どうした樺地、俺様がボトル持ってんのがそんなに珍しいか?
……相変わらずリアクションの薄い奴じゃのう。跡部はどっちかといえば持たせる側じゃろうに。
それでもこれが気になるっちゅう顔じゃな。そういえば、おまんの趣味はボトルシップじゃったな。確かに、そういう意味じゃ似とるかもしれんの。
こいつはオルゴールじゃ。ビンの中で向かい合っとる男女の人形が音楽に合わせてくるくる回る。オルゴールの周りはガラスのドームになっとるから、酒を注いでも人形には影響せん。むしろ光の屈折やら何やらでゆらゆら見えて、なかなか綺麗なもんじゃ。
……期待しても無駄じゃ、こいつは壊れとるきに音は鳴らんぜよ。直すには特殊なネジとドライバーが必要での、そいつがなかなか手に入らん。U-17合宿まで来ればあるいはと思うたが、こんな辺鄙な場所じゃ神奈川よりも期待薄じゃのう。こいつの入った荷物がずっと合宿所に置きっぱなしになっとったのが幸いじゃな。負け組合宿に持ち込む羽目になったら確実に割れとった。
どうしてそこまでこいつに執着するか、気になるか? さぁ、どうしてじゃろうな。
……この人形、こうやってビンを逆さにしても落ちないんじゃ。なんでじゃと思う? こいつらな、足に鎖がついとるんよ。鎖で台座に固定されて、オルゴールの音色に合わせて決まった進路でしか動けん。それが俺達にちいと似とるような気がするのう。
俺達はそういうもんなんじゃ。同じ「王」を名乗っとっても俺達とおまんらは絶対的に違う。常勝の絶対王者に負けることは許されん。負けた後に這い上がることさえも、じゃ。俺達は常に頂点にいなければならんし、そこにしかいられん。全国では青学に負けたが、それでも俺達は王者でなければいけん。実績はなくとも誇りだけで、な。
阿呆らしいじゃろ、反吐が出るじゃろ。じゃがそれが立海大付属じゃ。幸村も真田も柳も、いまや赤也も巻き込んどる。誰も彼もそれに染まっとるから助けようともせん。哀れな話じゃのう。
俺らの足にはみぃんな鎖がついとるんじゃ。王者という台座からどうあっても離れられないような鎖がの。それを疑問に思う奴はいるかもしれんが、切ろうと思う奴は誰もおらん。そうしたらあてもなく漂うほかないからじゃ。離れたらどこにも行けんからじゃ。
おまんらには理解できんかもしれんのう。それでも構わんぜよ。結局はガラスのドームの中、何にも侵食されん閉じた世界の話じゃ。
いけん、ちいと喋りすぎたの。……消灯だ、樺地。いま話したことは忘れろ、いいな。明日は俺様の試合だが、余計なことは考えるなよ。