夜、あまりにも空気が澄んでいて、星がまばゆく光る綺麗な空だったから外に出た。
本棚で眠っていたのを見つけて引きずり出した星座の本を片手に持って、もう片方の手で携帯を操作して楓にコール。
ぷるるるる、という呼び出し音と共に風で楓とおそろいのストラップが揺れる。夜でも奇跡的に起きていて電話に出てくれた楓に「一緒に星座を見つけよう」と誘えば家の前まで自転車で迎えに来てくれた。
「一口に星座って言ってもいっぱいあるんだよねー。何探す?」
「ぎょうざ。」
「殴るよ。」
普段滅多に言う事のない楓のボケに私は瞬時に突っ込んでしまった。
私たちは楓の自転車で家から少し離れた電灯の少ない公園に来た。痴漢注意なんて看板があるけど、楓がいるから大丈夫。うちの親も楓と一緒だからと安心して外に出してくれてるくらいだし。こんなに無愛想な顔でこんなに背のデカい人といれば何の問題もないよね、と安心して私は綺麗な空を仰いだ。
「ん、と・・・・。あ、じゃあ夏の大三角探そうか!」
「・・・・どれだ。」
「・・・三角。」
そう言うと楓は空を見渡した。たまに目を細めたり開いたり、そして首が疲れたのか私に視線を戻しつつ首を回した。
「なまえ。」
「あ、見つけた?」
「三角あほうみたいにあるぞ。」
「・・・・・。」
そうですね、私もいっぱい見つけたよ、三角。
ていうか「夏の大三角形」っていう響きがなんとなくカッコよかったから探そうとか言ってみたけど、これって星座なのかな。ちがうよね?星座ではないよね?どんなチョイスしたのよ私。
自分に絶えないツッコミを心の中でしながら、どんな形でどんな星の三角形なのかを調べるために私は本に目を通す。
「ええっと。この本によると・・・・。こと座のベガとわし座のアルタイル、はくちょう座のデネブの星を繋いだ三角形なんだって。」
「・・・・こと座はどれだ。」
「・・・・んー。」
「わし座とはくちょう座も知らねぇ。」
「・・・・・うん。」
「むしろベガとアル・・何とかとデ・・・ってなんだ。」
「アルタイルとデネブね。」
楓の質問に肩を落とした。
確かにいくら星座の本が味方にいても、この大空から星座を探すのは結構困難で私たちには難しい。
それでも楓は探してくれるようで再び口を開く。
「夏の大三角はどっちの方だ?」
「本だと・・・、天頂から東よりだって!」
「東・・・・。」
そして楓は黙りこくった。
何を考えているのか気になって、「どうしたの?」と楓の顔を覗き込んでみる。
「東と西って、どっちだ?」
「・・・・ん?」
どゆこと?と聞き返せば、楓は右手で頭を掻きながら説明を繰り返す。
「北が前だとしたら、東は右か?左か?」
「・・・・しまった。」
私もわからない。
ショックに思わず本を落とすと、楓も「だよな」と言ってその場に座り込んだ。
さっき上を見続けたせいか、首が痛いようでまた首を回す楓。
左肩を右手で抑えながら、立っている私に目線で座れと言ってきた気がした。
「しょうがない、星は諦めよう。」
「おー。」
私も楓の隣に座り込んだ。くっつきたいのと疲れたのとで、楓の肩に頭を乗せる。
楓も私の頭に自分の頭を乗せてきた。
「上向きすぎて首痛ぇ。」
「私も痛い。」
首揉んであげようか?と問いかければ、このままでいいという返答。
秋が近づく夜の風は、少し肌寒くも感じたけれど、楓とくっ付いていればそれも心地良く感じた。
「俺途中から東とか西とかの問題よりも、暗さに目がなれて最初よりも見える星が増えた事に焦った。」
「なんで?」
「お前の言う三角がいっぱいあって大変だった。」
「ふはっ。楓は元々目も良いから余計かもね。というかさっきから思ってたんだけど喋り方可愛いよ。眠い?」
「ん・・・。」
肯定すると、私の頭から自分の頭を上げて、欠伸をして立ち上がる。
私に手を差し伸べて、私を引き起こすとしっかり手を握りなおした。
「帰るぞ。」
「うん。自転車こいでる時に寝ないでね。」
「・・・・努力する。」
うっわ、怖ー!なんて楓の腕にじゃれれば、楓も優しく笑んだ。
自転車の後ろに乗って、楓の肩に手を置く。
ゆっくりと家へと走り出す自転車に乗りながら、私は少し痛い首を回してまた空を見た。
きらめく星の夜は君と (楓。本に書いてあったんだけど、ベガは織姫様でアルタイルは彦星様なんだって。) (織姫ってゴツい名前してたんだな。) (・・んー、いや、ちょっと違う。)
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