ふわりと風が吹いた。春が近い陽気は心地好く、内心本を手離して眠ってしまいたいとさえ思う。
湖の湖畔は図書館と同じくらいに居心地の良い場所だ。ここにはあまり人が近寄らないので、静かに読書に集中できる。



「セブルス」
「ああ、オオサキ」



ユウだけは、彼がいる場所へ来るのだけれど。彼にとってユウだけは、特別だった。
脇に本を抱えたユウは、スネイプの隣に座った。スネイプは今まで読んでいた本のページからユウへと視線を変えた。



「オオサキ、友達といなくてもいいのか?」
「急に何言ってるの。私がセブルスといたいんだから、大丈夫よ」



当然だと言いたげに言い張ったユウに、彼は少し、いやすごく嬉しくなる。友達との時間よりも、自分との時間を優先してくれるなんて。とても嬉しい。
ユウは膝の上に本を置いたまま風に揺れる髪を手で押さえて、こちらへと笑いかけた。スネイプはなんだか恥ずかしくなって、思わず少し顔を背けてしまう。



「ね、セブルス」
「…なんだ」
「私ね、図書館で読書するのも好きよ。でも、ここで読書も好き。どうしてだと思う?」
「僕にオオサキの考えてることが分かるわけないじゃないか」
「ふふ、そうね。…ねえ、セブルス?こっち向いて」



ユウの方へ顔を向けず、真っ直ぐに前を向いていた彼の顔にユウの手が添えられる。スネイプの顔は優しい力でユウの方へと向けさせられる。
ユウの黒曜石のような黒い目がスネイプを真っ直ぐに見つめていて、その目の中に自分が映っているのをスネイプは見つけた。1度見てしまえば、まるで引き込まれたようにスネイプはユウから目を反らせなくなる。
スネイプには、柔らかく笑っているユウの表情が、とても美しく輝いて見えた。



「セブルス、ほんとに分からない?」
「…ああ」
「そう」



微笑みを浮かべたまま伏せ目がちになったユウの表情に高鳴る心臓を無視しながら、スネイプは一生懸命に平静を装った。
ふわりと春風が2人の間を吹き抜ける。
風が届けた木の葉がユウの髪に落ちてしまったのに気付いた彼は、おずおずと手を伸ばしてユウの髪に触れる。
それに気付いたユウは目を開き、スネイプを見つめた。髪についた木の葉を取るために近付いていたスネイプの顔に気付き、ユウの頬は朱を刷いたように赤に染まった。
恥ずかしげにまた目を伏せてしまったユウに、スネイプはどうしようもない感情が胸の奥から沸き起こるのに気付いた。
髪に触れていたはずのスネイプの手はいつの間にかユウの頬を触れていて。



「…ユウ、」
「セブルス…?」



ゆっくりと近付いてくるスネイプの顔を拒絶する理由はユウに無いので、そのままユウは目を閉じた。

初めて重ねた唇は、ひどく温かく、そして幸せを共有するものだった。



(20110801)

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