「仙道が浮気?」

「うん。」

「バッカヤロー、いつものことじゃねーか。」

「えぇ、そんな!」


酷いよ!慰めてよ!と越野のシャツを掴んで前後に揺すった。

吐く吐く吐く吐く!と越野は右手を口に持っていきながら私のこの行為をやめるように叫ぶ。

やめてやりたくなかったけど、私の腕に吐かれても私が困るので揺すっていた自分の手を止めた。



「飯食った後なんだからな!」


わざわざ俺の家にまで来て、と越野は口から手を離しつつ私に説教を零した。


だってしょうがないじゃないか、デートの待ち合わせだった駅から1番近くに住んでいるのが越野だったんだから。まあでも確かに夏休み、しかも部活が無い日に押しかけてきた私も悪いと思う、思うけど。


時間が過ぎても彰が来なくて、彰にデートすっぽかされたんだなぁ、なんて悲しみに浸りながら帰ろうとしたら違う女の人と歩いてて。

きっと彰の事だから私とデートする日と同じ日にあの女の人とデートする約束をしちゃったんだ。で、結局あの人を選んで私との約束をすっぽかしたんだ、と考えるとこのやり場の無い気持ちをどうしたらいいかわからなかった。



「うううう、だって・・!だって彰がああああ!」

「な、泣くなよ!俺が泣かしたみたいじゃんか!」


乙女心をわかってくれない越野も悪い。

彰に浮気されて、悲しくて寂しくて、どうしたらいいかわからないのに、話を聞いてくれないから・・!と自分の中で色々文句は言ったものの、涙を流す事が最優先だし、嗚咽のせいで感情を言葉に出来ない。



「ったく・・・・、見かけたんなら仙道に走り寄って殴ってやればよかったじゃねぇか。」

「っ、ショックが、っ大きすぎ、て、・・・・っ目は、合った、んだけどっ・・・!」

「思わず逃げたんだな?」



越野の的確すぎる問いにコクコクと大きく首を振って肯定した。

越野はため息をつきながら傍にあったティッシュの箱を私に手渡す。越野のさりげない優しさに触れて、また溢れてきた涙をそのティッシュで一生懸命拭った。



「あきら、私の事好きじゃないのかな。」


いくらか落ち着いて、まともな声を出せるようになった私はポツリと言葉を漏らした。

越野はそんな私を見て首を傾げる。


「仙道が?お前を好きじゃないなんてありえないだろ。」

「わかんないよ、そんなの。」

「わかるんだよ、俺には。」


悪いけど、お前より仙道と過ごす時間長いんだからな?と越野は私の頭を撫でた。

それは、そうかもしれないけど、と声に出したけど、それ以上は出てこなかった。



「それに、」


越野が何か続けて言おうとしたときだった。

ダダダダダダ!と階段を駆け上る音がして、バタン!とドアが開いたのは。

そこには仙道が息を乱して立っていた。越野は「やっぱり来たか、」と呆れたように頭をかく。


仙道はそんな越野に目もくれず、ツカツカと血相かかえて私に近寄ってきてガシッと私の肩をつかんだ。



「なまえ!どうして逃げたんだよ!」

「う、うっさい!なんで追いかけてくるのよ!」

「だってなまえが逃げたから!」

「私との大事なデートをすっぽかしておきながら違う女の人とデートしてりゃあ逃げるよ!」

「そ・・れは・・・・!・・ていうかなんでオレと目を合わせた後の駆け込み寺が越野んちなの!なんで越野の前で泣くの!男は狼だってオレ毎日なまえの横で歌ってるじゃん!」


危ないから止めて!越野だって男なの!と私の肩を前後に揺らした。

そんな彰の手を肩から振り払って後ろに下がって彰を睨む。



「なんで私が怒られなきゃいけないの!なんで話をすり替えるの!彰がっ!女の人と一緒だったから・・・!」

「あれは・・・・!」

「あれは?」

「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・ほら!浮気じゃん!」



せめて嘘でも「隣の家の女の子だよ」とか「お姉ちゃんだよ」とか言えないの!?そんな正直さいらない!優しくない正直さなんていらない!ホワイトライって言葉くらい知っててよ!バカ!嫌い!大っ嫌い!と越野の部屋にあったものを片っ端から投げってやった。

あーあーあー!と呆れて力なく叫ぶ越野の声が耳に入ったけど投げる手は止まらない。そして鉛筆削り器を手に取った時、さすがに待ったの声と手が入った。

彰に前から抱きしめられて、その後ろから越野に鉛筆削り器を取られて。

両腕で彰の胸を押して腕の中から脱出しようとしても彰の力が強くて出られる気配が全く無い。



「離してよ!」

「やだ。」

「嫌いなんだから!」

「うん、ごめん。」

「嫌い、大っ嫌い!ふらふら、してる彰はっ許せても・・!浮、気までする彰なんか・・・・!」


抜け出せないならせめて、力いっぱい叩いてやろうと彰の胸を叩いた。

自分の中での最大の力で叩いたけれど、それでも普段から部活で鍛えている彰はびくともしなくて、叩いているこっちの手がジンジンと痺れてきてしまった。

きっと彰だってさすがに痛いはずなのに。どうして少しも腕の力を緩めてくれないんだろうか。



「好きだよ、なまえ。」

「っ、ホワイトライ使えって言ったからそういうこと言うの?!」

「違うよ、なまえ、本当に好き。俺にはなまえだけだから。」


浮気した事は謝る、本当にごめん。いくら叩かれたって俺がいけないんだから全部受け止める。でもお願いだから、お願いだから。



「俺の傍から離れていかないで。」



自分勝手でごめん、でももう絶対浮気なんてしないから。と彰はひたすら私を強く抱きしめて謝り続けた。あの女の人ともちゃんとケジメをつけてきたらしい。

ここまで私に一生懸命になってくれたのは初めてだったから、さっきの怒りよりも嬉しさの方が勝ってしまってようやく引っ込んでくれた涙がまた溢れ出した。

彰を叩いていた手を止めて、私も彰の背に腕を回す。



「も、浮気しないでね。」


私が小さくそう言うと、ぎゅううとより強く抱きしめられた。その後すぐに緩められて少し距離を離されたと思えば優しいキスが落とされる。

いきなりのことに顔を赤くしていると、「可愛い」と優しく笑いながら彰が私の涙を親指で拭った。



「・・・・・・お前ら俺の部屋だってこと覚えてる?」

「・・・・・・忘れてたよ。」


申し訳なさと呆れたような感情が混ざった越野の声に私と彰は我に帰る。

すいません、と言えば、しょうがねぇ奴らだなぁと越野は眉を下げた。

彰は越野が相手だからかあんまり謝らずにひたすら私の頭を撫でたり頬ずりしてくる。そんな様子を見ていた越野は呆れ顔から面白おかしそうな顔へと表情が変わっていく。



「なまえ、」

「ん?」


越野の声に越野の方を見ると、越野は軽くウィンクして私に言った。



「今まで仙道の彼女見てきたけど、彼女にこんなに必死になる仙道、歴代の彼女の中でお前だけ。」


だから自信持てよ、お前は可愛いんだから、と笑った越野にときめいたら、不機嫌全開の彰が私を思いっきり抱きしめて、抱きしめたまま越野に蹴りを入れた。




お騒がせカップル

(なっ・・にすんだよ仙道!)
(なまえを誘惑しないで!なまえは俺のなんだから!)
(あ、彰・・・!)
(あーもうお前ら早く俺の部屋から出てけ!)


***
だれが一番かわいそうって越野だよね。

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