まだ世界にきみがいなかった頃の話


※異次元などについて独自解釈や捏造がございます。苦手な方はご注意ください。

 世界にはいくつもの並行世界が存在している。
 人生における選択の岐路にて、その選択の数だけ世界の可能性は存在しており、世界に影響しているのは何も人間の選択だけではない。世界に存在しているあらゆる物の数だけ世界は分岐しているのだ。人によって異なる文明の育まれた世界。人の滅んだ世界。そもそも人が存在しない世界など。生命以外にも、炎の大地しか無い世界。殆どが海に飲み込まれた世界。緑ばかりが茂った世界。厚い氷に閉ざされた凍った世界。何も無い世界など。荒唐無稽に思えるが、しかし世界が複数存在しているのだと知っている者たちが確かにいた。
 それは先の大戦において、真の黒幕であったカグヤとの戦いの最中に判明したことだった。そしてそれらの世界にもカグヤの影響は及んでいるのだと、唯一の輪廻眼を宿したサスケだけが感じ取ることができ、その脅威を排除することができた。
複数の世界を渡り、そこに残されたカグヤの痕跡を辿って、その先にある脅威を消し去っていく。痕跡を追えば追うほどに判明する気の遠くなるような膨大な世界を渡り、長い時間を掛けてカグヤをサスケは追い続けることを決意した。それがサスケができる唯一の贖罪であるからだ。そんなサスケを追ってサクラも旅に同行するようになり、二人で進む旅の中でサスケはようやく自分の変わらぬ気持ちと向き合えるようになった。
 それは、ただの同行者としてではなく新しい関係を育みながら二人で旅を続けていたある時のことだった。


「ねえ、サスケくん、これって・・・」


 サクラの呼び声にサスケはそちらへと顔を向けた。
 二人が現在旅をしている地域にはかねてより人を食らうという穴についての噂がちらほらと上る場所である。古くは神隠しだと言われ、今でも失踪者が年に数人は出るような、そんな曰く付きの土地だった。それらが異次元に繋がる穴である可能性があると踏んだ二人は、異次元に繋がるということはそこにカグヤの何らかの痕跡があるのではないかと考えて調査をしていたのだ。
 サクラが指し示すのは大木の根元にぽっかりと開いた洞だった。通常の洞であればその中は木肌が見えるだけのただの穴であるはずだというのに、その洞は青白く淡く発光している。明らかにそれは尋常の物ではないだろう。


「おそらく、これが人を食らう穴とやらだろう」


 洞のある大木の前で立つサクラに並び、地面に片膝をついたサスケは左目に宿った輪廻眼の瞳力を解放させながらその洞を覗き込んだ。輪廻眼を通して確認した洞の奥は歪んでおり、どうしたってその全容を把握することはできない。
 これが本当にカグヤに関係のある次元の穴だとするのなら、その先を確認してカグヤの痕跡を調査し、それが完了してからこちらの世界に戻って穴を塞ぐ作業が必要となるのだが、これらの作業にはサスケの輪廻眼を大きく消耗することとなる。そのため、この作業に挑む際には万全の状態で挑まなければいけないのだ。行った先が安全とは決して限らず、むしろ危険地帯だという可能性だって十二分にある。もしも輪廻眼の瞳力を消耗した状態で次元を渡り、その先が危険であったが、瞳力を消耗しすぎてすぐに元の次元に戻れないなんて上段でも考えられない事態なのである。
 サスケの輪廻眼はこの洞を探すためにこれまでに行使してきた関係で、既にかなり消耗している。このまま洞の中の調査へ乗り出すのは自殺行為だと、今日のところは一旦態勢を整えて日を改めようと、そうサクラへ告げようとサスケがサクラへと顔を向けた時であった。


「サスケくん!」


 悲鳴にも似たようなサクラの声に、慌ててサスケが洞の方へと再び向き直った。瞬間、目に飛び込んだのは渦を巻いて周囲の風景を取り込もうとしている洞だった。ずず、と音をたてて空間を飲み込んでいく穴は、サスケやサクラが立っている場所までもを飲み込もうとしていて。


「まずいな・・・サクラ、オレに掴まれ!」
「うん!」


 最早逃げる余裕も無かった。飲み込まれた先で離れ離れになってしまわないようにと、サスケはサクラを自身の側へと呼んだ。その指示にサクラは即座にサスケの側へと身を寄せた。しかし今や片腕のみとなってしまったサスケの腕を掴んだりすることもできず、ただ寄りようようにするばかりのサクラを見おろしたサスケは、決して離れないようにと彼女の細い手首をしっかりと握る。少しばかり驚いたようなサクラの気配が伝わってきたが、それに反応する暇もなく、サスケとサクラは渦巻く洞の中へと飲み込まれてしまった。
 そうして二人が姿を消した後、洞の発光は止み、渦の余韻一つも残さずに元通りの静かな空間がそこに戻ったのだった。

