シリウスは珍しく早朝に目が覚めた。
部屋ではまだ友人達がぐっすりと寝ていて、別に二度寝するのも良いのだが目が覚めているので眠れそうにない。ならば自分のベッドで読書でもしながら時間を潰してもいいのだが、残念なことにくるくるもじゃもじゃな友人が大きな寝言を披露してくれている。リリー!なんて大声で叫ぶその寝言をよそに、他の友人はよく眠れるものだと関心してしまう。いつもは自分もその寝言を無視して寝ているのだけれど。
シリウスは着替えを静かに済まし、レポートを書くために必要な物を手に持って談話室へ行くことにした。まだまだ起床するには早すぎるので、談話室で静かに課題でも進めようと思ったのだ。
談話室にはまだ誰もいないだろうと踏んでいたのだが、先客がいた。


「名前?」
「あ、おはよう、ブラック。今日は早いね」


名前はシリウスに呼ばれて、首だけを動かして振り返った。シリウスはこの季節では使わない暖炉の前のソファーに座っている名前の方へと歩いて行く。
シリウスは名前に片想いしているのだ。名前ともっと仲良くなるチャンスだと、シリウスは思った。


「名前も早いな」
「うん。今日はなんだか目が覚めちゃって。本でも読んで時間潰すつもり。ブラックは?」
「あー、俺も目が覚めて。どうせだし、レポートを進めておこうかなって」
「そっか」


そのまま読書を再開してしまった名前に残念な気持ちになりながらも、シリウスはソファーの斜め後ろにある椅子に座り、持ってきた書きかけのレポートやら教科書やらを机に広げ、勉強に勤しむことにした。
時折、羽根ペンをインク壺へつける音やページを捲る音が、会話の無い談話室に響く。
沈黙だが居心地の良いその雰囲気に、30分もするとシリウスはなんだか眠くなってきてしまった。
いつも同室の友人達の中で一番最後まで寝ているのはシリウスで、今日は珍しく早起きなんかしてしまったものだから猛烈に眠い。
羽根ペンを置き、どうにか眠気を払おうとするが。眠いものは眠い。せっかく好きな女の子と2人きりなのに、と思いながらも睡魔には勝てなかった。
腕を枕にして完全に寝る体勢に入ったシリウスは、もう半分くらいは船を漕ぎだしていた。

羽根ペンの書く音が止み、振り返った名前は今にも眠りそうなシリウスを見つけた。


「私ね、ブラック」
「…んー?」


話しかければ眠そうな声で律儀に返事をしたシリウスに、名前は小さく笑う。そして本を閉じた名前はそれをソファーに置き、膝に掛けていた自分のローブを手に持って立ち上がった。


「黒色って、あんまり好きじゃないの」
「…んー」
「でもね、ブラック」


名前がその後にまだ言葉を続けていたのだが、完全に眠りに落ちてしまったシリウスはその先の言葉を聞くことは出来なかった。
目を閉じてしまったシリウスに名前は困ったように笑い、ローブをシリウスにそっと掛けてあげた。名前は満足そうにこくりと頷いて、ソファーに置いた本を持って部屋へと帰って行った。

その後、ローブを返しに行って聞きそびれた名前の言葉を本人から直接教えてもらったシリウスが、歓喜の声をあげたとか。
灰色が恋しい
わたしはあなたの黒色は好きよ。

title 魔女
(20110805)

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