低い声で宏明に言われたのは「デートするぞ。」の一言。

本気ですか。


そんな一言すら、言い返すことが出来なかった。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



空気が・・・・


「・・・・・。」

「・・・・・。」



重い・・・・・・






夏の大会、全国を懸けた決勝リーグで陵南は湘北に負けた。


昨日宏明は私に電話で言ったんだ。絶対勝つから観に来い。その後は一緒にお祝いしよう、って。

だけど、それは叶わぬ夢となってしまった。




「・・・・ひ、宏明?」



勇気を出して声をかけてみた。ありえないくらい静かな帰り道に私の声が響く。

なんで今日に限ってこんなに人通りが少ないの。空気読んだの?読みすぎでしょう。今日は人がいっぱいでにぎやかな方が助かったよ!と心の中で嘆く。



「・・・何?」


下を向いていたばかりの宏明の顔が横にいる私に向けられる。優しいけど、悲しそうな笑顔だった。

なんとか宏明を励ましたくて、普段使わない頭をフル回転させる。



「私は、バスケットできないし、それどころか運動できないし、偉そうな事言えないけど・・・・。」


両手で服の裾を掴んで一瞬下唇をかんだ。



「宏明は・・、宏明は頑張ってたよ。凄かった。湘北が陵南に勝ったのはまぐれだよ!だって・・・!」



宏明達の方が長い間頑張ってた



そう叫ぶように言うと宏明は少し目を細めた。



知ってるんだ、聞いたんだ。彦一君が監督と話していたのを。

あの宮城って人は暴力で怪我して退院したばかり、三井って人はつい最近まで不良、桜木とかいう人は高校になってからバスケを始めたばかり。


そんな人たちに毎日毎日頑張ってた宏明達が負けるなんておかしい



「なまえ。」



低い声で私の声をさえぎった。

あんな低い声なんて聞いたことないから、私の肩がビクンとはねる。



「・・・もう言うな。」


宏明は私のすぐ目の前まで私の口に人差し指を当てる。



「俺達の方が頑張ってた、なんて言うな。あいつらの実力は本物だったし、最初に試合した時よりも確実に強くなってた。それはあいつらも努力した証拠だ。」



な、と宏明は寂しそうに笑った。


負けた宏明は笑っているのに、私は泣きそうになる。

頑張ってたのに、頑張ってたのに、・・・・宏明が、可哀想だ。




「なっ!泣くなよ!」

「だ、だって・・・・!」


止められるもんなら止めてるよ!と力なく宏明の肩を殴れば宏明はまいったと言う様に頭を掻く。


その宏明の仕草を見たすぐ後、私の視界は少しだけ暗くなった。




「え、ひ、宏明!?ここ道路・・・!」

「大丈夫、人いない。」



私が泣き止むように背中を優しく撫でてくれる。

抱きしめられた時に驚きで涙止まったけど。




「俺だって悔しい。でも、全力尽くしたし、負けた時全力で泣いたし。もういい。」



抱きしめていた私を少しだけ離してお互い顔を見合わせると宏明は今日一番の笑顔を見せた。



「陵南のために、俺のために泣いてくれてサンキューな。」


それだけで十分だと抱きしめてくれていた手を今度は私の手に伸ばして手をつなぐ。



来年、きっと全国へいこう。


そんな優しい声が聞こえた。




来年こそは、大輪を
(さーって!ちゃんとデートすっか!こんなしんみりしたデートありえねぇ!)
(ケーキバイキングに行きたいー!)
(え、俺全力で運動してきたばっかなんだけど?)
(ケーキ!)
(わーったよ!)

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