※挿入なし・乳首責め
※倫理低めのバスケ部葉佩
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自他ともに認める幽霊部員も、たまには練習に顔を出す。
葉佩は制服のシャツに袖を通しながら辺りを見回した。同じバスケ部の下級生たちが、空腹を訴えながら更衣室を出て行く。
普通の高校生を装うためだけに入った部活だったが、適当に選んだ割には居心地がよかった。三年生の秋という、目指す大会も何もない時期であることも手伝ってか、出席率の低さを咎められることもなく、部員たちもいきなりやってきた転校生をすんなりと受け入れてくれていた。
自身の恋心を認識してからは、そこに取手が所属している幸運に感謝もした。遺跡でも音楽室でも互いの部屋でも見られない表情を見ることができるのは、同じコートに立てる者だけの特権なのだ。
「あれ、そういえば鎌治は?」
葉佩と取手の仲が良いことは周囲に知られているものの、恋人であることまでは伝えていなかった。彼らの目があるところでは部活仲間としての付き合いに留めているので、練習後の着替えまでいつも一緒にいるわけではない。ここに至るまで更衣室に取手の姿がないことに気付かなかったのはそのためだ。
とりあえず近くにいたクラスメイトに訊ねてみた。部員たちは皆、公式試合の時だけ身につけるユニフォームではなく、思い思いの練習着で活動している。大抵はTシャツとハーフパンツだ。話しかけた相手もその例に漏れず、派手なプリントの入った黄色いTシャツを豪快に脱ぎながら答えた。
「あー、なんか自主練したいって最近よく残ってる。片付けとか戸締りとか全部やってくれるっていうから助かってるけど」
口を動かしつつ凄まじい速さで制服を着直していく。さっさとマミーズで夕飯にありつきたいのだろうか。葉佩はゆったりとスラックスを広げる。
「つっても、俺らなんてもう引退するだけなのに何を練習するんだか。プロ目指してるわけでもないんだし、あんだけ動けりゃ充分じゃね?」
「そーだね」
生返事をしながら、今日の練習で見たものを思い返す。身を挺して妨害しようとするディフェンスをものともせずパスをキャッチした長い腕。激しい音を立てて胸元に当たったボールを受け止めて、眉根を寄せながらも放ったシュート。ボールの行く先よりも取手のことばかり気にしている。
体育館に取手の姿はなかった。いつも半面を使っているバレー部も休みなので、人っ子ひとりいない。途中で鉢合わせなかった以上、まだここにいるはずなのだが。
首をひねったそのとき、がしゃん、という音がかすかに聞こえた。奥にある扉の向こうからしたようだった。体育倉庫だ。と来れば、音の主にも察しがつく。
葉佩は音を立てないように気をつけながら、そちらへと歩を進めた。近付いてみると、扉は完全に閉まっているわけではなかった。細い隙間に顔を寄せ、そっと覗く。
まず目につくところにバレー部の使う得点板があり、その向こうに取手の横顔と練習着にしている白いTシャツが見えた。それなりに広い倉庫なので、ここからは少し距離がある。どうやらボールの詰め込まれたカートを定位置に戻したところらしい。ふ、と息をついたのがわかった。葉佩はわざと音を立てて扉を開ける。
「鎌治」
「っ! ああ、はっちゃん……」
足を踏み入れると、隙間からは死角になっていたところに器械体操用のマットが積まれている。埃とカビの混ざったような、湿気を含んだ臭いがした。ふたつずつ重ねて並べられたカラーコーンを避けながら進む葉佩を、振り向いた取手の目が追いかける。まだ驚きが拭いきれていない表情だ。
「遅いから来ちゃった。自主練してるんだって?」
「う、うん。その……君が転校してくる前は、頭痛が酷くて部活を休むことも多かったから」
得点板を回り込むと、黒いハーフパンツから伸びた脚が視界に入る。年季の入った平均台と折りたたまれたネットの横を過ぎて、取手の正面に着いた。右側には彼が押してきただろうカートがある。バレーボールの詰まった同じカートの並び、入口から見て奥の方だ。
跳び箱を背にした取手はおどおどと床に視線を彷徨わせている。どこか焦っているようにも見えた。
「もうじき引退にはなるけれど、その分のブランクを埋めたくて……」
「本当に?」
手を伸ばしてTシャツの胸元に触れる。指先で中心から右へひと撫ですると、肩が大袈裟にびくりと跳ねた。
