「あ、のさ…、近い」



「恋人同士なんだからこれくらいの距離問題ないさ」



「いやさ、私があるのよ…!」



目の前には私の彼氏の顔のドアップ。

顔の両脇には彼氏の手。




何故私は今こんな状況になっているんでしょうか。


それは数分前に遡ります。
















*




「はい、今日の練習はここまでっ。みんなお疲れさま。ゆっくり体を休めてね」



男子バスケ部監督―相田リコが部活終了の合図を告げると共に各々スポドリとタオルを取りに私の所に来た。

取りに来た選手にはお疲れ様、と一言声をかけ疲れすぎて動けない人のところには私がスポドリを届けに行きマネージャーとしての今日最後の仕事をこなす。





「火神くんお疲れ様。はい、スポドリとタオル」



「うっす…、ありがとうございます名字先輩」



「はい、黒子くんも大丈夫?」



1年生エースの火神くんと影が薄いことで有名な黒子くん。


今日も2人は仲良く同じ場所で倒れている。




「名字先輩ありがとうございます」



「いえいえー」



「うお…っ!いたのかよ黒子」



「僕が倒れていたところに火神くんが来たんです」



「マジかよ…」



「まぁ、今日は練習一段とハードだったし黒子くんに気づかなくても仕方ないさ」



「いつも見つけますよね…、名字先輩は」



「みんな見えないって言うけど私は普通に見えるし。…ってこの言い方失礼だ。ごめんなさい黒子くん」



頭を下げて謝る私に対し黒子くんはいつもの無表情で頭上げてください、というのでとりあえず頭を上げる私。


黒子くんの透明な水色の目と視線が絡み合い黒子くんが何かを言いかけた時、突如聞こえてきた私を呼ぶ声。





「名前ー」



「あ、ごめん黒子くん。またあとで話そう!」



「……はい」




ちょっと声音が拗ねてないか?黒子くん。
などと考えながら名前を呼ばれた主のところへ行く。




「なにー、鉄平。黒子くんと話してたんだけど」


名前を呼んだ人物―彼氏の鉄平のもとに行くといつものへらへら顔で私を呼んだ用件を言ってきた。



「それはすまん。スポドリがなくてな」



「うっそ。マジか!ごめん、すぐ作ってくるねー!」






んー、きちんと数数えて作ったのになー。
年ボケでもしたのかな?



やっぱ最近腰痛酷いしな…、などと考えながらも鉄平の分のスポドリを作っていく。


うし、できたっと。



走って鉄平の元に戻りはい、とスポドリを渡す。



「ごめんね。年ボケなのかもしれないわ」



「名前ももうおばあちゃんか。早いな」



「違うだろ、だぁほ」



軽く鉄平の頭を叩きながら主将の日向が鉄平の言葉にツッコンだ。



「そして名前もまだ年ボケの年齢じゃねーだろが」



「でもさー、最近腰痛酷くてさ。やっぱ家でも力仕事してるからかな?」



「力仕事?」



聞き返してきた鉄平にうん、って相槌を打つ。



「力仕事って何してんだ?」



「んとねー、米運んだりとか」



「何sのをだ?」



「確か…、30sのだよ日向」



「……30s?」



「うん、30s」




聞き返してきた日向。
こいつありえねー…、って顔してるんだが。



失礼な奴め。
これでも性別学上は女だい!




「名前は力持ちなんだな」



「おう!」



「いやそれはもう女の子とはいわな…、ぶべっ」



「何か言ったかしら日向順平くん」


失礼なことを言おうとした日向に右アッパーを食らわし黙らせる。


「………………女の子がアッパーって…」



「もう片方も逝っとく?」

「………イエ…、ナンデモアリマセン」



「うむ、よろしい」



「よろしいじゃないわよバカ」



「あいたっ。何すんのよリコ」



「今日の体育館戸締まり担当名前と鉄平でしょ?早く終わらしなさい」


あ、確かにそうだった気もするわ…。
やっぱ歳か、と思いながらも体育館の戸締まりを鉄平と一緒にする。



「そっち終わったー?」



「ああ。名前は?」



「私も終わったよー。それじゃ帰る?」


戸締りも終わった今ここに長居する理由もないしというか体くたくただしmyベッドが恋しい。


「名前、ちょっと寄り道して帰らないか?」



「んー、ちょっとならいいよ」

珍しいな鉄平が自分から寄り道しようって誘ってくるの。


そんなことを呑気に考えながら鉄平と共に一緒に靴箱を目指した。











*


で、どうしてこうなった。


目の前には鉄平。
後ろには壁。



これは俗に言う壁ドンというやつなのではないだろうか。

ただ私は鉄平の後ろをついていっただけなのに…!




「あの、鼻先すれすれ何ですが…」

鉄平の顔近いよ近い!



「恋人同士ならこれぐらい普通だって日向がいってたぞ」


あんの野郎…あとでぶち殺す。



「名前はいやなのか?こういうの」


えっ、え…。
パニックになり最早何て言えばいいかわからない…!
だってだって…!


「んなっ…、なっ」



「ははは、顔が炎みたいだ」


「せめて林檎といってくれませんかね…!」



「はは、それは失礼。で、どうなんだい?」


「えっ、え、え…、と………」

























た…っ、たまにはいいんじゃないかな…!




(なら毎日しようか)


(誰が毎日っていった!?たまにだよたま…、んっ)


(はは、毎日でもいいじゃないか)

(いきなり…っ、キ…!)


(なっ?)


(…………うん)