「――え?」

僕は、自分の家にいた。別に何ら可笑しい事は無い、筈なのに違和感が身体中を巡る。なんだ?ゲンガー達が庭で遊んでいる光景をぼぉっと眺める。“いつも”の光景

「マツバや、ジムに挑戦者が来たようじゃぞ」

「あ、はい」

イタコさんが呼びに来た。遊んでいたゲンガー達をボールに戻す。ジム戦か、久しぶりだな。そう思いながら家を出た。
町並みもいつも通り、古びた家屋が並ぶ。自分が住む町、安心する筈なのにやっぱり違和感が付きまとう。何か、僕は忘れている?一体何を?疑問の答えは返ってこない







ジム戦は、呆気なく終わった。ゲンガー達は暴れ足りないのか、不満そうな顔。まぁ、早く終わったに越したことは無い。早く帰って××ちゃんの夕食を作らないと。やっぱりお世話になってる身だし、家事くらいは全部僕がやってあげよう。今日は何を作ろうか、××ちゃんの好きなものは――

僕は思考を停止させた
××ちゃん、って誰だ?知ってるはずなのに、思い出せない。忘れる筈がない、ないのに。××ちゃん…名前が、出てこない。駄目だ思い出せ、思い出さなきゃいけない。大切な記憶、女の子。思い出せ思い出せ思い出せ







「……紗季」

何かが、はじけた




×××


「――――!」

ガバッと、起きあがった。汗が、伝う。部屋は真っ暗。部屋の中にある時計をみると、短針は3を指していた。ここは、僕の家じゃない。紗季ちゃんの家。その事実に安心する。自分の家じゃない事に安心するなんて、ね。僕は笑った。

何時までも、ここにいるなんて事無いんだろう。あれは、予知夢みたいなものかもしれない。そう、僕は僕の世界に帰る。帰りたくない訳じゃない、ゲンガー達には会いたい。彼処は僕の安心できる場所だ。だけど、


自分の手を見つめる。
手が、透けて見えた。


「……」

静寂。そっと目を閉じた
帰りたくない訳じゃない。でも、紗季ちゃんと別れたくない。帰ったら、もう一生会えないだろう。“またね”ではなく“さようなら”だ。いっそ、紗季ちゃんを僕の世界に連れて帰れたらな。なんて勝手な想い。
ぎゅっと、手を握りしめ目を開く。
手は、透けてなかった。



(でも、終わりは近い)