今晩は月がとても綺麗。窓から月の光が入り込み、部屋の中が幻想的に見える。今日は、満月だ。

「……」

静寂が広がる。マツバくんが怖いこと言ったせいでちょっとびくびくしてる私がいる。怖いからロコンをボールから出している。ロコンも周りを警戒するものだから怖い。今夜辺り危ないってマツバくんは言ってたけど…辺りって事はもしかしたら今日じゃなくて明日の晩危ないかもしれない、とかあるのかな…?危ないと言われても、どうしたらいいかわからないんだけどマツバくん。



がたり


「ひっ…」

物音…物音だけですごく怖い。ああ、こんな事なら遠慮せずにマツバくん家に避難すればよかった、本当に今更だけれども。ロコンを抱き締める、大人しく抱き締めさせてくれるロコンに安心。





ガタガタ

また、物音
ロコンが暗い闇の先に威嚇した。

「ロコ、」


 がたり

      がたり

   ガタガタ

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


「な、に」

窓が、机が、タンスが、色んな物が音を立てて揺れている。まずい、これは絶対にまずい状況だ。続いてドンッと大きな音がした。

「っ、ロコン!」

何か居る。直感だけれど、部屋の暗闇の中に居る、なら


「かえんほうしゃ!」

腕から飛び出してロコンは炎を放った。轟々と、ロコンが出した炎で闇が照らされた。が、直ぐに消えた。ドンッ、という音と共にロコンの小さな体が吹っ飛び、壁に叩きつけられた。きゅう…と鳴いてずるずると力無く床に落ちるロコン。


「ロ、コン…」

なに、なにがおこっているの?
ロコンが壁に叩きつけられた、見えない何かに。何に攻撃された?得体の知れない何か。また、ガタガタと音がした。


「…な、に」

何か、なんて分かり切ってるじゃない。マツバくんから忠告されていたし、自分も少しの恐怖を抱いていた、それを知っている。居るのは、





「ミヨ、さん…」

暗闇の中からゆっくりと人影が出てくる。月光に照らされて、輪郭が露わになる。着物を着た、ヒトノカタチをしたモノ。


「こんばんは、リンさん」

やはり、彼女は笑う。今までにないくらい、嬉しそうな顔。夜だというのに表情がよくわかる。なにが、そんなに嬉しいんだろう。

「夜分遅くに申し訳ございませんリンさん。私、どうしても貴女に会って話がしたくて」

「………」

ふふ、と笑って私の方へゆっくりと近付く。ふと、ミヨさんは床に倒れたロコンを見た


「ああ、ごめんなさい。その子、私に向かって火を吹くのだもの。つい壁に叩きつけてしまいました。でも、悪いのはその子よね?」

「……っ」

「この私に向かって、攻撃だなんて…ねぇ?悪い子」

ロコンを蔑んだ目で見る。怖い怖い怖い。また私に視線を移し、微笑んだ。逃げなきゃ、危ない。分かっていても金縛りにあったみたいにに体が動かない。近付く近付く、目の前までミヨさんが近付いてきた。



「怖いの?」

私は肩を押されて、ドサリと床に倒れた。何かを考える暇もなく、ミヨさんは私に馬乗りしてきた。ゆっくりと、ミヨさんの指が、首に近付く。


「大丈夫よ、直ぐに終わるから」

ギリギリと首を絞められた。ミヨさんの手、すごく冷たいのに、触れられている首はすごく熱い。ギリギリ、力を込められる。首の骨が折れてしまうんじゃないか、ってくらい強い力。息が、出来ない。声も出せない。必死にミヨさんの手を外そうとするが、力が違いすぎるのかびくともしない。目から涙が溢れてきた。


「私ね、今まで親切な方を沢山見てきたわ。みんなとっても素敵な人間だった。でも貴女とは特に仲良くなりたいと思ったの。何でかしらね。きっと貴女が温かいからね、体も心も温かい」

「ぅ…く…、っ」

ミヨさんが何を言っているのか、もう分からなくなっていた。苦しい苦しいクルシイ苦しいイタイ。ギリッと首が嫌な音を立てる。


「生きていた時、貴女みたいなヒトが近くに居てくれたなら、少しは違ったのかしら…今じゃあどうでもいいことね」

笑う笑う笑う。意識が段々遠くなってきた、痛みとかもわからない。わかるのは、ミヨさんは笑っているということ。


「……は、…っ」

「ふふ、リンさん…ずっと一緒に…」





「ゲンガー、シャドーボール」

金の髪が、端で見えた。
ゲンガーのシャドーボールが、ミヨさんに向かう。ミヨさんが、私の上から退いた。途端、肺に空気が送られた。


「う、ぁ。げほげほ、く、はぁ……っ…まつ、ば…く」
「無理して喋らないで、ゆっくり落ち着いて呼吸して」

喉が痛い、うまく息ができない。マツバくんが背中をさする。安心する。ああ、マツバくんだ。マツバくんを睨むミヨさんが視界に入った。笑ってない、ミヨさんの顔。今のミヨさんの標的は、マツバくんだ。


「リン、こっちは終わらせておくから、今はゆっくりおやすみ」

「マツ、バくん…」

頭を撫でられ、意識が微睡んだ。マツバくんが来てくれて安心したのか、はたまた私に何かしたのかはわからないけど、マツバくんはゆっくりと私の体を床に寝かせた。




マツバくんの背中、ゲンガー、マツバくんを睨むミヨさん、満月、キュウコン、業火、そしておわり。

横たわりながら私が最後に見たものは、真っ赤な炎と、燃えるミヨさん。
業火に焼かれミヨさんは、