ホグワーツの決戦から2ヶ月。
まだまだやることは山積みではあったが、それでも少しは余裕というものができてきて。この日遅くなってしまったが、僕は決戦後初めて彼の病室を訪ねた。
ノックしてから入った個室のベッドの上で、眠るように目を閉じている彼がいて。その表情はどこか安らかに見える。彼の望みがあの場面での死であったのだとその表情が訴えるようで…。
あの時に託された彼の記憶はあまりにも自身を犠牲にするばかりの今までを教えてくれて。彼はあんなにも自身を犠牲にして僕を守ろうとしてくれていたなんて、自分の事ばかりで子供だった僕は気付きもしなかったんだ。
そんな彼の記憶の中にあった父や母、シリウス達との記憶。
彼の言う通り、僕の父は卑劣だった。母を手に入れるために彼を貶め、愚弄してきていた。それはシリウスも同じで。それでも父もシリウスも僕にとって大切な人であることに変わりはなくて。そしてまた、真実を知った今では、あんなにもかつては憎らしかった彼も大切な人の1人になった。
父や母達との記憶の中の一部に出てきた、見たことのない女性は一体誰だったのだろうか。



『セブルス、』



柔らかく笑って彼に笑いかけていた少女は、彼の名を呼ぶ一瞬でしか見ることはできなくて。まるで彼女との記憶は誰にも見せたくないのだと言わんばかりに、その光景は一瞬で消えてしまったのだけれど。



「あれが先生の未練ですか…?」



その答えをくれる声は返ってこないまま。
腹立たしかった嫌味も、こうして聞こえなければどこか寂しく感じるのは、僕の中で彼の立ち位置が変化したからだろうか。
今までの失礼を謝りたいな、と胸の内で呟いた時だった。出入り口であるドアの開く音と共に、



「君は…」
「あ…」



彼の記憶の中に一瞬だけ現れた少女の面影を持つ女性がそこに立っていた。
彼女は腕の中に花のささった花瓶を抱えていて。室内に入った彼女は彼のベッドサイドの台に飾り、そうして僕の横に並ぶようにもう1つあった椅子に座った。



「初めまして、ミスター・ポッター」
「あなたは…」
「私はユウ・オオサキ。あなたの両親やセブルスと同期のホグワーツの卒業生よ」



ふわりと柔らかく笑った笑顔は、彼の記憶で見たそれと同じ優しさで。
一体彼女は何者なのだろうか?
彼の眠る横顔を見つめる彼女の目には何とも形容しがたい感情が込められていて。僕は意を決して彼女に問うことにした。



「あの、あなたは先生と一体どういう関係で…?」



彼の記憶の中に現れ、そして彼が誰にも見せたくないと思っていたであろう彼女との記憶。彼の未練だと言える彼女は一体彼にとってどんな人物で、そして彼女にとって彼はどんな人物なのだろうか。
僕の質問に瞬きをした彼女は慈しむように目を細め、彼のとはまた違った黒い神秘的な目に僕を映した。



「そうね、私と彼の関係かぁ…。彼とは決戦の前に一緒に生きようと約束をしたけれど、彼はやっぱり私を置いて逝こうとしたみたい」



酷い人よね、と困ったように笑って彼女は眠る彼の頬を撫でた。
彼が死ぬ決意をしてあの決戦の中にあったことは簡単に想像はできる。でもまさか、その直前に明日を約束した人がいたなんて思いもしなかった。
彼女はそれから彼と卒業後に再会したことから今までのこと、決戦の始まる少し前に彼に母国に帰るように言われたこと、決戦が終わって1ヶ月してようやく再び彼と再会できたことを話してくれた。
その話からたくさん伝わってくる日常の愛情。彼女はきっと彼を深く愛していて、そして彼も彼女を深く愛していたのだろう。だからこそ彼は彼女を安全な国外へと逃がし、守ろうとしたのだろう。



「ハリー、またセブルスに会いに来てあげて?彼はあなたをこれでも大切にしていたから」
「はい、もちろんです。彼が僕をどれほど献身的に守ってくれていたかを、僕はあの戦いの中で知りましたから」
「良かった。これでもう、彼は誰かに憎まれるように生きなくてもいいのね」
「あの、ミス・オオサキ」
「なあに?」
「また、こうやって話せますか?父や母、シリウスや彼の学生だった頃の話を聞きたいんですが…」
「ふふ、もちろんよ。私は毎日ここに来ているわ」



またお話できるのを楽しみにしているわ、ミスター。
彼女と僕は、そうして出会った。


(20120428)

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