***

「いたた・・・」


 どこかぶつけたらしい肩を撫でながら、サクラは身を起こした。突然口を開いた異次元へ通じるの穴に吸い込まれてしまって、気付けばどこかに吐き出されていたらしい。サスケは一緒かと視線を巡らせると、すぐ側に倒れているサスケを発見することが出来た。痛む肩を確認すると、どうやら自分たちは高い所から落下したらしく、思わず顔を上げて頭上を見上げるもそこには穴のようなものは何一つ見つけられなくて。
 そうしているうちにサスケが目覚めたらしく、サスケもサクラと同じように身を起こした。


「ここは・・・」
「分からないわ。森の中、のように見えるけど・・・」


 どこか痛む場所があるのか、顔を歪めながら起き上がったサスケへ教えてやれる情報を目覚めたばかりのサクラは持っているはずもなかった。ここがどこかの森の中であるということしか、現状としては判明していない。
 瞬く間にいつもの無表情へ戻ったサスケはここがどこかを探るように輪廻眼を発動させて見回しているようであった。一見すればいつもと変わらぬ平静な姿に見えるが、共に旅をしているサクラにはサスケがこれまでの輪廻眼の使用によってとても消耗していることが見て取れた。


「サスケくん、大丈夫?」
「・・・ああ」
「そう、無理しないでね」
「ああ」


 もともと白い顔色を青白くさせながら、サクラの忠言にサスケは素直に頷いた。医師としても立派な観察眼を持つサクラに隠し事をしたところで無駄であるとサスケは知っているのである。
 しかし今は休んでいるような暇は無いと、サスケは意識を周囲へと走らせる。輪廻眼による消耗は激しいが、この場所が一体どこなのかも早急に把握し、元の世界にどうやったら戻れるのかも探らなければならない。サクラはもちろん、サスケも友人のナルトのように優れた探知能力を持っているわけではないのだ。そのため、この場がどういう場所なのかを把握できるまでは過剰なほどに周囲に気を配らなければならない。
 ふと、サスケはこちらへ近付いてくる気配に気が付いた。


「二時の方角、何かが近付いてくる。警戒は怠るな」
「ええ」


 どこにでもありそうな森の中であるが、ここは次元の違う世界である。何かが近付いてくるように感じられるが、その相手が人間だとは限らない。もしかしたら鬼や魔物、もしくはカグヤの置き土産という可能性だって十二分にありえるのだ。誰が、どんなものが出てきても即座に対応できるようにと、二人は自身の得物に手を伸ばし、体の中に充分な程のチャクラを練り上げておく。
 そうして。音もなくそれらは二人の前に降り立ったのだ。


「貴様たち、何者だ」


 二人の前に降り立ったのは二人の人間に見える者たちであった。いや、彼らはおそらく人間であろう。サスケたちと同じ姿をしており、サスケたちと同じ言語で話しているのだ。その身の内のチャクラや風体からしても、物の怪や魔性の物という可能性は限りなく低いだろう。
 それよりも、彼らの容貌に二人は目を離すことが出来なかった。
 彼らはどちらも男のようで、濡れ羽色の髪をしていた。どちらかといえば色白で、目鼻立ちははっきりと整っている。目はまるで夜のような黒い色をしている。それらの風貌は二人にとって既視感の強いものであり、そう、まるで。
 まるでサスケの、うちはの血脈を感じさせる風貌をしているのだ。
 それを感じた二人は思わず彼らの事を黙って凝視してしまったが、しかし彼らはその視線を気にした風もなく再び口を開いた。


「再度問おう。貴様ら、何者だ。どこからこの里へ来た」
「・・・・ええと、私たち旅をしているんですけど、この森の中で迷ってしまったみたいで。とても困っていたんです」
「道に迷った?」


 彼らのうち、一人の再度の質問にサクラがが慌てて口を開くが、その答えに一方の男が怪訝そうに眉を顰めた。彼らの視線が真っ直ぐに向けられる。強い警戒感を宿した黒い目は、かつてサクラがサスケに向けられたことのある目に酷似していた。
 彼らはちらりとそれぞれに目配せを交わしてサクラを見やってから、次にサスケへとその黒い目を向けた。


「貴様は・・・」
「・・・」


 自身へ向けられた視線と言葉に、サスケは沈黙で返した。しかしサスケのそれは意図した沈黙では無く、咄嗟の言葉が出なかった故の沈黙である。サスケには自身の事だからこそ、おそらくサクラ以上に彼らの風貌に既視感を感じている様子であった。
 今やサスケ以外の皆が滅んだうちはの血筋。しかしサスケが幼い頃には当たり前のように大勢のうちは一族の者たちが生きており、彼らはサスケにとって近しい隣人であり、彼らが周囲で息づいている事が当たり前だった。その顔つきにそれぞれの違いはあれども、皆に共通していたうちは特有の特徴というものがある。他の一族の黒髪黒目とはまた違った深い黒髪黒目、白い肌、整った顔つき。これらはうちはの者のみに現れる特有のものだ。それを、先程姿を現した彼らは余すことなく持っていた。
 自分と亡き兄以外のうちはなど久しく見たことも無かった。その事実にサスケは想定外に動揺し、彼らの言葉に応えることもできなかったのだ。
 しかしサスケのその様子を見て、何かを思ったらしい彼らは再び各々で目配せを交わしたかと思うと、二人へと向けていた視線の中から警戒感を僅かに薄れさせる。突然のその変化に驚く二人をよそに、彼らは再び口を開いた。


