「リンさん、またお会いしましたね」 笑うその人に、やはり私は怖いと思ってしまった。ぎゅっとロコンを抱きしめた ××× 今日も日課の散歩に出かけた。勿論ロコンと一緒に。マツバくんも一緒に行くと言ったけど、挑戦者が居た。「直ぐ終わらせるからちょっと待ってて」だって。真剣にジムに挑戦する人に失礼だし、ロコンも居るから、と強引に納得させた。直ぐ終わらせる…って、マツバくんが手に持ってたボールの中身、ムウマージだったと思う。駄目だよマツバくん、ジムの規定通りのレベルで戦わなくちゃ。 そして私は昨日と同じようにロコンと散歩をしていた。昨日と、同じ。 「リンさん、またお会いしましたね」 「あ、昨日の…」 昨日の、女の人だ。昨日と同じ着物を着ている。ロコンは、昨日と同じように威嚇していた。 「ふふ、私は貴女のロコンに嫌われているみたいね」 「え、あ、ごめんなさい!ロコン、やめなさい!」 そう言うけれど、ロコンは威嚇を止める気配は無かった。 「いいのよ、私ポケモンに嫌われる体質だから」 「…でも」 「ふふ、何時もの事だから気にしないわ。それよりリンさんは今何をなさっているのかしら?」 「ただの散歩です」 「黄葉が綺麗だものね。私もご一緒して宜しいかしら?」 「…ええ、いいですよ」 「ありがとう」 そう言うとその女の人はやはり笑うのだ。それが、何故かすごく怖い。そう思ってしまうのは、すごく失礼だけれど、やっぱり怖い。誤魔化すように私はロコンを抱きしめた。 秋色に染まる小道を、二人と一匹が進む。ロコンは私が抱きしめてるんだけれど 「あ、私貴女の名前を聞いてなかったのですけど、伺っても…?」 「あら、ごめんなさい。私、リンさんに自己紹介をしていませんでしたね。私は、ミヨといいます」 「ミヨさん、ですね。ミヨさんはエンジュに住んでいるんですか?」 「ええ、エンジュの端の方に家があります。リンさんはどちらにお住まいで?」 「私もエンジュに住んでいます」 「……そう、貴女も」 ゾクリ、何かが背中を這う。不味い、住んでいる場所を教えてはいけなかった、情報を与えてはいけなかった。そう直感した。…大丈夫、エンジュという情報だけでは、私が住んでる家までは特定出来ない。 「リンさん、私用事を思い出してしまいました。今日は此処で失礼させて頂きますわ。」 「え、」 「…またお会いしましょう」 そう言ってミヨさんはエンジュの方へ歩いて行ってしまった。 「…ロコン、」 あの人、怖い。そう言ってロコンを抱きしめた。ミヨさんは終始笑っているのだ ××× 「リン」 「あ、マツバくん」 町の入り口にマツバくんが居た。ちょっとムスッとしている。 「マツバくんバトル勝てた?」 「うん、相手弱かったしね。それより、何で一人で行ったんだい?」 「ロ、ロコンも一緒…」 「僕も一緒に行くって言っただろう?それを一人で…」 ロコン込みで一人なようだ。マツバくんのお説教が続く。あれ、私が悪いの? 「それでリン、散歩中に昨日の女性に会ったかい?」 「あ、会った…。えっと、ミヨさんって言うんだって」 「ミヨ…聞いたこと無い名前だね」 「エンジュに住んでるって…」 マツバくんが固まった。眉をひそめてマツバくんが私を見る。 「…まさか、とは思うけど…リン自分が住んでる所、言ったりしてない、よね…?」 「………ぅ」 「…まさか」 「…い、言っちゃった…」 「…リン、」 咎めるような目で私を見るマツバくん、堪えられず目を逸らす私 「で、でもね、エンジュとしか言ってないしね、エンジュだって広いから多分大丈夫」 「じゃない」 「…ですよ、ね」 「まったく…」 溜め息をついたマツバくんを見て申し訳なく思う。ごめん、何時も迷惑掛けて。落ち込みながらも、私はマツバくんに聞く。 「ねぇマツバくん…あの人、何…?すごく怖いの。ずっと顔は笑ってるんだけど、笑ってないみたいな」 「…鈍感なリンが怖いって思うんなら、それは相当危ないモノだよ」 「ど、鈍感…?…ちなみに、危ないモノって言うのはもしかしなくても…ゆゆゆ」 「うん、それ」 最後まで言ってないよマツバくん!でも、そっか…幽霊…幽霊? 「それってものすごく危ないんじゃ…!?」 「今更何言ってるの」 「ひぇっ!まままマツバくん祓って!お祓いして!」 「ああ、憑いてないから」 あれ?取り憑かれてないの私? 「リンはすごいお人好しで鈍感だからさ、人間やポケモンに気に入られやすいんだよね。裏表無くて」 「え?あ、ありがとう?」 「幽霊にも好かれやすい」 「…有り難くない、」 「敢えて取り憑かずに遠くから、確実に連れていける時を狙ってるんだ。一人の時とか、力が強くなる夜とかね」 「一人…」 「そう、だからリンは一人で出掛けないこと。…って言ってももう遅いけどね」 なんて、マツバくんは不吉な事を言いました。 |