「何やってるんだ。」

「・・あ、流川君・・・。」



放課後、水やり係でもない私が教室にある花にジョウロで水をあげていた時だった。

華道部な私としては見過ごせなくて。枯れちゃいそうだったから水をあげていた私に声をかけてきたのはあの有名な流川君だった。

シャツに短パンという部活真っ最中です、という姿をした流川君が教室に戻ってきてしまった。誰にも見つからず、そっとお水をあげたかっただけなのに。

流川君はカッコいいと人気だけど、私は一回も彼と話したことが無くて、どうして良いかわからない。

声を出そうと一生懸命口を開いたり閉じたりするだけの虚しい行動ばかりをしていると流川君が口を開いた。



「何してんだ。」

「あ、っ・・と、花に水やり・・・・。」

「そんなん見りゃわかる。」



何でお前がそれをやってんだ、と流川君は眉間にしわをよせた。



「係じゃないだろ。」

「え、何で知ってるの・・・。」



休み時間も、授業中も、ホームルームの時間も突っ伏して寝ている流川君が私が花に水をやる係じゃないなんてこと、知ってるはずがない。

きっと私の名前すら知らないのにどうして・・・・。



「・・俺が水やり係だから。」

「・・えぇ・・・・。」


なんだって・・、と思いつつ、少しだけ、ほんの少しだけ申し訳なさそうに流川君は頭をかいた。

そんな流川君に思わず笑いが込み上げてしまった。申し訳なさそうな流川君なんて見たことない。

いけない、まともに話したこともないのに笑うなんて失礼なのに、とは思うけど止められない。



「何で笑うんだ。」

「・・ごめんなさい、なんかあんまりにも意外なこと言ってくるから面白くて。」


首を傾げる流川君にあわてて謝ると、流川君は私に近づいてくる。

反射的に体がこわばった。

良くなかったかもしれない、ほとんど話したことない相手に意外、とかおかしかったかもしれない。

何が悪かったんだろう、どうしたらいいだろうといろいろ頭に駆け巡る。

私はもともと、人と話をするのが本当に苦手なのだ。だからどうしても体がこわばってしまうし、言葉も詰まってしまう。

でも、流川君は私のそんな気持ちを置いて、照れながら言ったのだ。



「あとは俺がやる。」

「・・え、でも部活は・・・、」

「・・イヤだけど遅刻する。」


私の手からジョウロを奪うと流川君は残りの花達に水をやり始める。

私はどうしよう、と悩んだけど流川君が気持ちよさそうに鼻歌交じりで水を撒きはじめるから、任せることにして帰ることを決めた。



「(さよなら、なんて言わなくて良いよね・・・。恥ずかしい、し・・・・。)」


チキンな自分の性格にため息をつきながら、自分の机の上にある革の鞄を手に取ると、教室を後にしようとした。



「みょうじ、」

「・・・・え・・・・・、私の名字・・・・。」


しってるの?・・と思うとドキッと心臓が大きく鼓動したのがわかった。


流川君の声に反応して振り返ると、流川君は顔だけ私の方を向けて水やりを続けている。



「水、サンキュ。」

「う、ん・・・。」



声を振り絞って答えると流川君はじゃあな、と言うように手をひらひらと振ってくれた。


それが凄く嬉しくて、私は自然と恥ずかしくて出せなかった言葉を出していた。




また明日ね
(明日、おはようって、言ってみよう・・かな)

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文学系女子→流川君でした!
みんなが内気な子じゃないってわかってますけどちょっとだけこの子の性格に助けてもらった作品でございます!こういう子も好き!

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