「え?リリーの子供、もう4年生なの?」
「ああ、そうだ。…父親に似て、生意気で傲慢な子供だ」
「でも、なんだかんだ言ってかわいいんでしょ?」
「ありえん!」



あら、そう?と小さく笑うユウの姿に、スネイプはむっとしたように眉間に皺を寄せた。
ユウと再会してから1年が過ぎた。気付けば週に4日くらいはスネイプはユウの家で過ごすようになっている。ユウの家の暖炉と、ホグワーツの自室の暖炉を繋いだので、行き来に時間を取らなくなったのだ。
ユウが用意した食後の紅茶を飲みながら、先ほどの話の余韻からかスネイプは不機嫌そうな表情のままだった。



「ああ、でもそんな憎まれ口言ったって、あの子はリリーの子供だもの。あなたはきっと心の奥では慈しんでいるんでしょうね。あの子には気付かれないように。…セブルスは、そういう人だもの」
「オオサキ…」
「セブルスは本当に素敵な人ね。たった1人の女性を一途に愛し続けるなんて。そんな風に誰かを愛する人なんて、そういるものではないわ。一途にセブルスに想われ続けてるリリーはきっと、とっても幸せね。幸せだったはずよ」



ユウの口から出るリリーの名に、セブルスは苦いものを感じた。
確かに自分の初恋はリリーだった。可憐で聡明で、誰にも優しかったリリー。
初恋とは特別だ。そこからある意味、それからの恋愛観が生まれるとも言える。だが、初恋の相手への感情はいつしか恋慕ではなくなる。憧憬にも似たような、はたまた親愛にも似たような、とにかく恋慕の感情では無い別の特別になる。
スネイプは恋慕の感情では無いにしろ、今でもリリーの事は想っていた。亡くなってしまった今でも、大切で特別な人には違いない。
しかし学生時代のある時を境に、スネイプにとって最も恋しく、愛しく、大切である人物はリリーではなくなった。
スネイプはリリーの名から感じる罪悪感に似た苦い思いを嚥下し、僅かに目を伏せるようにして俯いた。



「ならば、」
「うん」
「ならば、君は幸せか?」
「え?」
「私に愛しいと想われ続ける君は幸せなのか?」
「…っちょ、セブルス、それって…。でも、リリーは、」
「リリーは特別だが、恋慕ではない。私が今でも心から求めているのは、君だ、…ユウ」



はっきりと言い切り、顔を上げたスネイプの目に飛び込んできたのは、驚きに目を見開いているユウの表情だった。いつもの柔らかな雰囲気も、優しい笑顔も感じられない。ただユウに浮かんでいるのは動揺と驚き。
信じられないと唇を戦慄かせるユウの姿に、それも仕方がないとスネイプは困ったように笑った。
かつてユウの気持ちを蔑ろにしたのは、確かにスネイプ自身なのだ。例えスネイプにどんな理由があったとしても、ユウが悲しみを感じた事に変わりはない。

今、ユウに気持ちを伝えるつもりは始めは無かった。だがユウと再会してから、距離が昔のように縮まっていく事が嬉しかった。そして距離が無くなるごとにスネイプの中のユウへの感情が膨らんでいった。
元より学生時代から好きだったのだ。その感情が自らの口から吐露されてしまうのも時間の問題だともスネイプは気付いていた。
次のユウからの言葉を、柄にも無く不安に感じる。もし拒絶されたら?その悲しみを考えるだけで背筋が凍るようだった。
しかし同時に、卒業式のあの日のユウもこんな気持ちだったのかと思うと、どうしようもなく切なくなった。
そんなスネイプの思いを知らず、ユウはやっと落ち着いたのかじっとスネイプを見つめる。



「…ねえ、セブルス。その言葉は真実なの?」
「もちろんだ」
「なら…。なら、私はあなたを信じていいのね?私を愛してくれている、セブルスを」



ユウの言葉をどう捉えればいいのか、スネイプは分からなかった。あまりにもはっきりしない言葉。けれど柔らかに、嬉しげに笑うユウに期待するように心臓は跳ねた。



「セブルス、私はとっても幸せよ。学生の頃からあなたがずっと好きだったから。…私に想われ続けてるあなたは、それを幸せだと感じる?」
「…ああ、当然だ。幸せに決まっている」



幸せすぎるその瞬間に、スネイプはその時だけはあらゆる苦しみと罪悪感から解放された心地になったのだ。

それはスネイプにとって、泣きたいくらいに幸せな瞬間だった。



(20110922)

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