「よんひゃくよんじゅうはちー!」
夏が近づいてきている。
「よんひゃくよんじゅうきゅーう!」
そんな中でのお昼に近い午前中。
「ごひゃくー!」
日課の500本シュート練習になまえを付き合わせていた。最後のシュートもきっちりキメる。火照った体を冷やすような風が吹いてくれて、スッキリとかいた汗が気持ちいい。
手で額や首の汗を拭っているとタオルを手にしながらなまえが小走りに近づいてきた。
「神さんお疲れっす!」
「ノブのマネしないの。」
「似てる?」
「気持ち悪い。」
「・・・・・・。」
なまえから手渡されたタオルで汗を拭いながらにっこりとそう言うとなまえは絶望的な顔をする。さっきの口真似よりこっちの顔の方が似てるなぁ、なんて思ったらちょっと口元が緩んだ。
「ノブ君を見ながら研究したんだけどな。」
「ふーん。」
「あ、ノブ君以上に宗ちゃんを見ていたよ?!」
誤解しないでね!と必死に手や体を動かすなまえを見るとさらに口元が緩んでしまう。
やっぱり俺はなまえをいじめるのが好きらしい。ちょっといじめて自分の為に必死になってくれるなまえを見るのが好きなんだと思う。俺を想って必死になってくれてるって思うと気分がいいよね。
我ながらに面倒で嫌な性格だとは思うけど、それでもなまえが傍にいてくれるんだからオールオッケーってことにしたい。
「はいはい、わかってる。」
「よ、よかった・・、」
恐怖と緊張に飲み込まれそうになっていた顔が心底ほっとした顔になった。命は繋ぎました、お母さん。なんてなまえの声が耳に届いたけど気にしない。
転がったままのボールをなまえが拾ってきてくれて、へろへろのパスで俺に渡してくれた。
「あっ、と・・・・。俺学校行かなきゃいけなかったんだ。」
「へ?なんで?」
パスを貰った瞬間に用事があったのを思い出す。
首をかしげながらなまえは俺の傍に戻ってきた。
「担任にプリント貰わないといけないんだよね。」
「ふうん・・そうなんだ・・・。」
いってらっしゃい!なんて笑顔で言うもんだから思わず笑顔で「いってきます」って返しそうになってしまった。危なかった。
ボールを1度地面に置いてなまえを見る。目が合ってなまえがヘラリと笑った瞬間に俺も笑って思いっきりなまえの頭を掴んだ。
「いってらっしゃい?何言ってんの?違うでしょ?」
「痛い痛いいたっ・・!頭から手を!手を放して!」
「放してほしかったら言い直した方がいいよ。」
「もう学校ついてっちゃう!ついて行きたい!」
「最初っからそう言えば良いのに・・・。」
なまえは照れ屋さんだなぁ、とにっこり笑いながら頭から手を離してやるとなまえは必死に頭を抱えながらな撫でていた。力の加減はしたから大丈夫という自信があるので心配はしない。
そんななまえを放っておいて近くに止めてあった俺の自転車の方へ歩き、カゴへバスケットボールを入れた。
鍵を外して、スタンドを上げる。こっちへ近づいてくるなまえの方へ俺も歩いた。
「じゃ、行こうか。」
「おっけ!」
「ちょっと待った。」
ぐっ!と親指を立てて俺の横を通り過ぎようとしたので手首を掴んで思いっきり引っ張った。なになに!となまえはビックリしたように目を開いてこちらを見る。
「なになに、じゃないよ。」
後ろ、と俺は自転車に跨って後ろを指差し、乗るように指示をした。するとなまえは更に目を開いた。面白い顔だなぁと思って頬をふに、と人差し指で押すと違うよ!と暴れだす。
「何が違うのさ。」
「うううう後ろに乗るの?!」
「うん。」
「宗ちゃんの自転車の?!」
「うん。」
「荷台が無い!」
「立ち乗りでよろしく。」
ノブが俺のチャリの後ろに乗って羨ましい、ずるいって前に言ってたじゃない。と言うとなまえは「う、」と言葉を詰まらせた。
前にずるい、って言われた時は嬉しかった。そういうことに憧れがあるんだよ、って力説をされた時に俺は珍しく「ごめんね。」と謝った。そしてノブをそれ以来乗せていない。
ようやく覚悟を決めたらしいなまえは恥ずかしそうにしながら「失礼します!」と言って俺の肩に手を置いて後輪の上に跨った。今までノブを後ろに乗せていたから羽のように感じるなまえの体重。
動くよ、と注意してから俺はペダルを踏んだ。
いつもと変わらない学校への道のりが、なまえが後ろに乗ってるだけで新鮮に感じてしまう。最初は慣れない2人乗りに緊張していたなまえだったけれど、5分もすればバランス感覚も大分取れたようで後ろからずっと話しかけてくれた。
学校のこと、昨日のテレビのこと、親友のこと、先生のこと。ちょっとした愚痴も楽しそうにしゃべるもんだからこっちまでにっこりと笑みを零してしまう。
学校への道を進んでいると後ろでずっと楽しそうに話しかけてきていたなまえが「そういえば、」と思い出したように肩を叩いてきた。
「何のプリント貰うの?」
「遠征で欠席してた分の課題プリント。」
やって提出しないと欠席扱いになっちゃうからね、と続けるとなまえは「そうなんだ。」と呟いた。
「宗ちゃん頑張ってるもんね。」
学校で勉強して、その後に部活で夜遅くまで練習して、私の相手もしてくれて。となまえは俺の肩に顔を埋めた。
「体、壊さないでね。」
夏の大会きっと勝てるよ、がんばって
その一言だけで本当に勝てそうな気がするのは、それだけ俺がなまえに溺れている証拠だった。
君がいるから頑張れる
(また自転車の後ろ乗せてね) (もちろん。毎日でも。)
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