SD:RUSH BABY(未来編)


「なぁ。」

「ん?」

「お前英語しゃべれるか。」

「・・・はぁ?」



一緒にテレビを見ながら楓とアイスを食べている時だった。ちなみに私がバニラで楓が抹茶だ。

この番組を見終わったら寝ようと思っていた矢先、楓がおもむろに私に問いかけてきたのだ。



「・・・・楓。中高大学一緒だからわかると思うけど。私、あなたと一緒に英語に苦しんでたよね?」

「・・・・だよな。」


もふもふとスプーンを使って楓はアイスを口に運んだ。

それにしてもこの人はいきなり何を言い出すんだろう。中学校から付き合って、高校が一緒で、それで大学生になっても学校が一緒な上にこうして同棲生活までしてるって言うのに。私未だにテスト前英語で発狂しそうになってるじゃない。忘れたなんて言わせない!



「で、なんでそんなこと聞くの?」

「んー。」

「・・・・楓、眠いなら歯を磨いて寝ようね。」


若干ボーっとしながら頭をかく楓を見て、すぐに「あ、こいつ眠いんだ」ってわかったので注意すると、楓は素直にコクリと首を縦に振った。

こういうとこは昔から変わらないで可愛いと思う。

・・・・違うか、全部、変わってないや。お馬鹿なとこも、素直な所も、感情表現が不器用なとこも、バスケが死ぬほど大好きなことも。全部全部変わってない。



「歯ブラシ持ってきてあげるからちょっと待っ・・、」

「なぁ。」

「ん?」

「俺、アメリカ行く。」

「・・・・は?」


立ち上がりかけて、私の体はフリーズした。

何を言ったのか一瞬わからなかった。


楓の家族以外で、楓の事を一番よくわかってるのはきっと私だ。だからわかってた。いつかは私を置いて、楓は高校時代から憧れていたアメリカの地へ行くんだと。

でもそれはもう少し先の話で、せめて大学を卒業してからの話だと思ってたのに。



「そ・・か。」


私は楓が大好きだから、楓の幸せを一番に願ってる。だから昔、アメリカの話をされた時から笑顔で送り出すって決めていたのに。

無理だ、私には無理。楓と離れて、アメリカへ送り出すなんてできない。笑顔で「いってらっしゃい」なんて言えない。楓の一番の幸せがアメリカにあるってわかっていても、「さよなら」なんて、できない。

言わなきゃ、言わなきゃ。離れたくないって。さよならしたくないって。


震える手をぎゅっと握った。



「か・・えで・・・・、私っ、楓と・・・!」

「だからついて来い。」

「・・・・・はい?」


・・・・流れそうになっていた涙が引っ込んだ。

ついて来い、って・・、アメリカに一緒に言っていいってこと、だよね?英語しゃべれるか、ってさっき聞いたのもこの為ってことだよね?

色んな疑問が沸いてきて、言葉を発したくても発せない。

口をパクパクさせているだけの私を見て、楓は人差指で頬を少し掻いて何かを考えたように一瞬下を見たけど、やっぱり楓はうまいことを言えないらしくてもう1度同じことを言うために口を開いた。



「ついて来い。」

「え・・でも・・・・、」

「英語できなくたって、どうにかなる。・・・・たぶん。」

「ち、違う!そうじゃなくて!」


両手を前に出して「待った!」のポーズをとると「なんだよ?」と楓は首をかしげた。


何だよじゃないんだよ楓。今人生の分かれ目なんだよ。本当に、さようならをしないといけないんだって思ったんだよ。




「ついて行って・・いいの?」

「・・・どあほう。」


置いてくわけねーだろ、と楓は珍しく困ったように片眉を下げて、優しく微笑んだ。

嬉しくてうれしくて、一瞬止まった涙がボロボロこぼれてきた。楓は私が泣いたことに一瞬ビクッと驚いて肩を跳ねさせたけど、立ち上がってそばに来てくれて優しく抱きしめてくれる。

ぽんぽん、と背中を叩いて子供をあやすように私をなだめた。



「え、いご、べんきょうする・・っ!」

「ん。」

「楓もね!」

「・・・・ん。」


ちょっとだけ嫌そうに返事をする楓が愛おしくて、涙いっぱいに微笑めば楓は優しくキスを落してくれた。

ずっと一緒の私たちだけど、これからもずっと一緒にいられるようです。



さよなら、なんてあるわけないでしょう?

(お父さんたちに楓についてくって言わなきゃ)
(言ってある)
(・・・・・・は?)
(・・・・寝る)
(え、ちょ!なんでそんな大事な話を!・・楓?え、マジで寝るの?!ちょっと待って!)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -