んー…?朝?薄く目を開くとカーテンから微かに光が部屋に入り込んでいるのが見えた。ふ、と違和感。…なんか、体が重い気が…というか、苦しい…?隣に目を移す、と

「え」

すー、と寝息が聞こえる。目の前にはマツバさんの寝顔。…マツバさんの寝顔…?は…、え?落ち着いて状況を分析する。マツバさんが私のベッドに入り込んでいて、私の体に抱きついて、というか私抱き枕?腕はがっちりホールド。…え、うん?

「………え?」

夢…あ、そうか。私まだ寝てるんですね。嫌だなぁ私、なんて夢を視てるんだ。しかしこうしてじーっとマツバさんの顔を見ると、やっぱり整った顔してるなぁ、と思う。モデルとかのスカウトが来そう、格好いいし…って私ってば何考え「…ん?あぁ紗季ちゃん起きたんだ、おはよう」

「あ、はい。マツバさんおはようございます…って違う!違いますマツバさん!」

「?朝だよ」

「朝はわかってます、私は寝ぼけてません!暢気に挨拶じゃなくてなんで私のベッドで寝てるんですか!」

「人肌恋しくて」

何を言いますかこの人は!この前から度が過ぎたスキンシップで私の心臓は耐えられない。この前のディー…あああ!思い出しただけでもう駄目だ。

「と、とりあえず離れてください」

未だにマツバさんに抱きつかれたままだった。ぐっと腕に力を入れ、離れようとマツバさんの身体を押す。

「もうちょっと…」

「駄 目 で す」

「人肌恋しいって言ったじゃないか」

「知りませんよ!てか私、仕事行かなきゃいけないんですけど」

部屋の時計の短針は6を指していた。朝御飯作って色々準備しないとなんだけどな。

「あと5分…」

「あと5分という言葉は信用しません!」

5分じゃ離れないと私は予想します。朝御飯無しで良ければ別に良いですけどね。…あれ、私だいぶマツバさんの行動普通に受け入れてる?待って私、マツバさんに丸め込まれちゃ駄目よ!

「朝ご飯は僕が用意するから紗季ちゃんは出る支度しなよ」

「え?」

「前も僕、言ったじゃないか。朝は紗季ちゃん忙しそうだから僕が家事やるって。」

「いや、でもマツバさんには夜ご飯作って貰ってるし…ていうかその前に抱きつきながら話すのやめてください」

「まだ5分経ってないから却下。家事は全部僕が引き受けるよ。僕、外で働けないし」

僕、この世界に戸籍無いから。という台詞に言葉が詰まった。身分証明になるものがなければ、働き口は見つからないのは分かっている。そういえば前、気にせずごろごろしちゃってて良いですよ、って言ったらマツバさん、「それじゃ僕、ただのヒモじゃないか…」って落ち込んでたっけ…。


「…はい、5分経った」

そう言ってから、私はマツバさんの腕から解放された。


「僕はさ、自分が出来る事はやりたいよ。お世話になっている身だしね。」

「でも、」

「紗季ちゃんが気にすることなんて、何もないじゃないか。僕がやりたいからやる、ただそれだけだよ」

「……わかり、ました。でも料理は交代で、私だって料理したいですから」

「うん、決まり。じゃあ僕は朝ご飯の支度してくるよ」

そう言ってマツバさんは私に背を向け、部屋から出て行った…うん?なんか、あれ?おかしくない?




…?
……ああぁああ!!!



「マツバさん!なんか良い感じの話して私の部屋に勝手に入ってきた事有耶無耶にしましたね!!!」

「…ほら、紗季ちゃん支度しないと仕事に遅れるよ?」


…仕事から帰ってきたら、とことん話し合おうと思います