ずっと闇ばかりが広がる場所だった。ここならば、月の光すら届かないだろうと思うくらいに、深い深い深淵。
そんなところに、自分はいた。
なぜ自分がここにいるかが分からない。けれど、ただ言えるのはここにいれば自分はひどく楽だ。闇は私の体に寄り添ってくれる唯一のもの。孤独に凍った心を慰めてくれる、そんな存在。
それは今も昔も変わらない。
『ほんとうに?』
本当だとも。
そう断言できる…はずだったが、何かがそれを邪魔する。邪魔するものはなんだ?闇から私を引き剥がすようなもの、それは一体なんなのか。
今まで私の居場所は闇の中だった。闇は孤独な私を包み、癒し、寄り添ってくれていたのだ。それ以上のものが、私にあるというのか。
『あるわ。ダメよ、セブルス。すべてを闇に投じないで』
「…ちゃんと帰ってきて」
女性の白い声の後に響いたのは甘い、優しい声。
そうだ、この声を私は知っているはずた。いや、忘れてはならい、投げ捨ててもならないかけがえのない記憶。
闇ではなく、彼女こそが私の孤独を溶かし、寄り添い、慰め、共にいてくれるべき存在なのだと気付く。
ああ、そうだ。私はあの手を、捕まえなければならないのだ。
「…、ユウ」
白い病室に響いた低く、それでいて優しくて甘い声にユウは驚いて振り返った。
あの決戦の日から、一体何日が経っただろうか。正確に言えばきっと、もう半年以上はすぎてしまっているだろう。
あの決戦が終結してから、ユウは1ヶ月くらいしてからイギリスに帰ってきた。そして、病室で死んだように眠るスネイプと対面した。
彼が生きていると聞いた時には、心から泣きたくなるくらいに嬉しかった。後に癒者からスネイプについて説明を受けた時には、いつ目覚めるかも分からないスネイプの容態にわずかな絶望を覚えた。けれど同時に、彼が目覚めるま待ち続けようと思ったのだ。
待ち望んだその瞬間が今、やっとやってきてユウは溢れる涙を抑えきれなかった。
「セブルス、」
「ああ、ユウ…」
掠れた自分の声に、スネイプは苦笑した。満足に動かせない自身の体にも、同じように苦笑した。
流れるユウの涙を、拭ってやりたいのに体が動かしずらくて、それも儘ならない。けれどそれでもどうにか腕を動かして、スネイプはユウの頬の涙を指先で動かし拭った。
そのスネイプの手に手を重ねて、幸せそうに微笑むユウが愛しく感じる。
『ね?あなたに寄り添うのは闇ではないのよ』
耳の奥に響く、かつて心から愛した女性の柔らかな声にスネイプは小さく笑った。
ああ、そうだ。私に寄り添うのは闇ではない。ユウなのだと。
緩慢な動作で上体を起こし、もう一方の腕もどうにか動かして、ベッドサイドの椅子に座っていたユウの手を引いた。ユウの体は簡単にスネイプの胸へと倒れ込んできて。そんなユウをスネイプはぎゅっと抱きしめた。
「ただいま、ユウ」
「おかえりっ、セブルス…っ」
リリー。私は今度こそ見失わず、まっすぐにユウを愛しぬく変わらない永遠の愛を、永遠に朽ちない君に誓うよ。
(20120108)