­­­­­­­­ ふとどこからか聞こえてきた話し声に、その声の出所を探ろうと視線を巡らせた。すると少し離れた向こう。日の差し込む庭先で洗濯物を干しているアンナの姿と、それを手伝っているらしいシーザーの姿が見えた。
 シーザーは今日も今日とてジョセフと一緒に修行のはずだけれど、休憩時間なのかしら。そう思いながらスージーQはそっと目を細めた。
 シーザーとアンナが初めてこの島へやって来てから、もう随分と時間が過ぎたように感じられる。けれど実際にはまだ数年かそこらのはずだ。そうスージQが思ってしまうほどに2人の存在はこの島の暮らしに馴染んでいるのだ。
 スージーQはアンナと共に生活していく中ですぐに彼女がシーザーに恋しているのに気が付いていた。なぜならば、シーザーの話をしたり、彼と一緒にいるときのアンナは同性のスージーQから見ても、とても魅力的にキラキラと輝いていたのだから。
 最初こそ一緒にやってきた2人はそういう関係なのだろうと思っていたのだが、実際にはそうではないのだとスージーQが知ったのは2人が島へやって来てからすぐの頃だった。アンナはシーザーを恋した目で見上げており、しかしシーザーは彼女を限りなく慈しみ大切に思ってはいる様子だったが、そこにアンナと同じ感情が秘められているかどうかは分からなかった。
 師であるリサリサをまるで女神のごとく敬愛し、スージーQへ愛する妹へ接するような態度を示すシーザーは、その整った容姿から想像の容易い紳士的なフェミニストだった。女性を何よりも尊敬し、慈しみ、愛を囁く、まさに色男。
 だけれど、そんなシーザーが唯一リサリサのようでもない、スージーQとの時のようでもない、他の女性を口説く時でもない、自然体でありながら言葉にならないというような感情を込めてアンナへと接していることに気が付いたのはいつのことだっただろう。
 その時にスージーQは知ったのだ、シーザーが自覚無しに彼女のことを愛し慈しんでいることに。
 それからというもの、スージーQは微笑ましいアンナの様子とシーザーのじれったい関係をリサリサとともに見守ってきたのだ。いや、語弊がある。リサリサは確かに2人のことを穏やかに見守っている様子だったが、スージーQは正直あまりにもじれったい様子に業を煮やしていたところもある。もう、まだあの2人はくっつかないんですね!早く付き合っちゃえばいいのにー!とリサリサにぼやいては、リサリサに苦笑とともに窘められたりしていたのだ。
 だが、それもようやく無くなることだろう。
 視線の先にいる2人の様子を見れば、教えてもらわなくったって分かるのだ。その先にいる2人を見て、スージーQはうっとりとした気分になる。そして思うのだ、早く私もあんな素敵な恋をしたい!と。

***

「やあ、今日はスージーQが食事を作ってくれたんだね」
「あら、シーザー。早いのね。ジョセフはまだ修行してるみたいだけど」
「あいつと俺では修行の内容が違うのさ」


 ふんと鼻を鳴らして言い放ったシーザーはいつもの定位置である椅子に座る。まだ人数が揃っていないので食事をテーブルに並べることはできないが、ドリンクを出すくらいはできる。何か飲むかとシーザーへ聞けば、とりあえず水をと言われたのでタンブラーに水を注いで彼へと渡した。
 ちらりと時計を見れば、時計はいつもと比べると早い時間を指していて。いつもであれば今の時間帯もシーザーも修行をしているところだろうが、どうやら今日は早くノルマを達成できたらしい。スージーQはシーザーとジョセフがしている波紋の修行というものの意味や理由をあまり知らないが、それが彼らにとって生死を分かつほどに重要なものであるということは理解はしているのだ。
 もうほとんど出来上がり、あとは人数が揃うのを待つのみとなったスージーQはくるりと振り返ってシーザーと向き合った。


「ねえ、シーザー」
「なんだい、スージーQ」
「あなた、こんなところで私とおしゃべりしていていいの?せっかく時間が余ったのに」
「俺だってスージーQと喋りたいって思うときもあるぜ?」


 スージーQの言わんとするところを読み取らずに、不思議そうに首を傾げながら嬉しいことを言ってくれるシーザーにスージーQは笑顔を向けた。


「ああ、もうっ。そうじゃなくて、アンナに会いに行かなくてもいいの?」
「アンナ?…ん?スージーQ、もしや、」
「もしかして知らないとでも思ったの?今日お庭で2人でいたでしょ?その時の2人の様子でピーンと来たの!こう見えて私、鋭い女なんだからねぇ?」
「…」
「ちょ、ちょっと!そんな目で見ないでよ!ほんとにほんとなんだからねっ?私にだって女の勘ってものあるのよっ」
「ははっ、すまない。ああ、そうか、バレていたのか」


 困ったように、それでいてどこかたまらなく幸せそうに笑うシーザーに、スージーQも思わず笑みをこぼした。
 こうやって本当の兄妹のように一緒にふざけあったり軽口を言い合っているのもスージーQは好きなのだが、それと同じかそれ以上にアンナと一緒にいるシーザーの姿を見ているのが好きだった。まさに、スージーQにとってアンナとシーザーの関係と雰囲気は理想の男女のそれだと言ってもいいのだ。


「まだJOJOが修行終わるまで時間かかりそうなんでしょう?」
「ああ、まあ、そうだな」
「じゃあ、行ってきたらいいじゃない!アンナはきっと今の時間だったらちょうど郵便物を受け取りに行ってる時間だから」
「…そうだな。じゃあ、少し行ってくるよ」
「はぁーい。いってらっしゃい」


 ひらひらと手を振って見せると、シーザーは苦笑を浮かべながらもやや早足に食堂を出て行った。そんな背中を見送ったスージーQは人知れず微笑みを浮かべた。
 いいなあ、あたしもあんな風に愛されたいわ。
 そんなことを考えながらスージーQはちょうど船着場の見える窓から見えた、愛する恋人へと歩み寄る男の姿に目を細めた。

(2015/03/01)
(2015/04/11)
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