授業の無い、日曜日の午後。レイブンクロー生のユウ・オオサキは図書館に来ていた。
ほとんどの生徒なら授業の無い日くらい、談話室などで友人と自由に会話を楽しむ所なのだが。教授方に勤勉であると称される彼女は、そんな時間も勉強に費やしていた。

彼女は純粋な日本人であって、決して英語が得意だとは言えなかった。会話は十分にできるのだが、ライティングが酷く苦手なのだ。文法や単語のミスをしないようにと、彼女はいつだってレポートに必要以上の気を配っていた。
そして、そんな勤勉な彼女だからこそ、まだまだ提出期限が先の魔法史のレポートをこうした自由な時間に少しずつ進めているのだった。

彼女の特等席はいつだって窓際の一席。日当たりも丁度良く、また入り口の方とは真逆の奥の方にあるのであまり人がいないので集中しやすい。
そんないつもの席に向かうユウは友人の姿を見つけた。いつもの席に座り、隣の席で読書に勤しんでいる友人へとユウは顔を向けた。



「こんにちは、セブルス」
「ああ、オオサキ。またレポートか?」
「ええ、魔法史のよ。早くやらないと、ただでさえ私は進めるの遅いんだから」
「…5年だぞ?お前はまだ英語に慣れないのか」



そんなに喋れるのに。と呆れた顔をした友人に、ユウはむっとして頬を膨らませた。
杖を振って必要な本を引き寄せたユウはそれをきちんと机の上に並べて、不満げな表情のまま友人のセブルス・スネイプを見た。



「いやね、セブルス。母国語以外の言語を改めて習い、覚えようとすることの大変さをあなた知ってるの?」
「ふん、そんなのは個人の意識の問題だろう?」
「まあ。大変さを知らないからって偉そうに」



ユウはスネイプのひねくれようには慣れていた。スネイプの難ありな性格をも受け入れて、それすら個性として捉えるユウだからこそ、スネイプとは波風を立てることなく友人としてうまく付き合えているのだ。

それきり、ユウはレポート作成に集中し、スネイプも読書に集中しだしたので会話は途切れた。が、その静寂は心地よい静けさで。ユウはそんな瞬間が大好きだった。
レポートに集中し、一心不乱に羽根ペンを進めていると、ふっと目の端に手が見えた。もちろん、ユウの手では無いので必然的にその手はスネイプのものである。
なんだろう、と顔を上げたユウのすぐ目の前に、体をこちらに寄せてレポートを横から覗き込んでいるスネイプの俯き気味の顔がすぐ側にあった。それに驚き目を見開いたユウに気付かないスネイプは、指でとんとんと文章の一部を叩いた。



「ここは過去形じゃないと文がおかしいぞ?」
「……、」
「オオサキ?」



顔を上げようとしたスネイプに、ユウはスネイプが顔を上げきる前に僅かに後ろへと仰け反る。かあ、と顔から耳まであつくなるのだが、そればっかりはユウにもどうにもできないので諦めた。
スネイプはユウが僅かに仰け反っていることには大して反応せずに、ただその顔の色に首を傾げた。



「オオサキ、具合が悪かったのか?」
「え?いや、ううん、大丈夫よ。大丈夫。で、ここだったわよね?いつも教えてくれてありがとう、セブルス」



矢継ぎ早にユウは言葉を紡ぎ、スネイプが教えてくれた場所を慌てて訂正する。
スネイプはいつもレポート中に文法の間違いや書き写しのミスなんかを教えてくれている。それにはユウも心底感謝しているのだが、どうにもその教え方がいただけない。

近いのだ、距離が。
やはり英国は挨拶にハグやキスをするだけあって、人と人の距離が良い意味でも悪い意味でも近い。人との距離感を大切にする日本で生まれて、その日本育ちのユウにとっては近すぎる距離というのは、恥ずかしくて仕方ないのだ。それは5年生になった今でも慣れない。
アジア出身の生徒はおれど、日本出身はあまりというよりは全くと言っていいほどに居ないホグワーツでは、日本と英国の文化の違いというものが知られていないのだ。
明らかに動揺してみせているユウにスネイプは毎回同じ反応をすると思いながらも、もちろん今回も理由までは分からなかった。

首を傾げながらも再び読書に集中しだしたスネイプに、ユウはそろりと目を向けた。
真っ黒で長めの髪はねっとりとした印象を持たせ、鼻は高く鉤鼻、髪と同色の目は表情を変えないせいで暗く、陰鬱な様子を見せる。性格も捻ね曲がっており、他人を見下し拒絶するような言動なんてしばしば。
スネイプのそんな容姿や性格を多くの人は煙たがり、そして嫌った。
だが、ユウはその多くの人とは違い、スネイプのことが好きだった。当然ライクではなく、ラブの方で。
ユウはスネイプのたくさんの優しさと素晴らしさを知っており、それらを知るうちにスネイプに恋をしたのだ。ごく自然に、まるで当たり前のように。



「オオサキ」
「なあに?セブルス」
「夕食には一緒に行こう」
「ええ、もちろんよ」



そしてユウは、スネイプが自分だけに見せてくれる笑顔に心惹かれてやまないのだ。



(20110724)

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