「ひとまずの事情は理解した。・・・・もうすぐ夜になる。その軽装での野宿も厳しいだろう。とりあえず我らの里へ案内しよう」
「だがその前に、悪いが荷を改めさせてもらう」


 二人は彼らの言葉に従い、その場で荷物を彼らに預ける。持っていた荷の中には見られて困るようなものは持っていない。サクラの荷を改め終えた彼らの視線が次に向いたのはサスケが後ろ腰に佩いている刀へだった。


「例外はない。そちらも預からせてもらおう」
「・・・分かった」


 差し出されたその手に、サスケは素直に従った。
 そうしてからようやく彼らは二人を挟むようにしてから移動をし始めた。
 彼らの言う里というのは、一体どんな場所なのだろうか。故郷である木の葉隠れの里とは異なる場所なのだろうか。それとも、誤魔化しようもない既視感を感じる彼らの言う里というのはもしかして・・・。
 そんなことを二人は口に出さずに胸中に同じように浮かびあげていた。
 それからしばらく歩いてから。


「さあ、着いたぞ」


 大きな門構えの前に着いたのだ。
 徒歩でそこへ着いた頃にはもう既に太陽は沈みかけており、夕暮れ特有の薄暗さに周囲は包まれている。それでも。それでも二人には分かっていた。その大門を見た時から。色や形は馴染みあるものとは異なっているものの、太陽の方向や、森からの距離や場所などから計算して、それが二人の故郷である木の葉隠れの里の大門と同じ場所にあるのだと。
 二人にとっては見知らぬように感じられるここは、間違いなく木の葉隠れの里であったのだ。
 里の中でも彼らに案内された先は、里の一角に設けられた小さな屋敷で。彼らに促されて二人はその屋敷の中へと足を踏み入れた。と、瞬間に感じられた違和感に二人が思わず彼らへと顔を向けると、彼らは顔色一つ変えずに二人を見ていた。


「やはり貴様ら忍だな」


 断定的なその言葉にこの屋敷に入った瞬間に感じた違和感が忍にしか感知できない何かであったのだと気付き、思わずと言った風にサクラが口を開く。


「嘘を言ったつもりはないわ」
「ふむ、確かにな」


 サクラが彼らに説明したのは旅をしていたが森の中で迷ったということだけ。自分たちが何者かを口にしたこともないし、そこを彼らに追及されたわけでもない。あの場で一般人か忍かをしっかりと追及しなかったのは、彼らの落ち度であるのだ。
 男はサクラの堂々とした返答に小さく喉を鳴らして笑ってから、しかしそれも次の瞬間には感情の読めない無表情となった。


「この屋敷に入った瞬間に気付いただろうが、この屋敷には結界が張られている。この屋敷から許可なく出てると感知される。もちろん、術者以外が解除しても感知されるようになっている。大人しくしていれば、ひとまずはこちらも害することはしないと約束しよう。貴様らには、明日、我らの長に会ってもらう」
「あなたたちの長に?」
「ああ。長には嘘は通用しない。貴様らが何者であろうと長に太刀打ちすることもできないだろう。旅を続けたいのであれば、今夜は大人しく過ごし、明日は正直者となるのだな」


 男は口を閉ざすと話は終わりだと言わんばかりに屋敷の引き戸を閉めてしまった。


「・・・ここにいても変わらないし、とりあえず上がらせてもらいましょう」


 このまま玄関先に立っているわけにもいかないだろうというサクラの提案にサスケは異論を唱えることもなく二人は室内へと上がり、玄関の廊下から繋がる各部屋を確認する。
 屋敷とは言ったものの台所のような場所は一切なく、あったのは和室が二部屋と風呂とトイレだけだ。


「この屋敷丸ごと座敷牢って感じかしらね」
「そうだな」


 さしたる広さも無い屋敷の中、和室の一つに二人は集まった。
 屋敷に巡らされた結界のせいなのか、屋敷周囲の気配を探ることが叶わず、この屋敷を何人の者たちが監視しているのかを知ることができなかった。これらも全て、屋敷に張られた結界のせいなのだろう。
 サクラの言葉に肯定を示したサスケはそのまま考え込むように口を閉ざしてしまい、代わりとばかりにサクラが口を開いた。


