短編プラトニックの後日編。 単品としても読めます。
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「仙道君別れたらしいよ。」
そんな言葉をつい2週間前耳にした。
そ、っか、仙道、別れたん、だ。あんなに仲が良かった彼女と、別れちゃったんだ。なんでだろう、喧嘩でもしたのかな。他に理由があったのかな。
そんな気持ちや考えになったけれど、正直「ラッキー」という気持ちの方が強かった。前からひそかに恋焦がれていた。ううん、恋焦がれてたなんて表現は少し、乙女チックで似合わない。単純に私はだいぶ前から仙道を気にしていた。
友達として仙道と仲が良くて、仲がいいのに彼女という存在で私はそれ以上近づけない。触れたい、視線を私に向けてほしい。そう願うのは許されなくて。彼女から仙道を一瞬だけでも奪ってみたいと、ほんのちょっとだけ思ってみたこともあったけど、それは1分であきらめた。だってすごく、かわいい子だから。本当にお人形さんみたいにかわいい子なんだ。仙道の隣にいるのがよく似合う子。だから、そんな考えはすぐに消えた。私が勝てるわけがない、って。
仙道の中で異性として1番の友達。そのポジションにいられれば、私はよかった、のだ。
「でね、なまえ。聞いてる?」
「え、うん、あ、聞いてる聞いてる。」
越野がまた怒ったんでしょー、と私はメロンソーダを口にした。
そう思っていたのに、今はなんと、仙道と2人でファミレスにいる。
なぜこうなったか。答えは簡単、仙道からお誘いがあったからだ。メールで「今日暇?」と来たから「暇」と返したら、帰りにご飯でも食べていこうというお誘いだった。どうやら今日は茂一の都合でいきなり部活がなくなったらしい。
それならみんなと帰ればいいのに、と思ったけれど、そこで私を呼んでくれたことに素直に心の底から喜んだ。
他愛ない話をしながらお互い好きなものを食べて、そして今は目の前にはほぼ空になったお皿が並べられていて、食後の飲み物を飲んで談笑している。
「そうなんだよ。越野ったら、俺が集中してないって言うんだよ。集中してるっていうのに。」
「試合中に『あ、』とか間抜けな声出したら集中してないって思われちゃうよ。」
「いやいや、集中してたからこそ相手のふとした仕草に目が行っちゃって思わず間抜けな声が出ただけだから。」
俺と越野の感覚の違いかなぁ、と仙道は頭の後ろで手を組んで少しのけ反った。
この間の抜けた感じはいつもと変わらない。ふふ、と笑って仙道を見た。きっと意識をしているのは私だけかも、と自分を冷静な方へ持っていく。
そして冷静になった途端、ふと口が開いてしまった。
「で。今日なんで私のこと呼んだの。」
聞きたくて、でも聞いちゃいけない気がして、それでも聞きたかったことを口に出してみた。
もう食事も終わった。これでどんな空気になっても帰れば済むことだと、なぜか無駄に腹をくくった自分がいた。
仙道は私の質問に組んでいた腕を解いて、少しのけ反っていた姿勢を元に戻して私を見る。
「気になる?」
「・・・気になる。」
「なまえには教えない。」
「えー。」
「いや、あれだよ。話の前置きすると、2か月前くらいからね、別れようかなって思ってたんだ。」
理由としては、まあなんだろう、男女関係がうまくいかないというか。俺が、とか、彼女が浮気をしたとか。そういうわけでもなくて。ただ単純に未来が見えなくてさ、と仙道は頬杖をついた。
そーなんだ、としか言えずに私は私のジュースを飲む。2か月前から別れようと思ってた、なんて、それを彼女に対して面と向かって言ったんだろうか。言ったら鋼のハートだ。いや、今まで一緒にいたからこそ、最後はきちんと思ったことを言うべきなのかな。
色々脳内をめぐるけど、難しいことはよくわからない。
