生まれ来る命が芽吹く春
花が舞う、暖かい風が吹き抜けていく
世界は笑顔に満ちて誰もが喜びに溢れ
そんな世界を望んでいたが、現実はどうだろうか
空はオーロラのカーテンに覆われ、曇り
大衆は小さな声で不満を落とす


地面から見た世界はどうしてか淀み濁っていた
しかし、ヤイバの隣から見る世界が明るいかといえばそうではない
静まり返る宮殿の雰囲気は暗く、冷え切っている
どちらがいいかなんてまだ誰にも分からない
これまで隣でヤイバを見てわかったのは、彼の近くには誰にも心を許せる
人物がいないという事だけだ
彼が一人で考え、全てを決め、大衆を導いた結果が
今の世界である
その事を思うとどれだけの重荷を背負ってきたのか想像を絶する
多くを語らない彼が何を考えているのか
今はまだ無理でも理解し助け合えたらいいな
夢想は尽きず、眼下に広がる整えられた花壇の前にしゃがみこんだ

花壇には大輪の花々が並んでいたが、全てが白く埋め尽くされている
全てが白く、一切の汚れを許さぬように
きれいだけれど寂しい風景だな、と、ツルギは花へ手を伸ばした

「その花に触れてはいけませんツルギ様。」

ビクリ、気配もなく声を掛けられ大きく肩を揺らした
声の主はやはりあのガルドスだ
得体の知れない彼はどうにも苦手でツルギは一歩後ずさった
花壇へ近づいた為かガルドスが手を伸ばしてくる

「ッ!!」

目をつむり身構える一瞬、しかし何かしらの衝撃は訪れず
きつく閉じた双眼を開いた

「この花はヤイバ様の為の花。何人も触れる事は許されません」
「…うん」
「王族のツルギ様とて、触れる事は許されないのでございます」

白く広がる花壇から離れると、寂しそうに並ぶ白へ視線を落とした
いくら手を掛けられ咲き誇る花々でも飾られる事もなく
そこに咲いているだけで寂しくはないのか
花の気持ちなんていうのがわかるわけ無いが、ツルギの目にはそう映ったのだ

「白は王族の色、崇高であり穢れてはいけません」
「こうして咲き誇ることだけで十分なのでございます」

結局この花を愛でる人など宮殿にはいないのだ
義務的に咲くのは寂しい
しかし、ここでそれを言ってしまえばガルドスに何を言われるか
口元を一文字に結び、一礼をすると花壇を後にした

去り際、チラリと後ろへ視線を流すとただ咲く花を怪しげな二つの目が見ていた



ひやりとどこか冷え切っている宮殿の中
ガルドスから逃げる様に中へ戻ったのはいいものの、さて何をしようか
考えてもやることは無く、ただ邪魔にならぬよう歩き回る
先ほどの花の事を考えながらもどうにも出来ない
どうにかしたい、ヤイバの理解者になれればととめどなく考える
ふと、窓の外へ視線を外すとそこにはこの宮殿には無い色が
ぽつり風に揺られその存在を小さくも主張していた

赤色を見つけ慌てて再び庭へと駆け出したツルギ
駆け下りた先には先ほどと同じ花が一輪咲いていた
ただ違うといえば、白くあるべき花がこれは赤く咲き誇る
どこかから種が飛んできたのだろうか、手入れが行き届いている
この宮殿でよく抜かれずに芽吹かせたものだと感心しかない

一輪赤く咲く花をそっと撫でる
ここに咲き続ける事は出来ないだろう
近いうち刈り取られてしまう
誰にもなく咲いた花が無下にされてしまうのはどうしても嫌だった
そうして思いついた、以前光のみんなでケーキを食べた事を
あれは確か生誕祭だったのではないか
誕生日ならプレゼントだよな、一人頭のなかで納得してツルギは
咲き誇る赤い花へ一言侘び赤を手折ったのだ


「ヤイバ!!!」
公務が終わり、自室へと戻るところだったのだろう
後ろ姿へ大きく声をかける
彼は特に驚く様子もなく、緩慢に後ろを振り返る

「なんだ弟よ。声が大きいぞ」
「これ!あげるべし!」

ぐっと顔の高さまで持ち上げられたそれは一輪の赤い花
見覚えがある形だが、見たことがない色の花であった
ヤイバは訝しげに眉をひそめた

「こないだ誕生日だったんだろ?遅れたけどこの花やる!」
「…」
「白い花はお前の為の花なんだろ?ガルドスに聞いた!」

そんなものがあったな、と視線を泳がせた
勝手に家臣が育てているものだ、尚且つ宮殿の外で咲いているもの
知識以外の何者でもない花を見つめた

「赤は俺の色だから!ヤイバあげるべーし!」

茎の部分をきつく握られた為か少し萎れ始めている
雑草かと思えるその花も、弟から託されるならば宮殿にもたらされる
どれだけ高価な花よりも意味を持つものとなる

そうして、踵を返しヤイバは自室へと向かう

「来い弟よ、部屋に飾ってやらんこともない」
「え、ヤイバの部屋行ってもいいの?」
「貴様がくれた花だろう。最後まで処理するがよい」

突き放す様な言葉だが、どこか暖かさを含み
まだまだ彼の理解者へなることは遠いだろうが、どうか、
君を愛することができれば、一輪の花へ祈った





神は死に、花が赤く染まる




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