「っ、人が来たら……!」
「鎌治が戸締りするって言ったんでしょ? 誰も来ないよ」
もう一度、今度は手のひら全体を胸に当てた。やや厚手の布越しで薄れてはいるが、駆けるような脈動を確かに感じる。葉佩は視線を合わせてにこりと笑った。もう何もかもわかっているのだと伝えるための笑顔。
「見せて」
取手は口を噤んで俯く。だが、葉佩はそのまま悠然と構えていた。こういうときの葉佩は絶対に引かない。向こうもそれを知っているので、根負けするのはいつも取手の方だ。
白い裾を掴んだ両手がゆっくりと引き上げられる。葉佩は舞台の緞帳が上がるのを見守る気持ちで、じわじわと捲られていくその奥に控えるものを眺めた。
磁器にも似た透き通る白い肌。慎ましい臍の窪みにうっすらと落ちた影。適度に鍛えられた形の見える腹筋。服の上からではわからない、意外に厚みのある胸部。そしてその左右にひとつずつ、滲むように色づいた薄紅。
「ああ、やっぱり」
普段なら滑らかなそこはツンと尖り、葉佩の視線を受けてますますその形をはっきりとさせていた。
裾を持ち上げる手の動きが止まる。顔を背けた取手の口から細い息が漏れた。その頬が紅潮しているのは、きっともう運動のせいではない。
「原因はディフェンス? それともボール?」
パスを奪おうと割り込んできたディフェンスの背中が擦れたせいか、受け止めてもなお勢いのあるボールが当たったせいか。あるいはその両方が刺激になったのかもしれない。
取手は隠そうとしていたが、葉佩の前でだけ見せる表情によく似たものが浮かんだその一瞬を見逃すわけがなかった。
「もしかして、最近はいつもこう? 立っちゃうことは寒い時にもあるし、生理現象だから仕方ないと思うけど」
脇腹に触れると、取手は小さく声をあげて身体を震わせた。ねえ、鎌治、と呼びながら距離を詰める。ゆっくりと撫で上げ、主張する突起の手前で止まる。
「鎌治は部活のたびにこうなってるの? こんな、みんなに見られたら恥ずかしい、えっちな乳首にさ」
視線を向けた先端は、熟れた果実のようにぽってりと膨らんでいる。集まる血液を透かした薔薇色が肌の白さとのコントラストを際立たせ、いっそう淫靡に映った。取手の顔がわずかに傾き、悲しげとも恨みがましいともつかない視線を向ける。
「っ……君が、触るから……ッ」
「ふふっ、そうだね」
色の境目を左右それぞれに人差し指でなぞると、取手は息をつめて身を硬くした。くるくると乳輪のふちに円を描きながら、その表情を観察する。乱れる呼吸を押し殺そうとしてか、唇を懸命に引き結んでいた。瞳の非難じみた光はすぐに薄れ、羞恥の中に興奮が混ざりはじめる。それが徐々にもどかしさへ変わっていく様に、ひどく気分が高揚した。
「俺がいーっぱい触ったから、ここが気持ちいいところだって覚えちゃったんだよね」
「あ……っ! んっ、ぁ……!」
充血した中心を軽くつまむ。それだけで、むすんだ唇は簡単にゆるみ、熱を帯びた声がこぼれた。葉佩はにんまりと笑みを浮かべる。
何も知らなかった取手に男同士の交わりを教えたのは葉佩だ。指で、唇で、言葉で、舌で、性器で。まっさらな身体にあらゆる方法で悦楽を与えた。そうして丹念に教え込んだ結果、文字通りの飾りでしかなかった乳首はいまや立派な性感帯となっている。
作り変えられて肥大したその突起を根元からこりこりと刺激すると、また身体を震わせて上ずった悲鳴を漏らした。
「あッ、ぁ……っ、駄目だよ、こんなところ、で……っ」
「だから、誰も来ないってば」
「そ、ういう問題、じゃ……、ぁ、んっ」
「こうやって擦られるのも、ぐにぐにって押し潰されるのも気持ちいいよね」
「ん、んぅ、やっ……! あっ、あ……」
反論を無視して指の腹で先端を押し込み、沈めたまま捏ね回す。いちおう声を抑えようとしているようではあったが、上手くできているとは言い難かった。耐えるために裾ごと手を握りしめているせいで、口を塞ぐこともできないらしい。
「先っぽをかりかりされるのも好きだよね」
「ああっ……! んぁ、あ、だめ、あッ……!」
自由にすればすぐに勃ち上がるその頂点を、爪の先で撫でるように引っ掻く。力をかけずに何度も往復させていると、取手の目がだんだんと蕩けてきた。流し込まれる快楽が、理性の許容量を超えつつある。
「思いっきり引っ張られるのも好きだっけ?」
「ぇ、や、ちが……あッ、うぁ、あ、ああっ……!」
