プロヒーローと個性





リカバリーガールにお茶を出され向かい合わせで座ったあと私は用事があるから後は任せたよ、と去っていくリカバリーガール。


そしてーーーーー。

長い、長い沈黙が私達を覆っていた。
時たまお茶を飲む音とお互いの呼吸音だけ。

(気まずい…めっちゃ気まずいです……)

「あ、まず自己紹介からだよね…緑谷出久って言います」

「あ、仙波彩です…」

自己紹介をしてまた沈黙。
どうしましょうか、と考えあぐねてる時向かい側に座っていた緑谷さんがおずおずと話しかけてきた。

「あの…仙波さんの個性って…」

「…あ、私ですか…私の個性は……」

と、自分の個性を口に出そうとして一瞬口ごもる。
でも緑谷さんの前で個性を両方使った後だ、隠しても無駄だということはわかっている。

私は口を開いて自分の個性を言った。










*



私の両親は元プロヒーロー瞬間ヒーラーという、どっかの雑誌みたいな名前のヒーローだった。
だけどその個性から絶大な人気を誇るヒーローだった。

父親の個性は自分が思い描いた場所に相手を瞬間移動できる個性。
母親は珍しく貴重とされる怪我をなかったかのようにする完全治癒の個性を持っていた。

そしてその間に私が生まれた。

私は両親の個性を2つとも受け継ぎ立派にすくすくと育って行った。

ーーーある日、敵に襲われるまでは。

私がまだ幼稚園の頃だっただろうか。

家が敵に襲われ親は死に私だけ父の最期の力を振り絞り私をどこかに飛ばした。
そこが雄英高校だった。

だけど私はその事件がきっかけ以来幼少期の頃の記憶をなくしていた。
両親の突然の死が小さな心には受け止めるにしては大きすぎたのだ。

だから私は幼少期の頃を何も覚えていない。
覚えていたのは両親の名前、自分の名前、個性、そしてーーーー両親の死だけだった。

その後私はリカバリーガールの所に引き取られ学園に保護されながら普通の中学にも通い、私は頼み込んで学園の目の届く安全敷地以内で一人暮らしを許可されたのだった。
一人暮らしをしたかった理由ははっきりとわからない。

でも、一人暮らしがよかったのだ。
守られてばかりじゃダメだと思ったのかもしれない。



*



「と、言うわけなんです…。正直個性を使うのは怖いです…」

私は正直自分の過去を個性を話すのが好きではない。
厳重に口止めされてるのもあるが個性を話すと同時に両親の死を思い出すからだ。


「あの絶大な人気の瞬間ヒーラーに子供さんがいてその子供さんが仙波さんだったなんて…嫌でもよくよく考えたら名字は一緒だな。それに僕に使ってくれた個性も一緒だ。やはり個性婚の間に生まれて尚且つ強大な力を持っていると敵に狙われやすいのか…待てよ、僕はもしかしたらとんでもない秘密を知ってしまったんじゃ…!?それに個性を使うのを怖がっている仙波さんに個性を使わせただなんて…!?」

緑谷さんは何かブツブツと言った後ハッと顔を上げた。

ヒッ、と思わず後ずさった後に緑谷さんは頭を下げた。

「仙波さん、ごめんなさい!そんな重い過去を僕に話してくれて…それに個性を使って僕の指まで完全に治してくれて…」

「いや、でも…人が目の前で傷つくのを放っておけない私のお節介が過ぎた行動なのでお気になさらず…!」

お互いにまた頭をぺこぺこと下げていたら保健室の扉がガラッと開きリカバリーガールと焦凍くんが入ってきた。

「あんたらまだやってんのかいね。もう私の用事は終わったから怪我のないものはさっさと教室に戻るんだね」

まさに鶴の一声だった。
お互いにぺこぺこと下げていた頭を止めてどちらともなく教室に向かい歩き出そうとした、気まずさを抱えながら。

「轟はあんたが心配で来たんだとよ」

と、私を指しながら言うリカバリーガール。

(え…?私ですか?)

「彩、行くぞ」

腕を強い力で引っ張られまともに挨拶も出来ないまま私は保健室を後にした。

緑谷さんのポカンとした顔を最後に。


















*


「あの、あの!」

私は大股で歩いていく焦凍くんに腕引っ張られもたついた足でなんとかついていく。
今にも転びそうだ。

「……なんだ」

「あの!早いです!今にも転んでしまいそうです!」

「…あ、悪ぃ」

と、いきなり止まった焦凍くんに突然私も止まれる訳もなく焦凍くんにぶつかった。


「あ、ああああの…、すいません、すぐに離れまー」

離れます、と言おうとした瞬間私は焦凍くんに抱きしめられていた。

「!?!!!」

突然の事に頭は沸騰体もパニックあたふたしてたら腰に腕を回されもっと密着した。


「…ッ!…ッ!?」

声にならない叫びが口から漏れる。
顔はおそらく真っ赤で体も全身沸騰したみたいに赤いだろう。

そんな私に構わず焦凍くんはギュッと抱きついてきて一言言った。

「…俺の前から突然消えた罰」

「???」

頭には?マーク。

(意味がわからないです…)

その後10分ぐらい抱きしめられていて予鈴のチャイムがなったあと漸く解放された。


(し、死ぬかと思いました…)