【side:A】
「伏見さんは美咲美咲五月蝿いです」

聞く耳を持たない伏見さんはこちらを見向きもせず私の話を聞き流す。それでも、私は続ける。

「伏見さんが吠舞羅の裏切り者だとか、そんな話はどうでもいいんです。私、元々伏見さんのこと嫌いでしたから」

ふと、伏見さんは私を見た。目が合う。私は、挑発的な笑みを浮かべて吐き出すように言い放った。

「みーちゃんは、伏見さんなんかに絶対あげないです」

はっ、と伏見さんは笑った。蔑みの目だった。余裕ある顔が本気でムカつく。




【side:B】
偶々会ったあいつに路地裏連れていかれた。まためんどくさいことが起こりそうだ。こいつは俺が吠舞羅にいた時から、俺を嫌っていて、そして美咲が好きだった。まぁ、童貞の美咲がこいつと普通に会話できるわけもなく、一方通行だったけど。

「伏見さんは美咲美咲五月蝿いです」

ほーら、小言が始まった。俺はそれを聞き流す。俺は別に、こいつのことが嫌いじゃない。美咲と、同じだ。ふと、目があった。

「みーちゃんは、伏見さんなんかに絶対あげないです」

あーあ、本当に面白いな。俺は笑った。俺は気づかれないように、ナイフに手を伸ばした。

(俺は、お前のこと結構好きだけど?)

に染まれ

人間になれなかった狼
title by休憩