「春が来ている気がする!!!」

「へぇ、見えるの?」

「え!い、や、見えないけど・・・。」



見えない、けど・・と、もごもごとしてしまった。


お昼休み、私は宗ちゃんとお弁当を食べながら過ごしていた。

外で食べるのも好きだけど、まだ少し寒いから誰もいない理科の実験室で、少し窓を開けて日差しを浴びながらご飯を食べている。
風がひんやり冷たいけど、日差しがあったかくて、柔らかい。なんだか少し浮かれてしまうような、そんな錯覚に陥る。

そんな春が、私は1年で1番好きな季節なのだ。



「なまえみたいに浮かれちゃう奴らがいるから、この時期って変質者増えるんだよね。」

「・・・は?!」

「寒い時期からあったかい時期に解き放たれるんだよねぇ、みんな。」

「ねえ!!なんで!!なんでそうなるの!!!」


私はただ春気持ちいいから大好き!というのを伝えたいだけなのになぜ変質者になっちゃうの!と実験室の机をバンバン叩いた。

うおおおお!と涙ながらに訴えれば宗ちゃんはすごく嬉しそうに口元を左の手の甲で抑えながらクスクス笑うのだ。



「ごめんね、なんだかなまえがあまりにもにやにや浮かれてたからどうしても言いたくなっちゃって。」


いいよね、春。俺も好きだよ、と宗ちゃんは私の頭を撫でながらよしよし、と半泣きの私を慰める。

どうして宗ちゃんは一度全力で私を叩き落としてから拾い上げるのが好きなのだろう。

純粋に同意してくれればそれで済むのに、といつも思うけど、これが私の好きになった人なのだと、自分のなかで納得させてきた。

あ、だめだ今日のメンタルだいぶ削られたからここで少しどうにか回復させたい。なんたってまだ午後と放課後がある。

ぐすん、と潤んだ目を擦って宗ちゃんを見た。



「・・・・桜が咲いたらお花見行きたい。」

「却下。」

「なんで・・・!」


半泣き状態で甘えてメンタル回復させようと試みたら、凄い勢いと笑顔で却下された。

絶望的な私の表情を見て宗ちゃんはまた楽しそうにクスクス笑う。



「だってなまえ、去年のお花見の日覚えてる?」

「ん・・・?」


なんだっけ、と首を傾げてみると、宗ちゃんは私の頭を撫でながら続けた。



「やっと久々朝練ない日に桜を見に行く約束してたのに、お花見行きたくて行きたくてしょうがなくて我慢できなくなったなまえが、朝6時っていう超絶ご機嫌な時間に全力で電話して俺の睡眠を遮ったじゃない?」

「う・・・・。」


だからね、今年はその罰で却下、と私の唇に人差し指を添えて笑顔で首を横に傾げた。



「反省してる・・・!」

「うんうん、反省って大事だよね。」

「ていうか去年その日に私その罰受けたし・・!」



すごいもう会った瞬間にもうほんとすごい勢いと笑顔で両ほっぺ抓られた・・!と訴えれば、宗ちゃんは持っていたメロンパンをもぐもぐ食べながらニコニコ微笑む。

そしてゴクンと飲み込んで私を見た。



「そうだっけ。」

「・・・・・!」

「うそうそ、覚えてる。」


覚えてるからそんな泣きそうな顔しないの、と私の右手からお箸を取って、お弁当の卵焼きを1つ掴んだ。

半泣きの私に向かって「あーん、」と言って口を開けさせて、私も絶望してるのに単純だから口開けてしまう。



「いいよ、連れてってあげても。」

「・・・!ほんほ?」



本当?と言いたかったけれど口に卵焼きが入っていたせいでうまく発音できなかった。

もぐもぐもぐもぐ、ごくん、と噛んで飲み込んでお茶を流し込んでもう一度宗ちゃんに問う。



「本当?!」

「うん、良いよ。」

「やった!ありがとう!」


すっごく嬉しい!と精一杯の喜びを伝えると、宗ちゃんもしょうがないなあと笑った。



「ただし、またあんなご機嫌な時間に起こしたら一生連れてかないからね。」

「うん!うん!」

「あとせっかくだからお弁当作ってきてよ。」


から揚げ食べたいな、と宗ちゃんは右手で頬杖をつきながら笑む。

まじか、それはやばい、作れるかな、と一瞬悩んだけれどもう連れてってくれるなら何でもいい。



「頑張る!」

「いいね、前向きだね。」

「だって春だから!」


何でもできる気がする!とガッツポーズをすれば、宗ちゃんは嬉しそうに「単純だね。」と笑った。



春の訪れ
(馬鹿だなぁ。)


***
私たぶん理科室って言うシチュエーション好きだな。笑
最後の発言は心の中の神君です。
そしてこのお話は「超絶ご機嫌な時間」っていうフレーズを書きたかったためだけに出来上がりました。笑

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