「あつーいー。」



右手にウチワ、左手は床に手を突いて後ろへと体重をかけた。

夏島が近いらしく、死ぬほど暑い。昔から夏は苦手なのになんでこんな航路に進んだんだうちの航海士は。夕飯の航海士の大好物を横から奪って食べてやろうと決めた。

とりあえず甲板に出れば風が吹いて少しは涼しくなるだろうと踏んだのに、生憎風は南から吹く熱い風で、余計に体に熱を持たせる。



「そこのじょーちゃん。男だらけの船でだらしない格好したら襲われるぞ。」

「あ、シャンクスー。」



上の方からシャンクスの声が聞こえたので、顔だけを上に向けた。


確かに今の私はショートパンツにチューブトップ。

なかなか肌は露出してるがこんな格好でもしないとやってられない。



「ムリ、あたしはこのままじゃ確実に蒸されて焼かれて死ぬ。」

「そりゃあ困るな。」

「ちょっくら海で泳いできてい?」

「海王類に食われるぞ。」

「大丈夫、海王類もこの暑さに煮えてると思う。」

「そうなると海に入った瞬間、お前も煮えるな。」



そう言われて「あー、」とうなだれる私に「煮えたら醤油かけて食ってやるよ」と歯を見せてシャンクスは笑った。




「シャンクスは暑くないの?」

「暑いに決まってんだろ。」

「でも汗かいてない。」



私はありとあらゆるところから汗がにじみ出ているというのに。

もう首周辺は滝のようだ。


それなのにシャンクスは汗をかいていないし、逆に涼しげな顔をしている。


こっちはこんなにも暑さに苦しんでいるというのに。逆ギレというやつかもしれないけどなんか腹が立ってきた。




「そうか。シャンクスはもうオジサンだもんね。新陳代謝が落ちちゃって汗かかないのか。」


意地悪く笑ってたっぷりの皮肉を込めてシャンクスにそう言えば、シャンクスは口元をぴくぴくさせる。



「ほぉ・・・・、そんなこと言っていいのか?」



シャンクスの意味深な発言に反応すれば、シャンクスは後ろにやっていた右手を私の方へ突き出した。




「・・・あ、かき氷!」



シャンクスの右手には体が欲しがっていた冷たい水分。


ガラスの器に盛られた太陽の光にキラキラ反射する削られた氷の山。

その上にはたっぷりと黄色のシロップがかけられていた。




「わあっ・・・・!レモン!?」

「惜しいな。今日は豪華に100%パイナップルジュースをふんだんにかけたスペシャルなかき氷だ!」

「スペシャルー!」


座ったままではあるけど、暑さに怠くて動かせなかった体を思い切り反転させて体ごとシャンクスの方へ向かせた。



「ちょーだい!」


シャンクスの方へ両手を伸ばせば、シャンクスは卑しくニヤリと笑った。



「んー、でもなぁ・・。俺オジサンだし?俺が美味いかき氷だと思っても、今時の若い子とオジサンの味覚はきっと合わねーと思うんだわ。」


さっき言ったことを根に持っているようで、シャンクスは意地悪く笑う。

シャンクスはもういい年をした立派な大人なのに、たまにこういう子どもっぽいところがあった。

まぁそんなシャンクスだからこそ、私はこの船に乗って傍にいたいと思ったのだけれど。



「ごめんなさい、さっきは調子にのりました。」


だからかき氷ください、と土下座をすれば、満足げに笑ってシャンクスは上から軽く飛び降りた。

そのままペタリと座り込んでいる私のところまで足を進めて目の前まで来た瞬間にしゃがみ込む。

シャンクスは私より背が高いからしゃがんでもまだ目線は少し高めだけど、かき氷の器はちょうど私の視線の位置にきた。



「ちょっと待てよー・・、」


シャンクスはそ私の視線の先にあったかき氷を床においた。

添えてあったスプーンを持って、パイナップルジュースがよく馴染むようにシャクシャクと切るように混ぜる。


そして一口分すくうと、私の口まで持ってきた。



「じ、自分で食べられるよ。」

「まぁそう言うなって。ほれ、あーん。」


少し抵抗したくらいじゃどうにもならないことは予想できていた。

それにシャンクスは左手があれば楽であろう、かき氷を混ぜる動作をわざわざ器を床において右手一本で私の口まで持ってきてくれている。


なんとなく照れくさい気持ちになりながらも素直に口を開けば、嬉しそうに私の口へかき氷を運ぶシャンクスの姿があった。



夏も悪くない、かも
(明日はいちごがいいです!)
(まかせろ!練乳もつけてやる!)
(やったー!)

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