「終わらないなぁー。」

「あんたが手を動かさないからでしょうが・・!」


キーッ!と傍にあったよくわからないぬいぐるみを仙道の方へ投げてやればひょいと避けられた、悔しい。


この前卒業式を無事迎えた私たちは新しい生活を迎える準備をしていた。

といっても今日は仙道の引越しの手伝いをしてるだけなんだけれども。


昨日仙道から「手伝って」とメールが来たからわざわざ来てやったというのに、この男は全く動こうとしない。

荷物をダンボールに詰めているのは誰だ。私だ。



「明日までにこの荷物全部ダンボールに詰めなきゃいけないのわかってるよね?」

「ウン。」

「じゃあ手を動かせ!手!」

「えー・・・。」


仙道は座りながら私が投げたよくわからないぬいぐるみを手に持って、それを私に向けながらシュンとした目でこっちを見た。

そんな目で見ないでくれ、私が悪いみたいじゃないか。犬耳が見えるのは私の幻覚だって信じたい。


1度深く深呼吸をして自分を落ち着かせてから私は仙道の隣に座り込んだ。



「もう、今日しか手伝えないんだよ。」


私は仙道の目を見てゆっくりと言った。


腐れ縁、というのだろうか。

入学した当初から私は仙道と3年間同じクラスで、席もわりかし近い事が多くて、性格も何となく合ってしまって。



最初はなんとなくだった。

なんとなく、2人で一緒にいた。

仙道は他の女の子からモテていたのに、「今は女の子よりバスケ」と笑って私と一緒にバカをしていた。途中から生まれ始めてしまっていた「好き」という感情を押し殺して。


でも私たちはもう高校を卒業した。進路も違う。別々の道を明日から歩まないといけない。


卒業式の日に、わかっていたのに。

卒業式の日に、さよならと言ったのに。


仙道と違う道を歩く決意を、やっとしたのに。



「私はここに残るけど、仙道はもう明日には出発しなきゃいけないでしょう。さよなら、って言ったのに。・・それでも私は来たんだよ。」


私から目を逸らしてぬいぐるみを見つめ続ける仙道の横顔を見ながらそう言った。

それでもこの男は何も言わないし、ぬいぐるみから目を離さない。

人が真剣な話をしているのに、と頭にき始めたので奪い取ってやろうとすると仙道がようやく口を開いた。



「・・ねぇ、」

「・・・なに。」

「俺ね、ずっと考えてたんだ。大学でもバスケを続けられる自分にあったすごく良い進路を手に入れられて、卒業前までは本当にわくわくした。」


でも、と仙道は少し悲しそうな目をして続ける。



「これでいいのかな、って思った。何かが足りない気がしたんだ。それを、ずっと考えてた。」


仙道はぬいぐるみから視線を私に移した。

その目はいつになく真剣で、見てるこっちが目をそらせなくなってしまう。



「ずっと考えてたら、君と過ごした高校生活ばかり思い出した。もちろん部活のことも思い出したけど、それ以上に、思い出したんだ。」



これからは楽しかった思い出を胸にしまって、新しい道へ進む覚悟を決めて、その道で成功というやつを手に入れなきゃいけない。

大人になるというのは、そういうことだから。



「でも、これからはもっと楽しい思い出を作りたい。」


君と、一緒に


そう優しく微笑んだ仙道はとってもかっこよくて、とっても嬉しくて。


とりあえず恥ずかしくなったからぬいぐるみを奪って投げつけてやった。



一緒に未来を
きみにひまわりを



(ちょ、何で!?)
(うっさい!恥ずかしい!・・・・っ好き!)
(っ・・・!)
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