嘘ではないが本当でもない
安室さんから告白──という名のプロポーズされて数日。
私はバイトに行けずに引き篭っていた。
理由は簡単だ。
安室さんに合わせる顔がないからだ。
(悲鳴あげて逃げちゃったしなぁ…合わす顔がない……あと男性怖い)
はぁあ…という特大溜息をつきながら布団の中をごろごろする。
(気にしすぎなのかなぁ…嫌でもなぁ……告白後ってしかもプロポーズ付きで…。でもバイト行かないとマスターや梓ちゃんに申し訳ないしなぁ…2日も引き篭ってるし……あー、でも、うーん…)
引き篭っていても皆に迷惑がかかるだけだと分かってるのに中々バイトに顔を出せない自分が不甲斐ない。
(明日は出勤して謝ろう、安室さんもいつも通りに!……は無理かもだけど平常心で頑張ろう、私)
今日はもう明日に備えて寝よう、と思い布団に入り直した。
*
そして翌日。
私は一睡もできずとりあえずクマなどはコンシーラで隠して出勤した。
出勤した日が不幸か幸いか安室さんが休みの日だった。
マスターや梓ちゃんにはとても心配をかけてしまっていたみたいでもう謝り倒した。
土下座しようとしたら流石に止められたが…。
(安室さんがいないのは本当によかった、のかな…合わせる顔がないしね!うん)
自己完結した私は仕事に取り掛かった。
カラン、と音が鳴りお客様が来たのでお迎えするとそれはコナンくんだった。
「コナンくん!会いたかったよー!」
そして抱きつくことも忘れない。
「実はね、もう困ったことがあって…」
好きな席に案内しながら私は話を切り出す。
「困ったこと?それってもしかして安室のお兄ちゃん?」
「う゛えっ!?何故それを…」
「だって本人後ろにいるよ?」
え、とコナンくんの言葉通りコナンくんの後ろを向くと安室さんがいた。
(えええええええ!?!なんで私気づかなった!?!)
思わずテンパる私に対し安室さんは落ち着いてください、と落ち着いた声音で言ってくれて少し落ち着いた。
「え、あの…今日はなんで……」
「乃亜さんに給仕されるのもいいかなって思いまして」
「ひえっ!?」
安室スマイルを向けられ私は固まった。
(給仕…?私はメイドではない、よ、ね……?それとも私が知らない間にメイド喫茶になったの!?)
「多分乃亜おねーさんが考えてる事全部違うと思うよ。ここは喫茶ポアロでメイド喫茶に変わってないからね」
冷静なツッコミをありがとうコナンくん。
「コナンくんと一緒なら安全でしょう?乃亜さんも」
「え、あ、はぁ、そ、うなんです、かね…?」
歯切れ悪すぎる返事になったのは許して欲しい。
それぐらい安室さんに話しかけられると動揺してしまうのだ。
「そいえば乃亜さん、来た時コナンくんには抱きついてましたが僕には抱きついてくれないんですか?」
「…ぼ!!?」
人は驚きすぎると言葉を失うと言うが今それを私は実感した。
「だから僕には抱きついてくれないんですか、って」
安室さんは畳み掛けるように言う。
(安室さんに抱きつく…?私が…?コナンくんみたいにギューって…?え、無理無理死んじゃう死ぬ)
「えと、それはコナンくんの特権なので…安室さんにはないかなー…、なんてははは……はは」
途中乾いた笑いになったのは安室さんからの視線に耐えきれず横を向いたからだ。
(怖いよおおおおお、安室さんやっぱり怖いよおおお!助けてコナンくんー!)
と、思コナンくんに助けを求める視線を向けたがコナンくんは目線も合わせず出されたオレンジジュースを飲んでいた。
(は、薄情者ー!!!)
誰か助けてくれる人はいないの!?この安室ブリザードの中助けてくれる人はいないの!?って辺りを見回したが誰もいない。
南無阿弥陀仏、というのだろうかこれは…。
「あ、そいえば僕聞きたいことがあって乃亜おねーさんのところに来たんだー!」
「え、何!?なんでも聞いて!!!」
(薄情者とか思ってごめんコナンくん!貴方はやっぱり天使だよ!!!)
「乃亜おねーさんってなんで男性恐怖症なの?」
「…え、そ…、れは……」
突然乾いたように口の中の水分が消え言葉が紡がなくなる。
(言ってしまっていいの?こんな子供の前で?それに安室さんもいる。言ってしまってもいいの?)
「……ずっと学生時代に男の子にいじめられてただけだよ」
結局出せた答えはこれだけだった。
自分の声が凄い静かだったのは覚えてるけどあながち間違いではない、間違いではない。
あの事件を除いては────。
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