※お題:リプでお題ツイノベったー様(https://shindanmaker.com/540022)より↓
『いとこさんはリプが来たCPで「チョコレート」「指」「居酒屋」を使ったツイノベを書いてください。リプが来なかったら好きなCPで書きましょう。』
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半個室の居酒屋は壁と床の間接照明に光源を依存していて薄暗かった。ソファタイプの座席がL字型に配置されているため、正方形のテーブルを前にして寂雷は独歩の向かいではなく彼から見て右辺の位置に腰かけている。通路と座席は黒いカーテンで区切られており、行き来する店員らしき影がその薄い幕越しに透けて見えた。
独歩はそれを何とはなしに見送り、汗をかいているグラスを置いた。中の氷が小さくカランと鳴る。スライスされたオレンジの浮かぶ液体は酒ではない。寂雷が酒を頼まないので、それに合わせて二杯目からノンアルコールカクテルを飲んでいる。本当は最初からそうしても良かったが、寂雷が「私に気を遣う必要はないよ」と言うので一杯だけ酒を入れたのだ。
料理も飲み物も味は悪くない。次はどうするかと考えたところで、寂雷のグラスの中身が残り少ないことに気が付いた。接待で身についた営業職の性というべきか、どうしても相手のグラスに目を配ってしまう。空になる前に次を頼むべきであるのは、アルコールもソフトドリンクも変わらない。
「何かお飲みになりますか、先生」
プラスチック製のドリンクメニューはテーブルに張りついている。剥がそうと手を伸ばし、触れた右手に違和感を覚えた。見ると、中指の先に茶色い液状のものが付着している。テーブルに落ちていたそれに気付かず指で掬ってしまったらしい。正体がわからないまま指先を眺めていると、横から寂雷がその手を取った。匂いを嗅ぐように鼻先へ近付けて言う。
「ソースだね。鴨のローストにかかっていた」
数分前までここにあった料理だ。皿は既に下げられているが、食べている間に垂れたものが残っていたのだろう。チョコレートソースという名前から想像するような甘ったるさはなく、むしろほのかな苦みで鴨肉の味を引き立てていた。メニューに一番人気と書かれていたのも頷ける。漫然と連想を重ねていた思考は突如として打ち切られる。中指の先端が寂雷の口に吸い込まれたからだ。
「せんせ、」
指の腹にぬめる舌が当たるのを感じる。舌はゆっくりと指先へ移動し、ソースを舐め取るためか上下に数度往復したあと扱くように強く先端を押し返す。
「っ…………」
緩慢な動きにむずがゆさとわずかな熱を感じて目を閉じれば、視覚の絶えた体はなおさら鋭敏に刺激を伝える。生温かい感触は指先だけでは飽き足らず、爪の上を滑り、肌との境をなぞっていく。舌が再び先端に戻ると、今度は口全体で軽く吸い上げるように力がかかる。爪と歯がぶつかり、かつん、と音を立てたのが聞こえた。そのまま指が更に奥へ引き込まれたのを感じる。
思わず瞼を開くと、寂雷の目はひたと独歩を見据えていた。中指は第二関節のあたりまで飲み込まれ、内側を舌先が撫で上げる。その動きも視線も、独歩を組み敷き征服するもののそれだ。小さく流れる音楽や通路を行き交う店員の気配が遠くなる。最初に飲んだ酒の酔いがぶり返したかのように体の奥深くが熱を持つ。舌はなおも指先を弄び、軽く歯を立てながら戯れる。独歩は震える息を短く吐いた。
寂雷はいつも幼い子供に物を教えるようにゆっくりと触れ、くすぶる炎が独歩を焼き尽くすまでじわじわと煽り続ける。その実それは教えるなどという生優しいものではなく、体を作り変えていく営みだ。寂雷の指や舌、ときには視線や声までもが独歩を解きほぐす。そうするように出来ていない体は一度ばらばらになり、快感を拾えるものへと組みなおされる。性器や後孔や胸や耳、喉や脇腹。寂雷の触れたところが彼のための器官になっていく。
いつか独歩の体に寂雷の触れていないところなどなくなるだろう。そのときこそ、ようやく心に体が追いつくのだ。何より先に差し出したものが、明け渡した指から伝わる快楽と歓喜に震えた。
最後に舌で強く押し返し、指先が口から引き抜かれた。空気は口内よりも冷たい。唾液が壁の灯りにてらてらと光っている。そのにぶい輝きにすら艶めかしいものを感じて視線を外せずにいると、寂雷が目を細めて微笑んだ。吐息が指先を撫でる。
「もう出ようか、独歩くん」
反射的に見上げるのと入れ替わりに、乗り出した体が耳元へ声を落とす。
「続きは私の部屋でしよう。いいね?」
返そうとした言葉は、塞ぐ唇に飲み込まれた。