「ねえ、ここってやっぱり木の葉よね。大門もあったし、それにサスケくん以外の・・・」
「・・・ここは、オレたちの知る場所では無いということだろう。大門に阿吽の文字は無かった。それに、」


 サクラの言うように、サスケもここは木の葉隠れの里に間違いないと感じていた。だが木の葉の入り口として有名な大門が二人の知る形とは違っていることに加え、街並みも違っていた。そしてサクラは直接的には言葉にしなかったが、サスケ以外のうちは一族は二人の知る世界では既に滅んでいる。しかし先ほどの彼らは二人ともにうちはの者であると、他でもないサスケは確信していた。そして彼らの方も、サスケが同胞であると感じていた様子でもあったのだ。
 違いはそれだけではない。
 サスケは見ていたのだ。この屋敷に案内される最中に巡らせていた視線の中で見つけた真っ新な岸壁。それを思い浮かべながら、サスケはサクラへと真っ直ぐに視線を向けてから口を開いた。


「ここには顔岩が無い」
「えっ、それって・・・」
「無い、というのは正確ではないだろう。おそらくだが、ここには顔岩がまだ彫られていないのだろう」


 サスケの言葉にサクラは何かを悟ったように考える様子を見せた。その反応にサスケは小さく頷きながら、決定的な言葉を口にした。


「おそらく、この世界はオレたちが知るよりも過去の世界だ」

***

 翌朝。太陽が登り切ってからしばらくして、屋敷への来客を告げる前触れがあった。
 文を携えた小型の鷹が窓を嘴で叩き、その足に取り付けられていた文を二人が読んだのを確認してから、その鷹はどこかへと飛び去っていったのだった。その鷹が携えていた文に書かれていたのは、昼四ツに参る、という簡素なひと文のみであった。
 そうして昼四ツの頃合い。
 屋敷の戸を叩く音が二人の耳に届いた。はい、と返事したサクラが和室を出ていこうとするよりも早く、返事を聞いたらしい相手が戸を開いた音が二人の耳に入った。


「出迎え無用。そこで待て」


 玄関の方から聞こえた男の声は昨日の男のものではない。音を聞き取ろうと二人は耳を澄ませるも、玄関の方からは先ほどの声以外の何の音も聞こえてくることはなく。玄関はおろか、そこから続く廊下を歩く音すら聞こえてこないということは、相手は間違いなく忍であると二人は確信を持って待った。
 そうして。音も少なく開かれた戸を潜り、一人の男が和室へ姿を現した。その男を目にした瞬間、サスケもサクラも表情に出さぬままに戦慄した。
 男はハネの強い長い髪を背に流しており、その髪色は混じりけのない黒。肌は色白で目鼻立ちのはっきりとした整った顔つき。その中でも特徴的であるのは膨らんだ涙袋だろうか。そうして二人を纏めて睥睨するように正面に腰を下ろしたその男の目は、まるで深淵の底を思わせるような黒だ。
 そこにただ座っているだけでも圧倒されるほどの存在感と緊迫感に、二人は気付かれぬように細く息を吐き出した。


「さて。風変わりな客というのはお前たちのことか」


 男は感情の読み取れない低い声で二人へと口を開いた。言葉を投げかけたようにも聞こえる言葉であったが、その声色が返答を望んでいるものではないのだと二人は経験から知っている。口を噤んでいる二人を見やった男は表情を変えることもなく、ただ泰然とそこに存在していた。これが、生前の姿なのかと、そう思ったのはサスケだけでは無いはずだ。


「オレはこの里の防衛を司る、うちはマダラだ。さあ、お前たちの話を聞かせてもらおうか」


 その男はかつて、サスケやサクラが経験した先の大戦と呼ばれる第四次忍界大戦の黒幕であり、そしてサスケの因果という意味での前世を背負っていたうちはマダラに相違なかった。
 先の大戦で対峙したうちはマダラはあまりに強大で、あまりに恐ろしい男であったが、その男の本質が邪悪ばかりでは無かったのだと知ったのはマダラの最期の瞬間になってようやくのことであった。
 二人の知るうちはマダラとは、木の葉隠れの里を創設した者であると同時に、最初に里を滅ぼそうとした大逆人。歴史の中では千手柱間が初代火影に就任してから里を離れ、謀反人となって里を急襲した。しかしそれは千手柱間にとって退けられ、公にはこの時にうちはマダラは死亡したと伝わっていた。しかし実際には生き延びており、次に歴史の表に姿を現したのが第四次忍界大戦の折で、それ以外に姿を現したことなどなかったというのに。ましてや、あのうちはマダラが木の葉の防衛を司っていたなどという歴史は存在していない。この歴史の齟齬に気付いたのは、なにもサスケだけでは無かった。サクラも同じように気付き、その違いに戸惑っていた。
 しかしその中でも最も先に口を開いたのは、やはりというべきかサスケであった。
サスケは臆することなくマダラを見やり、自身とは深さも種類も異なる深淵を真っ直ぐに見据える。


