(マンガ、アニメ22話ネタバレあり)





「リヴァイ兵長、」

「うるせぇ。」

「名前呼んだだけじゃないですか・・・。」


超理不尽ですよそれ、と笑えば椅子に座って机に両肘をつき、手を組んでその上に顎を乗せている兵長の視線だけこっちを向けてくれた。



「お腹がすきましたね、今日のお昼は何にしましょうか!」

「いらねぇ。」

「あ、牛乳を手に入れたんですよ!牛乳なんて貴重なのにハンジさんがこっそり手に入れてくれたみたいで!グラタンにします?」

「いらねぇっつってんだろ。」

「昼からグラタンなんて贅沢ですよね!もう当分こんな贅沢できませんね!」

「・・・・。」


リヴァイ兵長に質問したのは私だけれど、兵長は「いらねぇ」しか言ってくれないから勝手に話を進めてみた。

人類最強に対してこんな態度をとるのは命取りだとは思うけどしょうがない。

兵長にはたくさん栄養を取ってもらわないと困るんですよ、人類最強がカルシウム不足で人類最小最弱になんてなったら笑い事じゃないですからね!と笑うと兵長は眉間にしわを寄せた。



「なまえ、お前ふざけてんのか。」

「まさか、大まじめですよ!」


兵長を前にふざけるなんてできるわけがないじゃないですか!と笑えば兵長は眉間のしわをより深くした。

綺麗な顔にしわがついちゃいますよーと言っても兵長は私を睨むことをやめない。



「じゃあ、私お昼ご飯作ってきますからちょっと待って・・・、」

「なまえ。」

「はい?」


部屋を出るために一度兵長に背を向けたけれど、名前を呼ばれたので振り返りながらにっこり笑う。

なんですか?と付け加えれば、兵長はひどく不機嫌そうだ。どうしてだろうと思ったけれど、答えが出ないので兵長の返事を待ってみる。



「ここみたいに、壁を作ったな。」

「へ・・・?」


どういうことですか?と首をかしげた。

兵長の言ってることがいまいち理解できない。


壁を作ったな、って。あたりまえじゃないですか、だって巨人に攻め込まれちゃう、そうでしょう?だから100年前に壁を作ったんじゃないですか、何を言ってるんですか?と言えば兵長はしわを寄せることはやめなかったけど、それに付属して複雑な表情をした。

