いざホグワーツを卒業するとなると、なんだか入学許可書が家に届いた日が昨日の事のように思える。
けれど確かに自分はこの学舎で7年を過ごした。魔法の多くを学び力を得て、そして代償に失った花もあった。
嫌な事ばかりが目立ち、後悔することばかりの学生生活だったが、楽しいと思えることもあった。今思えば、あの憎き悪戯仕掛け人共の事以外ならば、まあまあ良い思い出だと言えるだろう。
卒業式も終わり、それぞれに後輩や友人との別れを惜しむ者、互いの未来に夢見る者、不確定な未来に不安を感じている者と、様々な卒業生の姿があった。

スリザリンの後輩や知り合い達との別れを済ませたスネイプは、最後に会っておきたい人を探していた。
レイブンクロー生の集まっている所にその人物を発見したが、友人とのおしゃべりを楽しんでいるようだった。今までの間、どちらかというと自分と過ごしていた姿しか見ていなかったので、自分以外の友人と笑っている姿がひどく新鮮に思えた。
立ち尽くしてその姿を見つめていたスネイプにユウが気付いて、友人の輪から抜け出してこちらへ向かってくる。
近付いてくるユウの姿に、伝えなければいけない、とスネイプは覚悟を決めた。



「見つけられて良かった。セブルス、私、あなたに言いたいことがあって。…あのね、セブルス。私、あなたの事が…」
「オオサキ、僕の話を聞いてくれ」



話を遮られたというのに、どうしたの?と気にした風も無く小首を傾げて見上げているユウの黒曜石のような瞳には、当たり前のようにスネイプの姿が映っている。
そんな小さな事実がかつてはあんなにも幸せに思えたというのに。今ではこんなにも胸が痛く感じる。そう感じてしまう理由が自分にあるのだと知っているスネイプは、ユウの目から自身の視線を反らすことは無かった。



「オオサキ。僕と君は、このホグワーツで良い友人同士だった」
「え…?」



スネイプの友人同士だった、という言葉にユウの表情が凍り付いた。
ホグワーツ在学中の2人は確かに良い友人同士だった。しかし6年生の時にはユウとスネイプはキスをした。特に互いに言葉は無かったが、長く一緒に居たのだから気持ちは同じなのだと、互いにそう通じあっていたから。
だからそれからも2人は友人以上の関係であったけれど、はっきりとした恋人同士ではなかった。手を繋いだりもしなかったし、四六時中一緒に居たわけでもない。しかしキスは何度か交わした。けれどキス以上の事は決してしなかった。キス以上の事は、きちんと恋人になった時にと互いに思っていたから。
ただ2人共に一緒に居た時間が長すぎて、好きだとはっきり言うタイミングを逃していたのだ。だから今、ユウが決意したのだというのに…それをスネイプが砕いたのだ。
悲しみに彩られていくユウの表情に胸を痛めながら、それでもスネイプは残酷な言葉を続けなければいけなかった。…それが、自分達の為であるのだと信じて。



「オオサキ。僕と君は永遠に良い友人同士だ。ここで別れになるけれど、僕は君と友人になれて本当に良かった。今までありがとう、オオサキ」
「…セブルス、どうしたの?なんだか、いつものあなたらしくない…。それにその言い方ってなんだか、もう二度と会えないみたいな…」
「ああ、そうだ、オオサキ。僕と君はもう二度と会わないんだ。…それが僕達の為だ」



スネイプが卒業生後、どういう進路を希望したかをユウは知っていた。そしてユウの進路をスネイプも知っていた。同じ魔法使いでも2人の辿る道は真逆の物。だからこそスネイプはユウとの縁を切ろうとしていた。
日本へ帰るユウの事までを、あの方は追い掛けたりはしないだろう。自分との関わりすら無くなれば、イギリスの闇がユウに気付いたりはきっとしないだろうから。
スネイプの言葉にユウは俯いた。
唇を噛み、言いたかった想いと言葉のすべてを飲み込む。スネイプの言い分は正しいから、反論すべきでは無いのだと。マグル生まれの自分を助けてくれようとしているのだと。気持ちのすべてを押し殺して、ユウは顔を上げて微笑んだ。



「そうね。私とあなたは最後まで良い友人同士よ。けれど私は祖国に帰り、イギリスへ戻るつもりは無いから、あなたとはここでお別れね」
「…ああ、そうだ」
「あなたの事は絶対に忘れないわ。今までありがとう。…それじゃあ、私、汽車の時間があるから急ぐわね。まだまだ挨拶したい人がいるから」
「…元気でな、オオサキ」
「あなたもね、スネイプ」



握手を交わし、友人として最後の挨拶をしたユウは笑顔だった。
手が離れてユウはスネイプからどんどんと遠ざかっていく。呼び止めたい気持ちをスネイプは押し殺した。別れを一方的に決意し、彼女の気持ちを踏み躙った自分には、彼女を呼び止めたいと思う事自体が許されない。ファミリーネームを呼ばれた事を、悲しく思うのだって許されないのだ。
それで当然なのだと、なにも思ってはいけないのだ。



「…ユウ、」



心に秘めた想いすら、闇に生きると決めたスネイプには言葉にできなかった。せめてもに最後に口に出した初めて呼ぶ彼女の名前すら、彼女には届かずに消えてしまう。
もう二度と会えないのだとしても、この別れで彼女が光の中で幸せに生きられるのなら構わないと、スネイプは遠ざかるユウに背を向けた。



(20110808)

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