「・・・これからオレたちが説明することに、一切の偽りは無いと誓う。だが、それを信じるかどうかは、そちらに任せる」
「ふむ。心得よう」


 思いもよらないような凪いだ返事に驚きながらも、サスケは自分たちが何者であるのか、どうしてここにいるのかを包み隠さずに全てを正直に明かした。
 うちはに虚偽は通じない。うちはの瞳術の本質は超人的な動体視力でもある。この目の前には無意識のほんの僅かな表情の動きも見抜かれてしまい、嘘を吐こうとしても嘘を吐くとき特有の無意識の表情の動きによって看破されてしまう。それを知っているからこそ、サスケはマダラにとっては荒唐無稽な話だと分かった上でも真実を告げることにしたのだ。
 自分たちは未来からやって来たということ。次元の狭間を抜けてしまったことから、おそらくこの世界は自分たちの生きる世界の過去というわけではないということを。
 話せる限りを話し、終わりだとサスケが口を閉ざしてからもマダラが次いで口を開くということも無かった。その沈黙が続いてしばらく。ようやくマダラが動きを見せた。


「部下達からはうちはの元忍が友を連れて旅をしていると聞いたが、まさか旅は旅でも時空旅行だったとはな」


 くつくつと低く笑うマダラの口から聞こえてきた声には、これといった敵意などは感じられはしなかった。予想もしていなかったマダラの反応に二人共に戸惑ったような雰囲気を醸し出していると、それを正しく受け取ったらしマダラが薄い笑みを浮かべたまま二人を見やった。


「ふむ、未来か・・・。おい、」


 そう言って目を眇めたマダラは視線はそのままに、ふとどこかへと呼びかけた。その呼びかけへの応えは和室から廊下へと繋がる襖の向こうから聞こえてきた。


「はい」
「あれを呼べ」
「しかし、本日も仕事がおありだと」
「承知している。文句を言う奴がいれば火急だと言え。それと、このオレが呼んでいるのだとな」
「は、かしこまりました」


 男のその声は、マダラがこの屋敷に到着したことを知らせたものと同じ声で。うちはの族長であるマダラの護衛なのだろう。その気配がこれまで一切感じられなかったところからしても、おそらく護衛の男もかなりの手練れであろうことが予想できた。
 その返事をしたきり襖の向こうからの声も聞こえなくなり、マダラも声を発しなくなったことから、護衛の男はマダラの言う何者かを呼ぶべくすでにその場を立ち去ったあとなのだろう。
 それからしばしして。


「ご到着でございます」
「通せ」


 再び襖の向こうから先ほどの声が聞こえたかと思うと、マダラの返事を待ってからその襖が音もなく開かれた。廊下と和室を隔てる敷居を跨いで入室してきた人影は一つ。その人物を見やり、息を呑んだのはサスケただ一人のみで、サクラはただその人物を観察するような視線を向けるだけだった。
 その人物は女だった。白い肌に長い黒髪を簪で高く結い上げており、マダラと同じくうちはの伝統的なゆったりとした衣服に身を包んでいる。その女は躊躇うことなくマダラの近くへと腰を下ろすと、ようやくその顔を二人へと向けた。恐ろしいほどに整った顔したその女は、二人のことをその宵色の目でじっと見た。
 その顔を正面から見たサスケは、やはりと気付かれぬように細く息を吐いた。
 あれは間違いなくうちはアヤメである。先の大戦の折、大蛇丸によって穢土転生させられた過去の忍びの中に唯一含まれていたうちは一族の女で、彼女はマダラにとって唯一の存在である。しかし大蛇丸曰く、彼女についての記録は全ての記述においてその名は秘匿とされており、後の世となった時にはその存在を知る者はいなかったという。しかしなぜ大蛇丸が彼女を知っていたかというと、ある記述に写輪眼によって隠匿術が施されていることに気付き、その封を破ったことにより彼女の存在を知ったのである。うちはマダラにはうちはアヤメという妻がおり、その女は戦争にも唯一参加したうちはのくのいちであるのだと。それによってアヤメの存在を知った大蛇丸はうちはの性質もあって、アヤメであればマダラへの抑止力として多少なりとも役に立つだろうと、その魂をあの世より呼び戻したのだ。
 そのアヤメと関わったのはサスケとサクラの両名のうちではサスケのみである。とはいっても、マダラとアヤメが戦っていた姿を直接見ていたわけでもなく、ただ数度、言葉を交わしたことがある程度である。そして、その最期を見届けただけだ。サクラの方はというと、机の向かいに座る彼女が大戦の終わりに穢土転生が解除される際、既に生者として肉体を得ていたマダラが穢土転生の旧友たちと共に逝くこともできない中で、その肉体を焼き払って共に逝った穢土転生の女であるとはまだ気付いていない様子だ。
 今ここに、かつてのうちは族長夫妻が揃っていることに気付き、サスケはらしくもない緊張感を覚えていた。
 そんなサスケの心中を見抜くような宵色の目を二人へ平等に向けていたアヤメであったが、その目を緩やかに細めて笑みを浮かべて見せた。


