もう二度と会わないだろうと。そう思っていた。

ホグワーツ在学中、私と彼は確かに関係上では一応恋人同士だった。なぜ一応なのかというと、私ばかりが彼を好きで好きでたまらなくて、彼の本当の気持ちを私は知らなかったから。だって彼は一度だって好きだと言ってくれなかったし、私に触れようともしなかった。私が告白した時だって彼はただ頷くばかりで、言葉での返事はしてくれなかった。
そんな関係だったから、卒業してから自然と関係は消滅された。
最初は私から彼へ手紙を書いていたけれど、彼からの返事は一度も無かった。段々と減っていった私の手紙にも何の反応も無くて。やがて私からも手紙を書く事を止めた。
魔法の世界はその時闇の時代で。彼は闇の陣営にいた。私は癒者として働いていて、それでも彼を愛した。私達を繋ぐ細くて脆い関係が途絶えた後も、私は変わらずに彼を愛していた。
闇の帝王の失脚後、風の噂で彼が母校で教鞭を執っている事を知った。そこへ至るまでの経緯も知った。
彼がかつてから、とある女性に心を寄せていた事は知っていた。その上で私は彼を愛し、そして私はその女性以上の存在にはなれなかった。彼は私よりも彼女を必要とし、そして愛していたのだから。
もう過去の事だと彼は私を忘れてしまっただろうと思い、私も彼を忘れた振りをした。恋心に封をして心の奥底へ隠した。

彼を忘れたまま、月日はどんどんと過ぎていった。再び闇の帝王が蘇ったと噂されだした時も私は相変わらず癒者を続けていた。
いつしか闇の帝王は真実に蘇り、かつてのように戦いが始まった。私達癒者も毎日のように運び込まれる患者を救うべく戦った。しかしそれでも多くの人が命を落とした。毎日のように絶望を表現したニュースが飛び交い、あまりにも世界は闇に染まり過ぎていた。
けれどそんな闇もいつしか打ち払われた。
英雄と讃えられた少年が、闇の帝王を討ち滅ぼしたのだ。

ようやく、世界にも私達にも平和が来るのだと思っていた。なのに。
最後の最後に目にした遺体。どうか傷だけでも消せないかと運び込まれた遺体に、私は今までで一番絶望した。
もう二度と会わないだろうと思っていた彼が、運び込まれたから。固く目を閉じている顔からは血の気は無く、触れた肌に体温すら感じられない。ただただ、冷たいだけ。
正直、私は彼の遺体を前に何も出来なかった。同僚や上司が私に代わって彼の処置をしてくれたのは、少しだけ心が軽くなれた。

数日後の彼の葬儀に参列し、それでも私は彼の死についてまだ受け入れることが出来なかった。
あんな形での再会だというのに、私の隠した心が騒ぎ、愛しくなった。やっぱり彼が好きだと思った瞬間に、どうしようもないくらいに涙が出た。
あまりに泣く私に上司は数日間の休みをくれた。
休みの間、家に引きこもった私は相変わらず毎日泣いて過ごした。もっと素直になれたら良かった。意地を張らず、彼に愛をねだれば良かった。一度くらい、会いに行けば良かったのだと。後悔と行き先の無い愛しさばかりが堂々巡りをする。

そんなある日、私へと手紙が届いた。
誰からかと送り主の名を確かめれば、愛しい彼の筆跡で彼の名が綴られていて。慌てて私は手紙を開いた。


『久しぶりだな。私から君へ手紙を書くのは初めてで、正直に言えば何を書けば良いのかが分からない。

ただ、私は君へ謝らなければならない。
私を愛してくれた君へ、私は何も返す事が出来なかった。あの頃の君には悲しい思いばかりをさせたはずだ。だがこれだけは信じて欲しい。私も君と同じ気持ちだったのだと。
卒業してから、君が送ってくれた手紙に返事を書けなくてすまなかった。君という存在を知られたく無かったのだ。段々と少なくなって、来なくなってしまった君からの手紙に私はどうしようもなく後悔した。
直接謝りたいと思ったのだが、私は君の住所はおろか、何をしているのかさえ知らなかった。ましてやあの頃は闇の時代。君を探す事も出来なかった。

脅威が去った後、君を探そうと思ったのだが、もし君と再会した時にどんな顔をすれば良いのかが分からなかった。もしも君が全てを知り、そして私を拒絶したらと思うと、柄にもなく恐ろしくなった。
そうやって決心がつかないまま、今再び脅威が蘇った。
相変わらず私は君の住所を知らないので、この手紙はミネルバに託す事にする。この手紙は私が死んでしまった場合、彼女の手で君に届くようにしてもらうようにした。
できれば、全てが終わってから君に直接会って話がしたい。そうできれば良いと思っている。だが、この手紙を君が読んでいるということは、私はもう死んでしまったのだろう。

君にもし夫や恋人がいるのならこんな事を書くのは不適切だろうが、最期になるやも知れないので書かせてもらう。
名前、私は君がずっと好きだった。今も変わらずに。そして、今まで本当にすまなかった。

どうか君が未来へ生きられるよう』


そこで終わっていた手紙に、私は更に涙を流した。手紙には、私がずっと聞きたかった言葉が記されていて、私がずっと待っていた言葉はもう二度と聞く事は出来ないのだと知らされたのだ。
過去はあまりにも甘美に私を彼の元へ誘おうと手招きした。けれど彼は手紙の最後に私が未来を生きる事を望んでいた。
それは最初で最期の彼から私への願い。
ならば私は彼を愛した者として、彼の願いを叶えるために命の限り生きなくてはいけない。


「…セブルス、愛しているわ」


きっと私の命が続く限り、未来永劫私の心はセブルス・スネイプだけの物だろう。


(20110810)

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