こんな兵長の顔を見られるなんてめったにないと思うから貴重だなぁなんて呑気に思う。



「そうだな。」

「でしょう?」


おかしい兵長、と笑えば今度は可哀想なものを見るように、哀れなものを見るような瞳に変化するのだ。

その表情が私の心を不安でトクンと鳴らせる。



どうしてどうしてどうして、どうしてそんな顔をするの

私は笑っているだけのにどうして兵長はそんな哀れんだような顔をするの

私はただ笑って兵長のそばにいるだけなのに


どうして、そういう顔をするの



「なまえ、なんで泣く。」

「っ、」


心は静かなのに私の瞳から一筋涙がこぼれた。

兵長に言われるまで気づけなかったことが不思議でならない。


その一筋の涙は止まるどころかどんどん流れ出て、大粒の涙へと変わっていくのだ。



「ぺ、とら。」

「・・・、」


あごの下に右の手のひらを持って行って自分の涙をすくえば、大好きだった仲間の名前が自然と口からこぼれる。



兵長の言うとおりだ。

リヴァイ班が全滅した時から私は、壁を作ったのだ。


ううん、全滅したという表現は合わない。

リヴァイ兵長も、エレンも生きて帰ってきたのだから。あの時のエレンはもうこの世の終わりみたいな顔をしていたけれど、それはしょうがないことだ。

大好きな仲間がエレンを守って死んでしまったんだから、きっと彼の小さな体にかかる罪という感情が重くのしかかってしまったに違いない。

俺が戦えば、なんて彼はあの時何度も繰り返していたけれど、「けれど」なんて表現はもういらない。そんなことは言ってはならない。

私が涙をこらえて「おかえり」と少しだけ笑えば、エレンはまた、泣き続けたのだ。


もうあんな思いは、こりごりだ。




「もう、苦しい思いはしたくない・・・!」


誰にも悟られないように、誰も入ってこられないように。

誰にも、干渉されないように



「壁を作れば、もう苦しくない。」



止まらない涙を何度もぬぐい、嗚咽を我慢しながら絞り出した声の最後はかすれてしまった。



あの日から私は心を閉ざして笑い続けようと決めたのだ。

笑っていればみんなは安心して声をかけてくれるし、だれにも心配かけない。

心を閉ざせば、たとえ私のそばからまた誰かが離れても、苦しくない、悲しくない、辛くはない。そう思ったのだ。



「心に鍵を、かけたつもりだったのに・・・っ。」


兵長が、簡単に扉を開けてしまった。


普段あんな質問の仕方をしない癖に、どうしてあんな優しく諭すような口調を使ったの。


どうしてくれるんですか、私はまた辛い思いをしなきゃいけなくなってしまった。

あのまま無心に笑い続けられればこんなつらい思いをしないで巨人と戦うことができたのに!と叫んでしまう。


こんな生意気なこと言ったら巨人に殺される前に、人類最強の兵長に殺されるんじゃないかと一瞬脳裏を過ぎったけどそんなことはもうどうだっていい。


心を穏やかに、したいだけなのだ。



「ぺ、とらも、オルオも、エルドも、っグン、タも、大好きだったのに・・・!」


両掌を見つめながら声を振り絞る。


あんなに気が良くて、強いのに、優しい彼らに、もう会えないなんて。

あの時エレンの前では頑張って我慢したけれど、もう我慢なんてできやしない。


大好きだったのに。仲間だったのに。

私はあの時リヴァイ班の一員ではなかったけれど、あの時から自分もリヴァイ班の一員だと錯覚してしまうほど、みんなと一緒に過ごす時間が多かったから、苦しくてしょうがない。

ペトラを置いてきたときだって、もう胸が張り裂けて死んでしまいそうだった。泣き叫んでペトラだけは拾い上げようとしたけど兵長に止められて手が届かなかった。

あのとき憎悪を込めて兵長をにらんだけれど、あんな顔をされたら、恨めるわけがない。兵長だって、辛いはずなのに。




「泣くな。」

「でも、止まらな、」

「泣くな。」


いつもみたいに「削ぐぞ」なんて暴力的な言葉を使わないし、怖い表情も変わらないけれど、泣くなと言う声だけはどうしても弱々しく聞こえてしまって。余計に涙が出てしまう。

リヴァイ兵長が、どうしようもなく優しい人だと再度理解してしまう。




「壁はもう物理的なものだけで十分だ。」

もうこれ以上壁なんか作るな、いらねえんだよ邪魔なんだよクソが、と兵長は悪態をつく。


涙を右手でぐいっと拭って兵長を見れば、さっきとは違って困ったように片眉を下げ、少しだけ口端を上げた柔らかい表情の兵長がいた。



「おまえはなんだ。」

「調査兵団です。」

「おまえが背負ってるのはなんだ。」

「っ、自由の、翼です!」

「わかってんならもう自分から囲うな、迷うな。」


気持ち悪ィ感情の無い笑いなんかもうやめろと兵長は私のそばまで歩いてくる。

そして命令だ、と兵長はいつも通りの表情に戻ってで私に言ったのだ。



naughty girl
笑え、いつもみたいに

****
相互してくれてる森崎のNaughty girlの名前を借りました、勝手に(笑)
Naughtyにはいろんな意味があるけど私なりの解釈で。森崎が最近大ハマりしている兵長を頑張って書いたけど、トラウマ回見た後にいろいろ私の中で心情が変化してしまってぐしゃぐしゃな内容になってしまった。ごめんなさい、とりあえずおかえり森崎。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -