもいいかと思ってたんだけどな。天馬が何かあった時に困るしれないって言うんだ」
ふわふわウェーブの髪がはらりと揺れた。神童のほんのり染め上がったような顔を見て,俺は生唾を呑みこみ,神童の背中越しで親指を上げている松風と西園を睨んだ。
「いや,嫌なら構わないんだ。だがやっぱりキャプテンとしては部員の連絡先を知っていた方がいいからな」
「嫌とか言ってねぇ.俺も神童のメアド知りたい」
反射的に俺はそう言っていた。すると不安そうに瞬いていた神童の瞳がぱっと輝いたように見えた。俺の心臓がまた跳ねた。
長方形の画面に映る4文字。メアドだけでなく更には電話番号という豪華なおまけ付き。俺は緩みそうになる頬を懸命に制し,目の前に座る神童を見た。今神童は電話帳を開き,俺のアドレスが登録されているかどうか見ているんだろう。少しして,顔を上げた神童は俺に向かって言った。
「ありがとう剣城。これでいつでも連絡できるな」
優雅に,そして綺麗に神童は微笑んだ。俺に向かって微笑んだ。
(俺は嫌われているんだ)
だから,そんな笑顔を向けないでくれ。
(その笑顔を都合良く解釈してしまうから)
嫌われてないと。
(いいのか?)
せめて今だけ,
(いいですか?)
少しだけ,期待してもいいですか
(神童のメアドゲット!)