「それでなんだろ。なまえにだから言うけど、ぶっちゃけ少しさみしくなってさ。」
「・・・は?」
「だからなまえにだから言うけど、って言ったろ。」
俺から振ったのに、俺のそばに誰もいないんだって思ったら寂しくなったんだよ、正直な話。と仙道は窓の外を見る。
・・・・要約するとあれか。私はただ使われている、と?仲がいいから、呼びやすかったから、仙道の心に空いた隙間を埋めるために呼ばれた、と。それでいいんですかね?なんて真顔で言えるほど私は心が強くない。
例えそうだとしても、私は仙道が彼女と別れたことを少なからず心のどこかで喜んでしまった最低な自分がいるのをわかっているし、少し女癖の悪い仙道だ。私が正直声をかけやすい仲のいい友達というポジションにいる「異性」だから呼んだ、っていうのも心のどこかで分かってた。
理解しつつも、私は仙道に選んでもらえたことが嬉しくて、ここにいるんだから。私は文句を言える立場でもないし、そんな権利もないんだ。
「ね、なまえ。」
「んー?」
「俺のこと好き?」
「・・・どういう意味で。」
「俺は何があっても、今までと変わりなくなまえといい関係でいたいよ。」
「・・・私もだよ。」
だって仙道は私のお気に入りだから、と少し可愛くない上から目線で言ってみた。このまま仙道に流されるのも癪だから、ちょっとした小さな反抗だ。
にっこりと仙道に微笑めば、仙道もにっこりほほ笑む。
そしてあろうことか、仙道の大きな右手が私の左頬に添えられた。
「・・・・・仙道?」
「ん?」
「何?」
「いーから。」
ここ端の席だし、店員さん少なくて忙しいからこっちのフロアにいないし。
そういわれた後すぐに私の唇に仙道の唇か重なった。
机1つ分の距離なんて、仙道が少し腰を持ち上げればどうってことない距離なんだと知る。
今までほしかったぬくもりが、一瞬だけ、手に入った。嬉しくてうれしくて、でも切ない。だって私と仙道は、付き合ってない。
仙道の唇が私の唇から離れて、左頬に添えられていた右手も離れた。また私たちの間に机1つ分の距離ができて目が合う。
「・・・・怒った?」
「・・・・・怒ってはないけど。」
「嫌いになった?」
「嫌いじゃない。」
「そっか。」
これをやっちゃったことによって、今まで仲が良かったのに仲良くなくなった、なんてなったら悲しいからね、と仙道はヘラリと笑った。
笑うだけなんだ。キスしたから付き合える、とか。そうとは思ってないけど。でも、心の中で少し、それを望んでしまっていた自分がいた。だからと言って私から付き合いたいなんて言えないし、言いたくない。それは意地とかじゃなくて、仙道自身も彼女と別れたばかりだし、私もまだ自分が分かってない。
1度はあきらめた恋を、また復活させるかさせないか。させることによって自分が傷ついてしまうかしまわないか。
結局は私も私が1番可愛いから、勇気を出せない、壁を作ってしまう、のだ。
「俺、なまえがいてくれてよかった。」
「ん、私も。」
「これからも仲良くしてね。」
「うん、仙道もね。」
私の返事に満足したのか、そろそろ帰ろうか、と仙道はゆっくり立ち上がる。
駅まで送るから気を付けて帰ってね。またご飯に行こう。俺が暇な日また連絡するから。
そう言って笑顔でお互い別れたのが1週間前の話。
仙道彼女と復活したぜ。
そう越野から連絡が来たのは、ついさっきの話。
傷つけ傷つき (恋焦がれるのは、終わりにしよう)
**** 最低な仙道さんを書いてしまった(笑)本当の仙道さんはもっといい子です、愛してあげてください(笑) ちなみにこの仙道のずるいところは自分からなまえちゃんを友達、と言ってないところです。友達以上に見てくれてるのかも。そういう風に思わせぶりな態度をとる仙道さんずるい、いけめん(笑)
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