「初めまして、うちはアヤメよ」


 その口からはっきりと名乗られたうちはの名に、サクラが息を呑んだ気配がサスケに伝わった。彼女にとってのうちはとはサスケと、その兄であるイタチ、そして机を挟んだ向こう側に座っているマダラのみなのである。そこに新たに現れたうちはの、それもこれまでに見たことのないうちはのくのいちだというのだから、サクラのその反応も仕方ないだろう。おそらく、サクラはうちはマダラとアヤメの関係を知らないはずだ。
 戸惑いと驚きに口を開けないでいるサクラに代わり、先に口を開いたのはやはりサスケであった。
 マダラを見やり、次にアヤメを見やる。あの邂逅では悲哀と悲壮な覚悟ばかりを見せていた彼女の姿。塵芥で象られたひび割れた偽りの肉体に望まぬまま蘇った過去の亡霊と、こうして異なる過去の中で生きている姿。それぞれの姿はあまりに対照的だとサスケは感じた。


「うちは、サスケだ」
「うちは?」
「ああ」


 名乗ったサスケに目を向けてきょとりと首を小さく傾げた。確認するように復唱された姓を肯定して見せれば、彼女は何かを考え込むような表情をしながらそう、と呟いた。その彼女が次にその宵色の目を向けたのはサスケの横に並んで座っているサクラへであった。その目を向けられたことに気付いたサクラが慌てて口を開いた。


「サクラです」


 サクラも自身の名を名乗った。しかしサスケと異なり、姓を名乗らぬサクラにマダラとアヤメが同じように怪訝そうな表情をしてみせる。


「悪いが事情があってこいつの姓は伏せさせてもらう。この時代でサクラの姓を持つ一族が存在しているのか、どう影響するかが不確定なのでな」
「道理だな」


 サスケの弁明にマダラが片眉を上げながら構わないと許す姿に、二人は細く安堵の息を吐いた。しかし事情を良く知っていないらしいアヤメが首を傾げたのを見て、マダラはサスケとサクラがこの屋敷にいる理由を簡単に説明した。
 マダラからの話が終わったのを合図にしたかのように一つ頷きを見せたアヤメが次に視線を向けたのはサスケへであった。


「異次元・・・これで納得したわ。だってうちはに、サスケという子供はいないもの」


 緩く笑みを浮かべて見せるが、その言葉は油断できたものではない。彼女はサスケが名乗った時から、サスケがマダラの統べるうちはにはいない者であることを知っていたのだ。しかしそれでもすぐに行動を起こさずにマダラの話を待っていたアヤメのその冷静さと判断力は、まさしく忍である。
 それで、と再び口を開いた彼女はその目を再びマダラへと向けた。


「わたしを呼んだのは一体どういう理由で?」
「お前を呼んだのは他でもない、奴らの話が真実かどうかを確認するためだ。・・・まずは、強力な幻術の線だ」
「そういうことね」


 マダラの言葉に納得したように頷いて見せた彼女は、一度目を閉じてから再びその目を開いて二人へと向き直る。その目に浮かぶ万華鏡を見て、息を呑んだのは二人共に同じであった。
 両目に万華鏡を宿し、怪しくも美しく煌めくそれを二人へ向けたアヤメは変わらずに穏やかな微笑みを浮かべて見せる。


「安心してちょうだい、あなたたちを害することは何もしないわ」


 そう言ったアヤメは警戒を解くことはしない二人に困ったように苦笑を浮かべながらもそれぞれに目を合わせる。時間としては数秒。覗き込むように合わせられた視線に居心地の悪さを感じないでもなかったが、しかし彼女は言葉の通りに万華鏡写輪眼で目を合わせても幻術をかけようとする仕草も気配もなく、すぐにその目は二人から離れた。
 瞬き一つで宵色の目に戻したアヤメはマダラに向かって首を横に振った。そんな二人の様子を見ていたサスケが顔を微かに歪めた。


「写輪眼を使って幻術破りか」


 サスケの言葉に答えたのはマダラの方だった。


「お前たちの時代でどうであったかは知らないが、アヤメの瞳術、特に幻術は他に追随を許さん。解術もそうだ。どんな強力な幻術であろうと、アヤメに解けない術は無い」


 当たり前だと言わんばかりにそれを告げたマダラに、二人のうちでも特にサクラはアヤメというくのいちの能力の片鱗を感じ取る。
 二人の生きる木の葉の里において、幻術で随一といえば夕日紅の名が上がる。今はくのいちとしての前線を退いたくのいちであるが、現役であった頃には様々な幻術を駆使していたとサクラも聞いている。しかしうちはの写輪眼を用いた幻術はそれ以上である。写輪眼の本質は観察眼と幻術にこそあり、うちはの中でも最も脅威であったと言われ続けたマダラにそう称されるアヤメの幻術センスとは、正しくその通りなのであろう。
 サスケに目を向けたマダラは再び口を開いた。


