私は、父様の言い付けを守らない悪い子です。でも、仕方ないじゃないですか。体が弱くてあまり外に出られず、屋敷の中が私の世界。調子が良い時でさえ、父様は私を外へは出してくれないのです。だから、父が仕事へ出かけたとき、私はこっそり外へ出ました。心優しいメイドが、「少しだけですよ」と言って裏口を開けてくれるのです。あまり、遠くへは出かけられません。街までは距離がありますし、屋敷の周りは自然でいっぱいです。草花を見るのは好きなので、私は幸せなのですが。言ってしまうと「何もない」です。
あるとすれば…屋敷の裏には、大きな鉱山があります。危ないから鉱山には行かないでくださいとメイドに言われましたが、興味がわきました。山も海も、行ったことが無かったのですから。少し、本当に少しだけ行ってみることにしました。
鉱山は真っ暗かと思えば、所々天井に穴が開いて空が見えます。崩れる気配はないので、私は足を進めました。あまり、奥の方まで行くつもりはありません。
鉱山の壁は、所々きらきらと光っていました。小さな、ガラスの欠片みたいなものです。私は子供みたいに、少し大きめの欠片を集めました。手に集まるそれは、宝石みたいにきれいでした。

「あまり奥へ進むと帰りが遅くなってしまいますね…」

私は引き返そうとしました。

「え?」

目の前が真っ白になりました。少し後ずさると、視界が開けます。何事かと確認すると、天井から降り注ぐ太陽の光が、何かに反射していたようです。反射していた何か、を探すと、地面に光る石がありました。

「綺麗…」

透明な、石でした。太陽の光を浴びずとも、白い光を放つ石。宝物を見つけたように嬉しくなりました。これは、なんという石でしょうか?屋敷に帰ったら、調べてみましょう。漸く、私は屋敷へと引き返しました。
屋敷に帰ると、メイドが駆けつけました。遅いから心配しましたよ!と怒られてしまいました。

「ねぇ、ノエ…この石はなんという石かわかる?」

「お、お嬢様…まさか、鉱山に行ったのですか!?危ないですから鉱山には行かぬよう申し上げたはずです!」

「で、この石はなんという石か、わかる?」

「…お嬢様、私の話を聞いてくださいよ…」

はぁ、とため息をついたノエ。ノエは私が小さいころからこの屋敷で働いているメイドです。唯一、私が敬語を使わない相手。ノエは私に甘いから…

「書斎に行けば、図鑑があると思います。お持ちしますね」

「ありがとう!」

私は、ノエに甘えてしまうのです。ノエも私に敬語を使わなくてもいいのに…そう思ったこともありますが、そこは割り切らないといけません。主人とその家族に敬語を使わないメイドは、解雇されてしまいますから。

「お嬢様、お持ちしました」

「ありがとうノエ」

ノエから分厚い本を受け取ります。私はゆっくりとページを開きました。きらきらとした石が沢山載っていました。石ってこんなに種類があるのですね、私の世界はやはり狭いようです。もっと、いろんなものを見たいです。

「あ…これ、かな?」

白く光る石を、図鑑の上へ置きます。形は違いますが、同じものです。

「……ひかりの、石?」

ひかりの石という名前の石のようです。名の通り、光のようです。私はひかりの石を握りしめました。ふと、隣のページへ目を移しました。

「やみの石?」

黒い…というよりは紫色の、透明感ある石でした。まるでそれは、

「夜空みたい…」

闇、というと負を連想しますが、やみの石は夜空みたいにきらきら光っていました。綺麗…

「いいなぁ…」

やみの石をすっかり気に入ってしまいました。明日、体調が良かったらまた鉱山へ行きましょう。今度はやみの石探しです。
私は小さな欠片とひかりの石を宝箱へとしまいました。

明日も、晴れますように。