なまえは笑顔が綺麗でそれ以上に可愛さを持った子だった。それこそひまわりのような輝くような笑顔の時もあったし、百合のような儚げな笑顔の時もあった。

そして彼女はユーリ・ペトロフの幼なじみで下手をしたら家族よりもユーリに近い存在だった。幼い頃からずっと一緒だった。


なまえはユーリが好きだった。ユーリはそれ以上になまえが好きだった。


そしてユーリはなまえにそばにいて欲しいと言った。なまえも照れ笑いをしながらそれにイエスと答えた。


それは、英雄レジェンドの姿がこの世から消える、1年前の事だった。








薄暗い部屋になまえはいた。左足には重たい鉄の足かせ。左足首は重い枷が擦れるたびに傷ついた。部屋を出るための扉には手が届かなくても、扉の反対に設置されているトイレには行けるようになっている。水道にも手が届いた。

壁に窓はないが、天井には唯一自動開閉式の天窓がついていた。それはリモコン操作によってほんの少し開けられることが許される。

なまえはいつも通り部屋の真ん中に置かれている1人で座るには大きすぎるソファーに両膝を立てて座っていた。

何をするでもなく、ただただ部屋の一点を見つめていた。

すると、がちゃりと扉が開かれた。少しの光が部屋に注ぎ込まれたがすぐに扉が閉ざされ消える。



「ただいま。」


ユーリはユーリにとっての最上の優しい笑顔を浮かべた。

ゆっくりとなまえに歩み寄ってなまえの横に座る。おかえり、と小さく返すなまえの頭を優しく撫でた。


「髪が伸びたね。少し切らないと重たくなってしまうかな。」


頭に乗せていた手を滑らせ、そのまま今朝毛先を握る。なまえはこっくりと頷いて同意を示した。足枷を見ればわかるように、なまえがこの部屋から出ることが許されていないため、なまえの髪はユーリによって切りそろえられていた。

その会話をしながらソファーの前にある小さな机を見ると、お昼用に置いていったサンドウィッチにほとんど手をつけられてないのを見つけた。ユーリは小さくため息をついて少しだけなまえをたしなめる。

ごめんなさい、でもおなかがあまりすかなかったの。となまえがちゃんと謝れば、それ以上何も言わなかった。じゃあ夕食はなまえの好きなものにしよう、それだけだった。



「他にほしいものはあるかい?」


飲み物でも、食べ物でも、人形でも、アクセサリーでも、なんでも揃えてあげよう、とユーリは優しい儚げな笑みを絶やさない。

なまえはユーリの質問に一瞬だけ悩んだ後、恐る恐る口を開いた。



「お外に、出たい・・。」

「ダメだ!」


その一言に、ユーリの顔から笑みが消えた。そして怒りをあらわにして勢い良く立ち上がり、なまえを見て声を荒げる。

滅多に出さないユーリの大声になまえは恐怖に怯えて肩を震わせた。小さな体をさらに小さく縮めてユーリから自分を守るように頭を抱える。

自分の大声にすぐ我に帰ったユーリはなまえの隣に座った。



「悪かった、でも何度も言わせないでくれ。なまえを外には出さない。私のそばから離れることは許さないって何度も言ってるだろう。」


恐怖の目でユーリを見るなまえの頬に手を添えて親指で優しく撫でた。

瞳にうっすらと涙を溜めるなまえはそれを流さないように必死に涙を拭った。

怒鳴られても、普段口数が少ないなまえは口を開く。外に出たい、と。日を浴びさせてほしいと。それでもユーリはイエスと言わなかった。



「ユーリのお父さんが、おかしくなるまでのユーリが大好きだったよ。すごく、すごく好きだったよ。」

「黙れ!なんでそんな言い方をするんだ!どうして『好きだった』なんだ!今も、昔も、君は私のものだ!」

「ユーリ・・!」


自分を守るような体制をとるなまえの両腕を掴んでユーリはなまえの目を見た。なまえの目に映ったのは、寂しさと恐怖と怒りが入り混じったユーリの瞳。

ギリギリと掴まれた両腕は今にも血が止まりそうで痛みになまえは顔を歪ませた。



「い、たいよ、ユーリ・・!」

「・・・っ!」


ボロボロと涙を零したなまえの表情と痛みを訴えた声にユーリはまた我に返ってすぐに両腕を放した。

なまえの両腕の手首はユーリの手の跡がうっすらと残ってしまっている。痛みを和らげるようになまえは嗚咽を零しながら交互に手首を擦った。

なまえの手首を傷めさせてしまった自分の両手をユーリは見つめた。


違う、こんな事をしたいわけじゃない。愛されたい、愛されたい、愛されたい愛されたい愛されたい。

なまえに愛されたいだけなのに。


両手で頭を抱えてユーリはその場にしゃがみこんだ。愛しい人を傷つけてしまったら、自分は父であるレジェンドと同じであると自分を責めた。

その様子をみていたなまえは涙を拭いながら立ち上がってユーリの傍へよる。ユーリと同じようにしゃがみこんでユーリを抱え込み抱きしめた。



「酷いこと言ってごめんね、ユーリ・・。」


大好きだった、なんて言ってごめんね。過去形じゃないよ、今でもユーリの事が大好きなんだよ。


止まらない涙を流しながらなまえは一生懸命自分の気持ちを伝えた。


どこにもいかないよ、ずっと、ユーリの傍にいるよ


その言葉と同時にユーリはなまえをきつく抱きしめた。


抱きしめた後にユーリがなまえの頬へ優しく手を添え、愛していると囁けば、目じりに涙を溜めたままいつぶりかわからないなまえの花のような笑顔が咲いた。




愛することはされますか

例え犯罪じみた、正義を語れない愛だとしても

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