「さて。次に確認したいのはお前たちの生きる時代のことだ。尾獣のことを言っていたな」
「ああ」
「その尾獣は、九尾は操られていたとも言っていたな」
「・・・ああ」
「やはり、そうか」


 言葉を切ったマダラに、サスケもサクラも揃って口を噤む。
 かつて、九尾を操って木の葉を襲った人物こそうちはマダラである。写輪眼を用い、それを悪用して里を急襲し、甚大な被害を出した。しかしそれを防いだのが千手柱間で、その妻であるうずまきミトが九尾の最初の人柱力であった。
 九尾の襲撃があったことは先ほどサスケがマダラに伝えた過去の一つだった。しかしその中で九尾を操った人物がマダラであることは明かしていない。万が一、この時間軸のマダラが自身に尾獣最強の九尾を操る力があるのだと知り、その方法を探り始めてしまう可能性だってあったためだ。そのマダラがやはりと言った。やはり九尾は操られていたのかと言わんばかりのその口振りに、二人の間に緊張が走る。もしかして、このマダラもまた九尾を操ろうと考えているのかと。
 マダラはそんな二人の意図も知らず、言葉を続けた。


「お前たちのその様子、九尾を操ったのはやはりオレか」
「・・・九尾を操る方法を既に知っているのか」


 強張った面持ちで自身を見据えるサスケに、マダラは愉快そうに目を細める。


「ああ、知っているな」


 その一言に戦慄したのはサスケもサクラも同じであった。
 九尾とはまさに理不尽なまでの凶悪な災害である。天災といわれるに相応しく、その凶暴さと恐ろしさは人智を遥かに超え、唯一暴れる九尾を絡めとることが出来たのは忍の神である千手柱間のみである。彼以外の何物も九尾に敵うことなく、柱間以外で九尾を抑え込む方法があるとするならばそれは強力な封印のみ。
 その九尾を掌握する方法をやはり知っているのかと、知ってどうするつもりなのかと、そう警戒を強める二人の姿を無色の目で睥睨したマダラはふっと溜め息に似た息を吐き出すと、やれやれと言った風に目を細めた。


「そう警戒するな。話は終わっていない。お前たちの世界のオレは南賀ノ神社の石碑にて、尾獣を操る方法を知った・・・違うか?」
「いいや、違わない。オレもその中身を見た」
「ああ、そうか。うちはのお前ならあの石碑も読めるか」


 この世界のマダラも二人の世界のマダラと同じく、うちはの氏神を祀っている神社の地下に隠されていた石碑の存在を知り、そして言葉ぶりからしてこのマダラも石碑を読んでいるのだ。
 しかしマダラの言葉はそれで終わりではなかった。


「あれの存在に先に気付き、読み解いたのはアヤメだ。オレではない」


 その言葉に二人の視線がアヤメに集まるのを見ながらマダラは言葉を続ける。


「あれの存在をアヤメに知らされた時は驚いたが、だが生憎とお前たちのオレとは異なり、このオレはあれの内容にも実行にも微塵も興味が無い」


 さらりと言い放たれたマダラの言葉に今度は二人の視線はマダラへと向かう。
 あまりに平然と言い放たれたその言葉の重みをこの世界を生きているマダラは理解していない。マダラが九尾を操って木の葉を急襲しないということは、つまりうちはマダラの裏切りが無い可能性が高いのだ。うちはマダラが木の葉を裏切らなければ、サスケたちの世界でマダラが直接、もしくは間接的にも関わって起こった多くの不幸が生まれないということだ。すぐ身近の話でいえば、サスケにとっては一族がクーデターを起こそうとする未来は無くなり、つまりは一族が滅亡してしまうことも、最愛の兄が重すぎる業を背負う必要も無くなるというというのだ。ナルトにとっては両親と自身が生まれた瞬間に死別することもなかっただろうし、九尾を封じられなかったナルトは人々から後ろ指を差されることも無かったということだ。
 そのことに真っ先に思い至ったのはサクラだった。この可能性はサスケにとってあまりに残酷すぎやしないかと思ってサスケを窺うように横目に視線を向けると、当の本人はあまり気にした様子も無くただマダラが里を裏切る可能性が低いという事実を受け止めているようであった。
 サクラの心配げな視線に気付いたサスケが強い意思を秘めた目配せをこちらへと一瞬向けてくれたことに、サクラはマダラやアヤメに気付かれないように安堵の息を吐いた。サスケはもう、ただ絶望と憎しみに身を委ねるような子供でもないのだ。自分の杞憂に過ぎなかったのだと、サクラは心底安堵した。
 そんな二人のやりとりをマダラとアヤメは特に気に留めた風でもなく、次に口を開いたのはアヤメの方だった。