小さくかぶりを振るのを無視して、充血したそこを再度つまんで強く引いた。自然にはありえない力と方向に伸ばされて、声音に痛みが混ざる。たまらず閉じた瞼が小刻みに痙攣した。
ひとしきりぐいぐいと弄んでから手を離す。胸の中心は前にもまして赤く、腫れあがったように膨らんでいた。だが、呼吸のたびにわずかに動くそれは、見る者の憐れみを誘う以上に煽情的だった。葉佩は右の人差し指をのばし、目の毒といえるほど鮮やかに熟れた果実に触れる。
「ふふ、痛いのによく頑張ったね。なでなでしてあげる」
「あ……ん、ぁ、ふ……ぁん、あぁ、あ……っ」
「気持ちいいね」
「んっ……ぅ、んん、ぁ……」
容赦なく引かれた痛みは痺れとなって残る。それを慰めるように優しく撫でると、取手の口から甘い声が漏れた。鞭のあとの飴が好きなのだ。目に見えて快感に酔いはじめている。
あとひと押し。葉佩は内心でほくそ笑む。知は不可逆だ。それが良いものであれ悪いものであれ、触れてしまえば知らなかった頃にはもう戻れない。
「鎌治」
放置していた左側のすぐ横をとんとんと叩く。こちらに向いた目を見つめ返しながら、指先に顔を寄せた。
「こっちも、いい子いい子ってしてあげるね」
「ああ……ッ!」
これ見よがしに伸ばした舌で、膨らんだ先端をねぶる。唾液にぬめる舌全体で突起を押しつぶし、ざらついた表面をこすりつけた。生理的な涙に目を潤ませた取手が荒い呼吸の下で訴えてくる。
「や……っ、あ、汗、かいてるっ、から、きたない……っ」
もう舐められること自体は拒否していない。葉佩は気をよくして微笑んだ。
「汚くないよ、鎌治のならなんだって」
そう言って再び舌を這わせる。皮膚の塩気を感じたが、いつもとどれほど違うのかはわからなかった。仮に何かがあったとしても、それが取手のものだと考えれば、媚薬のように葉佩を昂らせる材料にしかならない。
さんざんに舐めまわし、刺激に慣れはじめたそこに軽く歯を立てた。同時に右側も、爪の先でぴんぴんと軽くはじく。
「あぁっ! んぁ、あっ、あぁ……っ!」
取手は背をそらしてびくびくと震えた。腰ほどの高さの跳び箱に支えられ、かえって胸を突き出す形になっている。もっと、とねだるように押しつけられたそこを舌先で転がし、時おり戯れに吸い上げた。右手もそれに合わせて、優しく撫でる合間に爪で引っ掻き、はじく動きを織り交ぜる。
「ぁ、ん、あぁ、あ、あっ……!」
仰け反った腰が揺れ、葉佩の脚に触れる。形をもった熱を感じた。葉佩も自分のそこを押し当て、ゆっくりと動かす。同じだけ硬く、熱くなっていることを伝えるにはそれで充分だ。
「あっ、あっ、はっちゃん、はっちゃ……あぁ、んっ、あ……ッ!」
取手はもう何一つ抗わなかった。与えられる快楽を享受し、頂へ押し上げようとする波に逆らわず、全身で溺れようとしている。その瞬間を待ちわびて縋りつく眼差しに葉佩は目を細めて応え、唇と指をそこから離した。一歩うしろに下がり、身体ごと距離をとる。取手は理解が追いついていない様子だった。
「戻ろっか、鎌治」
「っ、え……?」
「人は来ないにしても、臭いでバレたら面倒だし」
「あ……。う、ん……」
もっともらしい正論を出されれば納得するほかない。力の抜けた手から皺になった裾が落ち、今さっきまでの痕跡を覆い隠した。
なおも見つめられて、取手の視線が泳ぐ。その目には困惑と不安、そして焦りの色が浮かび、さらに奥には情欲の炎がちらついていた。葉佩が一から覚えさせ、そして消し方をひとつしか教えていない熱だ。
「どうしてもっていうならここでしてもいいけど……でも、たくさん我慢したあとの方が、お互いもっと気持ちよくなれると思うんだよね」
「っ……」
逃げ回っていた視線が、葉佩をひたと捉えた。瞳に浮かぶ戸惑いが徐々に薄れ、代わりに期待の色がじわじわと侵食していく。その様はひどくいやらしかった。じっと見ていると、どこまでも優しく甘やかしたいと思う反面、めちゃくちゃになるまで苛めてやりたいとも思う。それは矛盾するようでいて、根底にあるものはきっと同じなのだろう。
「部屋まで我慢、できる?」
取手は目を伏せて、ためらうような間のあとで小さく頷いた。呼吸が不安定に揺れている。葉佩は満足げに笑うと、白い手首を引いて倉庫を出た。そろそろと腕を撫でてくる指先に、我慢を強いられているのはどちらだろう、と思いながら。