「あの石碑の事はこの里ではマダラと私、あとは柱間殿と扉間しか知らないわ。他の者に知られて厄介なことにならぬようにと、この四人であの石碑自体を打ち砕いたから今はもう存在しないの。わたしたち以外が知らないはずのあの石碑の存在を知っている、わたしたちのうちはに存在しない同胞・・・」
「ああ。まったく、考えたくもないが確かに、異次元というのは存在するのだろう。そしてお前たちがその異次元の先の、オレたちの歩む未来とは異なる未来を生きる忍だと。認める他にないだろう」
「わたしもマダラに同意見よ」


 やれやれといった風なマダラと、苦笑に近い表情をしているアヤメ。反応の仕方はそれぞれであるが、しかしその言葉の内容はサスケとサクラの置かれている状況を信じるというもので。
 ひとまずの難関を突破できたことにサクラは胸を撫でおろした。しかしサスケのみは未だ緊張感を緩める様子もなく、自身の知る過去とは異なる世界のうちはの族長夫妻を見つめた。その視線に気付いたらしいアヤメが、どうしたのと小首を傾げて見せたのを合図にサスケは口を開いた。


「オレたちの処遇はどうなる。オレたちの置かれている状況を信じてくれたとはいえ、オレたちはこの里の部外者だろう」


 サスケの言う通り、この状況をマダラらが信じてくれたとしても二人の置かれている立場は変化がない。異次元の過去において二人は異分子であり、部外者だ。マダラやおそらく千手柱間が存命ということは里が創設されてそう長いわけでもないだろう。里を興しているまさに最中という所に部外者が、それも異次元の者がいるなど知られて混乱が起こってしまう可能性がないとも言いきれない。あらゆるリスクの可能性がある以上、この里の警護を預かっているというマダラが二人を野放しにしておくとも思えなかった。
 サスケの言葉を受けたマダラは器用に片眉を上げながら二人をそれぞれ見やった。


「そうだな。帰る目途は立ちそうか」
「ああ。オレの瞳力が回復次第、去る」
「そうか。この世界は未だ、かつての戦禍の傷跡も多く残っている。サクラはともかく、サスケ、お前が里の外で厄介ごとに巻き込まれない可能性は限りなく低いだろう。そのため、お前たちが異次元を渡ってきたことを内密にできると誓うのであれば、このオレの権限で里に旅人として滞在することを許そう」


 どうだ、誓えるか。そう言わんばかりのマダラの鋭い視線に二人はそれぞれ目配せをした。
 マダラは言葉にはしなかったが、この誓いを破ってしまえばおそらくマダラ直々に始末をつけるということだろう。あの大戦を戦い抜いたサスケにとって輪廻眼を開眼していないマダラはそう脅威ではないともいえるが、しかし危険なのはその横に控えるアヤメの存在だ。先ほどのマダラの口振りからして、彼女の瞳力が幻術に特化していることは知れている。しかし、写輪眼の幻術の程度というのはその人間によりけりである。サスケの写輪眼はあまり幻術に特化しておらず、幻術だけでいえば兄のイタチの方が長けていた。しかしそのイタチの写輪眼の幻術も、かつてイタチから聞いたイタチの友はイタチ以上の幻術を扱ううちはだったらしい。その友の幻術はイタチから最強幻術とさえ言われるほどのものだったという。アヤメの幻術がどの程度か判明していないものの、マダラをもってして他に追随を許さないと評されるアヤメの能力は決して油断のできないものだろう。
 万が一にでもマダラとアヤメ、もしくはマダラ率いる精鋭部隊と交戦しなければならないという状況は防ぎたいというのは二人共通の認識だった。それを確認しあった上でマダラに向き直って口を開いたのは、やはりサスケであった。


「ああ、誓う」
「ならば誓約は成立だ。オレはこの件を柱間と扉間に報告へ行く。お前たちはアヤメに宿へでも案内してもらえ」


 そう言うと衣擦れの音一つなく立ち上がったマダラは、片手で印を組むと横目でちらりとアヤメを見やった。その視線に微笑みを返したアヤメを確認したかと思うと、マダラはそのまま瞬身で瞬く間に立ち去ってしまったのだった。


「では、ここからはわたしが引き継ぐわ」


 マダラの低く固い声とは打って変わって、柔らかで穏やかな声が二人に向けられた。机の向こう側で二人へ向けて柔らかな表情を見せているアヤメは宵色の目をそれぞれへと向ける。


「この屋敷は滞在を目的とはしていないので、あなたたちが帰るその時まで旅人として滞在のできる宿へ案内します。あなたたちの準備が出来次第、移動しましょう」


 そう言って微笑むうちはアヤメの姿は、あの大戦中にサスケが見た悲壮な笑みを浮かべていた姿とはやはり似ても似つかぬものであった。

2021/02/05
(2021/02/19)
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